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「一数学者の弁明A Mathematician’s Apology」G.H.Hardy,C. P. Snow1940

原題:G H Hardy,C. P. Snow「A Mathematician’s Apology」(1940)という本があります.
Apology(Апология)=謝罪は弁明という意味で使われているようです. 
邦訳『ある数学者の生涯と弁明』丸善〈シュプリンガー数学クラブ>
私家版翻訳『ある数学者の弁明』松本佳彦 https://ymatz.net/hardy/

■似た題名の本に,次のものがありますが,時代も新しく内容も全く異なります.
「数学の弁明」.原題「Апология математики」(2009),著者はウラジミール・ウスペンスキー(Владимир A. Успенский).著名な数学者コルモゴルフの弟子で数学者,言語学者.1966 年から 2018 年まで,モスクワ大学の数理論理およびアルゴリズム理論の学部長モスクワ大学教授.2017年に第2版が出版されています.邦訳はありません.この本の内容に関しては,noteの別の記事として取り上げていますので,そちらをご覧いただければ幸いです.

■「一数学者の弁明」
数学者ハーディが,1940年時点(63歳)で,自分の生涯と弁明を語っている内容の本です.ニュートンの後,大陸に大きく遅れをとっていたイギリスの純粋数学は,ハーディやリトルウッドの出現で,一流のレベルに引き上げられた.ケンブリッジやオックスフォードで教鞭をとり,近代的な解析学の教科書を英語で書いたのはハーディ自身であった.(逸話)数学者に点数をつけるとすれば,「自分は25点、リトルウッドは30点、ヒルベルトは80点、ラマヌジャンは100点」であると言った.(wikiより)

本の内容から何点か引用しましょう:
数学について書くことは、プロの数学者にとって悲しい。数学者にとって有意義なのは、新しい定理を証明して数学の知識を増やすことで、自分や他の数学者が行ったことについて話すべきではありません。

数学は応用のためではなく、それ自体のために継続されるべきです。

真の数学は戦争に影響を与えないということです。数論や相対性理論が役に立つ軍事や戦争関連の問題を発見した人はまだ一人もおらず、何年先の未来を見ても、そのような問題を発見できる人はまずいないでしょう。

初等数学の大部分が、実際的にかなり有用であることは否定できない。これらの数学は、総じて退屈で、美学的価値に最も欠ける部分にすぎない。
〈真の〉数学者による〈真の〉数学は、つまりフェルマー、オイラー、ガウス、アーベル、リーマンの数学は、全く〈有用〉でない(これは「純粋」数学の場合でも「応用」数学の場合でもそうである)。いかなる本物の専門的数学者の人生も、彼の仕事の〈有用性〉を根拠として評価されるわけではない。

純粋数学者は自身の仕事の非有用性を誇りとしており,それが実際的応用をもたないことを鼻にかけているという非難もある.
また,科学は善ばかりでなく悪のためにも用いられるという意見もある.

巨大な高等数学の一部は役に立たない。現代幾何学と代数学、数論、集合論と関数、相対性理論、量子力学 — これらの科学のどれも、有用性の基準を他のものよりもはるかに満たしてはおらず、これに基づいて人生を正当化できる真の数学者は一人もいません。この基準に固執するなら、アーベル、リーマン、ポアンカレは無駄な人生を送ったことになります。人類の快適さへのそれらの貢献はごくわずかであり、それらのない世界は何も失うことはありません.

(私のコメント)
ハーディの論説の一面は理解できるが,現代から見ると多数の見落としがあり非常に偏っているように私は思います.正しい一面もあるが,極端な見解だと私は思います.純粋数学と有用性が背反であるように故意に結び付けているように見えます.説明不足による誤解もありますが,当時でもさまざまな反論があったようです.

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