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極性ベクトルと軸性ベクトル★

空間の座標系は,現象を記述するために人間が定義したものでありますから,座標系の有無にかかわらず空間に実在する現象は変化しません.空間の座標系は,原点,3方向の規格直交基底[$${e_{x}, e_{y}, e_{z}}$$]からなります.
右ネジとは,ドライバーでネジを回すとき,ネジの進む(締まる)回転方向が,右回りであるものです.
座標が右手系であるとは,$${e_{z}}$$の正の方向に右ネジの先端を向けて置いたとき,$${e_{x}}$$軸を90°回転すると$${e_{y}}$$軸に重なる丁度右ネジと同じ状態のことです.これは,ベクトル積の定義で $${e_{x}×e_{y}=e_{z}}$$と記述されます.
一般に,2つのベクトルA, Bが与えられたとき,A,Bの外積Cとは,A×B=Cと記述し,ベクトルCの方向は,ベクトルAをベクトルBの方向に回転し一致させる回転で右ネジの進む方向,ベクトルCの大きさは,A, Bを2辺とする平行4辺形の面積です.
外積は右ネジになるように定義されますから,外積の因子になるベクトルA,Bの順番を変えると回転方向が変わります: B×A=-A×B

座標軸の1つ(例えば,$${e_{z}}$$軸だけ$${e'_{z}=-e_{z}}$$と反転:他の軸は変えない)を反転すると,始めの右手座標系[$${e_{x},e_{y},e_{z}}$$]は,[$${e_{x},e_{y},-e_{z}}$$]とz軸の向きだけ変わるので,左手系になります.
この場合の右手系[$${e_{x},e_{y},e_{z}}$$]と左手系[$${e'_{x},e'_{y},e'_{z}}$$]の関係は,z軸に垂直な鏡(鏡面はx-y平面)で互いに変換し合う関係です.

座標系の2つ(例えば,$${e_{x}軸とe_{y}}$$軸を反転: z軸は変えない)をそれぞれ反転すると,得られる座標系は始めの右手系のままで変わらないことがわかります.得られた座標系は,始めの座標系をz軸を回転軸に180°回転したもの(2回回転対称の関係)になります.

3次元座標系の3つをそれぞれ反転して得られた座標系は,始めの座標系に対し,点対称の関係になり,始めが右手系だったら,反転後は左手系になります.

結局,2つの座標軸を反転したパリティ偶数の場合は,右手系のままで変化せず,パリティ奇数の場合に,左手系に変わることがわかります.

極性ベクトルとは,位置,変位,速度,力,運動量など矢印で標記される普通のベクトルのことです.ある極性ベクトルを,右手系で記述しても,反転した左手系で記述しても変わりません.なぜなら,右手系では,$${e_{z}}$$軸の座標がcと記述されるとして,反転した$${e'_{z}=-e_{z}}$$軸をもつ左手座標系では,
同じ点の座標値が-cとなりますが,$${(-c)(-e_{z})=c(e_{z}))}$$と記述され,空間に実在する極性ベクトルの記述に変化はありません.

軸性ベクトルは,角運動量,モーメントなどの2つのベクトルの外積で定義されるものです.角運動量は,位置ベクトル×運動量ベクトルで定義されます.
ベクトルの外積で与えられるベクトルの向きは右手系と左手系では逆転します.これは,外積の定義を右手系で定義したためで,この定義は座標系が左手系になっても変えません.
要するに,軸性ベクトルの実態は,2つのベクトルの外積で生まれる回転方向の定まった渦です.この回転面に垂直なベクトルで回転を表記しようとするものが軸性ベクトルで,その軸性ベクトルの方向を外積の定義に合わせて定義した(座標系に係わらず)からです.
従って,角運動量が空間に実在する一意の回転状態であるにもかかわらず,座標系が右か左かでその軸性ベクトルの符号が変わります.

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