片面のみの平面
片面のみの平面one-sided-planeと両面ある平面two-sided-planeとはどのようなものでしょうか.ただし,平面は離散平面でも連続平面でも良いことにします.
a b c
図aと図bのどちらも,表面と裏面とでは性質が異なります.図aは,表面に+電荷が帯電し,裏面にはー電荷が帯電した電気二重層の例です.表面に沿って並進を繰り返す(あるいは,連続移動)しても,途中で表面の性質が裏面の性質に変わることはありません.従って,表裏の2面(両面)が存在し,その境界となる「面を一周する」縁があります.
1面(片面)しかない平面は,メビウスの帯やクラインの壺から連想できるでしょう.表面だと思って表面をたどって移動していくと(並進すると),いつの間にか自然に裏面になってしまう,さらに,そのまま進むと初めに居た表面にもどります.面は表裏2面あるようですが,実は1つの同じ面なのです.従って境界は存在せず縁もありません.図cがその例です.
aは極性平面, bは軸性平面, cは捩性平面,と呼ばれます.
■片面帯(one-sided band)の対称性
特異点のない図形の対称性について
特異点(線,面)の概念は,有限図形の特別な変換のクラスに関して導入されます.図形は,この特別な変換クラス以外の変換では,不動点を持たないとします.特異点のない無限図形を得る最もシンプルな変換は,直線に沿った並進(有限距離の平行移動)です.この並進を無限回繰り返すと,直線のどの点も無限回繰り返されて,同価点が無限個並びます.そして,その直線(並進軸)は特異線になります.特異直線に加えて,並進により自分自身に重なる特異な片面(極性)面を持つならば,その図形は片面帯(one-sided band)と呼ばれます.「帯」や「ロゼット」などは,普通に使われる用語で概念の定義があいまいですが,ここでは完全に専門科学術語として用いていきます.
帯に必要な対称要素は並進軸
地下鉄通路や交差点の縁飾り
[要約]上に示したのはone-sided帯の例です.この例の横方向に並進がある縁飾りはone-sided面としたので裏面が存在しません.表面と裏面があり両者の間に対称操作が定義できるのはtwo-sided面です.
横1行の図形全体が,直線ABに沿ってaだけ動かすと(図形内の互いの位置関係を変えることなく),図形の1つがその隣の図形に一致するように,図形の全体は始めと違う新しい位置に動きます.直線ABを並進軸と呼びます.距離aの変位をしても,無限の図形なら如何なる変化も起きないので,望むだけ何度でも変位を繰り返せます.図形の変位はABの方向でも,逆の方向BAの方向でも同様の結果になります.すべての平行移動の集合は,この無限図形に対する並進群という新しい対称クラスを作ります.図形の行を並進した結果,初期位置と一致するような,最短の並進距離aを単位並進,あるいは,周期といいます.1次元の並進軸はaと表記します.これは無限の図形で存在できる対称要素であります.特異点がある有限や無限の図形は,並進軸を持つことができません.なぜならば,並進軸があるならば,図形の特異点は無限に繰り返され特異点ではなくなるからです.
対称要素aだけの帯(モチーフ部分図形は非対称)の例を示しました.帯を投影している紙面は,考察中の線形飾りの対称面ではない(one-sided)と仮定します.わかりやすくするため,一番上の図の帯の例で,片面が黒もう片面が白の3角形のカードボードをイメージしましよう.すべての3角形が黒側を観測者に向けています.紙面が対称面でないなら,図形は片面帯で裏面はありません.この帯のタイプは,並進軸に極性があります.つまり,(左右が対称ではない)AB方向とBA方向とでは性質が異なります.この図の帯を左から右へ追ってみると,常に,黒い3角形の先端から出現し,逆向きに追うと最も短い辺から現れます.並進軸の方向に極性があると,知らず知らずのうちに前進する印象を与えます.