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新型コロナウイルス感染症と統計数理,土谷隆(政策研究大学院大学)

■数学月間の第2日(7.31)は,表題のzoom講演を実施しました.
本講演時点で行政が把握していた累積国内感染者は,約903,324名(都内210,610名),死亡者は,15,175名(都内2,288名)でありました(2021/7/30現在).今,振り返ってみれば,この時期は第5波の成長途上で,この半月後に第5波のピークを迎えます.これは,7月23日~8月8日のオリンピック開催による人流増加が関係すると思えます[小池都知事が言うようなTV観戦によるスティホームの効果は疑問です].新型コロナウイルス感染症の流行が,欧米でなぜ激しいかなど,まだ未知の部分が多く残されています.
従来のSIR,SEIRモデルついては,昨年の稲葉講演(数学文化No.35)を参照ください.土谷講演は,判明したコロナの病態を考慮したSIRモデルに関します.それは,感染力を表現するパラメータβ(t)に,感染能力の保持期間Dを入れたことと,感染力は未感染者の割合にも比例するので,S(t)/Nをβ(t)に乗じたことです.
ここで,S(t)は感染感受性のある者,I(t)は感染力保有の感染者,R(t)は免疫保有の回復者,Nは全人口です.
感染者の変動:I(t+1)=I(t)+β(t)I(t)S(t)/N-β(t-D)I(t-D)S(t-D)/N
未感染者数の変動:S(t+1)=S(t)-β(t)I(t)S(t)/N
免疫保持者の変動:R(t+1)=R(t)+β(t-D)I(t-D)S(t-D)/N
感染してW_1日で発症,それからさらにW_2日後に行政によって発表されるとします.

[つまり,感染日は不明だが,W_1日経過して,PCR検査で発見される.このとき,発症している場合もあれば無症状の場合もある. 症状の有無にかかわらず,感染からD 日間感染力を有する.PCR検査日から陽性判定され発表日までの行政遅れは,W_2 である.これらは,発表データから推定されるが,W_2 は数日程度,D=15日程度で,W_1とDが特に知りたいパラメー タである] 

感染から発表まで行政遅れW_1+W_2の存在と,全感染者のうちの1/Cだけを行政は把握できるとし,これを行政的感染者と呼びます:P(t+W_1+W_2 )=β(t-1)I(t-1)/C.
行政的感染者のうち割合r_0が発症するとします.t日の新規感染者が発症するまでにW_1日の遅延があるので,t日の発症者数H(t)は,次のようです:
H(t + W_1) =r_0 β(t - 1)I(t - 1)/C.
行政で発表されるデータを使い推定するので,行政発表の遅れW_2や行政的感染者の概念を度y乳する必要がありました.発表された新規感染者のデータを用い推定を行い,以下のパラメータが得られました:
D=15日(感染して人に伝染させる期間),C=23(行政が把握している感染者の何倍くらい実際に感染者がいるか),C=23は6月時点のもの,7月22日時点ではC=8まで下がっている).W_1+W_2=9日,W_1=5日,r_0=0.6.

[W_1=5というのは,感染して5日目がウイルス放出量が最も多くPCR検査で発見されやすい(数学文化No.36,p.66)という事実とよく一致する]

これらに基づいてβ(t)を推計します.β(t)が1を境にして,感染の拡大/縮小が決まります.感染拡大が起こると,介入がなくても行動変容や自粛が起き,感染は縮小するが,緩むとβ(t)はまた増加する傾向があります.適切な介入やワクチンの影響はβ(t)の減少となって現れます.モデルに基づきどのような介入をすれば感染の縮小が起こるか予測することができます.
わかりやすいモデルの構築は,意思決定責任者と専門家のイメージの共有を促進し,国民の信頼と納得感に直結するので重要です.

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