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TV受像機の思い出

■アナログ放送からデジタル放送へ

これからTVの思い出を語るのですが,懐かしいTV番組の話ではありません.TV受像機の話です.ご記憶のことと思いますが,2003年に地上デジタル放送がスタートしました.これ以前のアナログ放送からデジタル放送への切り替えは大きな出来事でした.デジタル放送の方が色々なメリットがあり,デジタル化があって,現在のハイビジョンや4Kも実現しました.BSデジタルの開始時に地上波もデジタルに切り替えるべきでしたが,だいぶ遅れをとりました.

■ブラウン管から液晶へ

もう一つのTV受像機の画期的な転機は,ブラウン管から液晶への切り替えです.2009年には液晶TVの普及率が55%を越えどんどん伸びて来ました.
私が新入社員で入社した(1970年)会社では,フラットパネルディスプレイの研究が始まっており,私は初期のプラズマディスプレイに係わりました.しかし,ブラウン管と蛍光体の表示装置というのは優れモノで,これを置き換えられる表示装置の実現は遠い未来のことに思えました.そしてやはり,製品として普及するのには,その後30年の年月を要したわけです.

ブラウン管の仕組みは,電子銃が3本(R,G,B用)あり,それぞれから出る電子ビームがシャドーマスクの穴を通リ,R,G,Bの蛍光体上に命中します.この電子ビームは偏向磁石により左右・上下にスキャンされラスター画面が出来上がります.(ラスター)走査線の数は525本ですが,その半分ずつで1画面を作り60サイクルで画面が更新されます.3つ組の電子ビームがシャドーマスクの同一の穴を通らずに,一部が隣の穴を通ったりすると色ずれが起こります.トリニトロンのようにシャドーマスクがスリット(穴ではない)のものもあります.蛍光体の分布もブラックマトリックスのような工夫があったりして,最後に行きついたブラウン管TVの技術はずいぶん精緻なものになりました.

ブラウン管と液晶のTVとの基本的な違いは,駆動回路にあります.ブラウン管では真空中に電子ビームを飛ばすので,高電圧を印加する必要がありますが,液晶では高電圧は必要ではありません.ブラウン管で電子ビームを掃引するのは偏向磁石により,その動作からわかる様に本質的にアナログのデバイスです.これに対して,液晶にしろプラズマにしろフラットディスプレイは画素があり本質的にデジタルです.

■真空管,トランジスタからLSIへ

TV受像機で起きた変化で,注目すべき第3の点は,電子素子の世代交代です.ご存じのように最近の回路はLSIを用いています.その前はトランジスタで代表される個別固体素子,さらにその前は真空管です.

昔(トランジスタ,真空管の時代)は,TV受像機を買うと回路図もついてきました.故障したら修理するときに必要です(修理が可能).NHK技能講座 「テレビの故障修理」というNHK教育TVの番組(1964年頃)があったほどで,私も良く見ていました.

現在はTVを買っても回路図はついてきません.一般人がTV内部を開ける(昔のようにネジを回してユニット内部を開ける)ことを拒絶する作りになっています.プロが修理するときも内部の基板ごと交換する方式です.技術者自身が,エンジニアではなくチェンジニアだと揶揄する状況になりました.楽しみながら修理する趣味もなりたたなくなったのは残念なことです.

■真空管からトランジスタへ

トランジスタの普及時期は1960年頃になってからです.私は高1で無線班におりました.今手元に,ボロボロになった雑誌「電波世界」1959年4月号(定価120円)が,捨てきれずにあります.なぜ捨てずに手元にあるかというと,当時,無線班の先輩から貰ったものだからです.内容は全部真空管回路ばかりです.当時は,トランジスタは,低周波増幅用の安いST300でも300円くらいしました(蕎麦は35円の物価水準でした).工作道具の半田鏝も,真空管の時代,LSIの時代,表面実装の現在となり様変わりしました. 
高1の頃,自転車通学の先輩の自転車で高田馬場の電気店に足りない部品の買い出しに行くように言われたことがありました.自転車は車道しか走れません.ひやひやしながら車道の路側を走るしかありません.戸塚交差点まで来て,そこから高田馬場駅方面に向かいますが,目的の電気店は右側なので,やむおえず交差点からほんの数mだけ歩道を走ったところで警官につかまりました(今日,歩道を疾走する自転車に,私は腹が立ってなりません).無線班はテストの成績が悪いとのことで活動停止になったりしたこともありました.しかし,先輩から貰ったこの雑誌をみると先輩は回路のことをずいぶんよく勉強していたことがわかります.

閑話休題,この「電波世界」(1959年)に載っているTV(ナショナルT-14RIF)の回路図も真空管式です.オールトランジスタのTVは,1960年に東芝が発売しました.100MHzの高周波で使えるトランジスタを開発し,耐高圧シリコンダイオード2本を使い倍電圧整流をし,ブラウン管以外はオール半導体化したTVでした.

■DIYのTV修理

故障の症状を見て,原因を探しあて修理するのは面白いものでした.NHKの技能講座の内容もそのようなものでした.この技術講座の時代は真空管のアナログTVが対象(50年以上前の時代)でした.例えば,ラスターが横一線になる故障症状なら,垂直発振,同期,高圧,等々の候補原因をチェックするなどです.このような,原因ー結果の樹形図はベイジアンネットワークのグラフを思わせます.結果(故障症状)からネットワークを遡り原因の可能性の大小を推定するのは,今考えると,ベイズ推定と同じだということに気づいたことが,今回の記事を書く動機になりました.

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