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Penroseタイリングは量子誤り訂正コード

Zhi Li and Latham Boyle:arXiv:2311.13040v2 [quant-ph] 25 Jan 2024 から抜粋解説:

Penroseタイリング(PT)は,平面の非周期なタイリングであり,多くの驚くべき性質を持つている.一方,量子誤り訂正コード(QECC)は,量子情報をノイズから保護する巧妙な方法である.PTとQECCとは全く関係がないように思うかもしれないが,この論文は,PTが注目すべき新しいタイプのQECCを生み出すことを指摘している.
量子情報を 量子幾何学によって符号化するのだが,有限領域内(局所的)のエラーや消失は,領域がどんなに大きくても検出され修正できる可能性がある.

■ 緒言
Penroseタイリング(PTs) は,1970年代に発見された2次元平面のテッセレーションで,その美しく予想外の性質は,物理学者や数学者を魅了してきた.
これらのタイリングは,本質的に非周期でありながら,完全な長距離秩序を持つ.自己相似性を持ち,周期的パターンでは禁止される10回対称性を持つ[訳者注)局所的,あるいは,ベクトル対称的な意味での10回対称].
1980年代に,これが準結晶の青写真であることも判明した.準結晶は,研究室で発見されたが,後に,自然界(太陽系の誕生,落雷,最初の原爆実験など)においても発見された.

量子誤り訂正符号(QECC)は,量子情報を高度な冗長性を用いて符号化する方法であり,ある種のエラーを検出修正し,元の量子情報を復元することができる.このようなコードは,物理学において,深く広範な役割を果たしている:量子コンピューティン;凝縮系物理学;量子重力などの分野

PTとQECCは全く無関係に見えるかもしれないが,深いつながりがある.
QECCの性質
量子エラー訂正の基礎となるのは,「回復可能性」(または訂正可能性)と「識別不能性」の等価性である:ある空間領域$${K}$$における任意のエラーと消失は,その領域が論理情報を含まない場合に限り訂正可能である;正確に言えば,コード空間の様々な状態が領域$${K}$$において識別不能である場合にのみ符号化される.(量子情報は局所的領域ではなく,全域的な方法で符号化される)

PTの性質
回復可能性」と「識別不能性」という類似の概念がある.
「識別不能性」:PTは実際には無限に存在し,それらは 全域的には不等価である.あるPTを平行移動したり回転させたりしても,他の異なるPTと全域的に一致させることはできない.しかし,全域的には不等価であっても,局所的には識別できない.つまり,どのPTのどの有限パッチ(それが、どんなに大きくても)でも,他のどの異なるPTにも出現する(どんなに大きな有限領域を探索しても,どのPTを探索しているのかを判断することはできない).
「回復可能性」:PTの有限領域$${K}$$を消去した場合,その領域がどんなに大きくても,その欠損領域をタイリングの残りの部分(補空間領域$${K^c}$$)の知識から一意に回復できる.
PTの識別不能性と回復可能性の概念は,QECCのそれとよく似ている.ただし,前者は幾何学的配置に関する古典的な性質で,異なる空間領域に関係するが,後者は符号化された量子状態(重ね合わせ量子状態を含む)に有効な性質で,同じ空間領域内の異なる量子状態に関係する.

(a) Penroseタイリングを構成する2つの菱形,痩せた菱形(緑)と太った菱形(青). タイル内部に描かれた黒い線分がAmmann線. (b)  Penroseタイリングのインフレーションルール.親菱形がインフレーションを起こすと,いくつかの子菱形の半分が生成される.この子菱形の半分は,隣接する親菱形のインフレーションによって生じる子菱形の半分(薄い色で示す)と組み合わされると親菱形と同じ菱形になる.

■「識別不能性」と「回復可能性」

上図のタイルの縁の矢,または,Ammann線によるマッチング規則は,PTを完全に決定するわけではない:現実に数えきれない全域的には非等価なPTsが存在する.しかし,これらの非等価なPTは互いに密接に関連している.
数学的には,これらは局所的には識別できないという同じ同値類に属する:あるPT($${T}$$)に存在する任意の有限パッチは,他の任意のPT($${T^′}$$)にも出現しなければならない.したがって,絶対ユークリッド座標(原点の位置,$${\hat{x}}$$,$${\hat{y}}$$の方位)がなければ,非等価なPTはその「全域的な」振る舞いが異なるだけで,どんなに大きな有限領域を検査してもそれらを識別することはできない.
局所的識別不能性のより強力で定量的なバージョンは:$${T}$$のすべての有限パッチが$${T^′}$$に現れ,その逆も同様に成立するだけでなく,異なる有限パッチの相対的な頻度も同じである.実際,相対頻度はインフレーション・ルールからのみ計算できる.

もう一つの重要な特徴は,局所的復元可能性である:任意の有限領域$${K}$$のパターンは,補空間領域$${K^c}$$のパターンから一意に復元できる.これは,$${K^c}$$から$${K}$$へとAmmannバーを延長することができるため平面全体のAmmannバーを回復することができ,したがって,PT全体が回復できる.

■ QECCsの原理

保護したい量子情報は,ヒルベルト空間$${H_0}$$内の量子状態であるとする.QECCは,この量子状態を慎重に選択された冗長性とともに保存することで,ある種のエラーを識別し修正することができる.正確に言えば,"論理 "の量子状態のヒルベルト空間$${H_0}$$は,コード空間と呼ばれる慎重に選択された部分空間$${C}$$として拡大されたヒルベルト空間$${H}$$に埋め込まれ "符号化 "される.

本論文で扱う訂正可能なエラーは,任意の有限空間領域$${K}$$の消去で,結局,領域$${K}$$の任意のエラーは訂正可能である.
領域$${K}$$の消去が訂正可能であるのは,$${K}$$が論理情報を含まない場合,すなわち,符号空間$${C}$$の様々な状態が,$${K}$$において識別できない場合に限られる.Eq(1)参照.
空間領域$${K}$$は固定されていないことに注意しよう.空間全体は,それぞれがQECC条件を満たし,情報を含まない多数の$${K}$$の合併であるので,分解することができ,QECCでは量子情報は "全域的 "に保存される.

$${H}$$を$${H_{K}⊗H_{K^c}}$$と考えると(ここで,$${H_K}$$と$${H_{K^c}}$$は,空間領域$${K}$$と,補空間領域$${K^{c}}$$のヒルベルト空間である).識別不能性は次のようになる:

$${Tr_{K^{c}} |ξ⟩⟨ξ| = Tr_{K^{c}} |ξ^{'}⟩⟨ξ^{'}|}$$                                          (1)
$${^∀|ξ⟩ ,|ξ^′⟩∈C}$$は規格化されている(ここで、$${Tr_{K^c}}$$は$${H_{K^c}}$$のトレース).
空間$${C}$$が状態 $${|ψ_i⟩}$$で張られるとすると,式(1)は次の式と等価である.
$${Tr_{K^c} |ψ_i⟩ ⟨ψ_j| = ⟨ψ_j|ψ_i⟩ ρ_K}$$,    $${^∀i, j}$$     (2)

ここで,$${ρ_K}$$($${H_K}$$の演算子)が$${i,j}$$に依存しないことが重要である.上記の基準では,$${\{|ψ_i⟩\}}$$は規格化されていないか,直交していないか,あるいは過完備である可能性がある.
保護される状態 は "基底 "状態$${|ψ_i⟩}$$に限定されないで,任意の重ね合わせ量子状態($${C}$$の任意の状態)でよいことを強調しておく.

このような背景を踏まえて,任意の有限空間領域$${K}$$で,任意の消去とエラーを訂正できるPT QECCを構築する準備が整った.

訳者注
ペンローズタイリング内の任意の部分系は,部分系の外のタイリング状態から決定できる.その理由は,ペンローズタイリング全体を通してammann線が存在するからだ.これは,量子力学の次のアナロジーを思わせる.
全体系の波動関数は存在するが,部分系の波動関数(固有関数)は存在しない.しかし,波動関数(固有関数)を持たない部分系の状態は,部分系の外で定義される密度行列を用いて記述できる.



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