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立体万華鏡

正多面体の二面角は,多角形の頂角のように単純ではありません.凸正多面体Mとその頂点Cを中心とする小球の交差線で,凸球面多角形が形成されます.
頂点Cからq本の辺が出ているとすると,凸球面多角形の辺の二面角の和はπ(q - 2)よりも大きい.
正多面体Mのすべての二面角がπ / 2を超えない場合(たとえば,コクセター多面体の場合),各頂点から出る辺は3本だけであることがわかります.この最後の性質を持つ多面体を単純多面体と呼びます.四面体や立方体は単純多面体ですが,八面体は単純多面体ではありません.

しかし,この単純な不等式だけでは,凸多面体の二面角の関係を網羅することはできません.最も単純なMが三角錐の場合について考えてみましょう.その面に番号をつけ,i 番目と j 番目の面のなす角を α_{ij} = α_{ji} とします.ユークリッド三角錐の二面角が次の関係にあることは,線形代数によって簡単に証明できます.

左辺の行列式は,ピラミッドの面に対する単位法線ベクトルのグラム行列式[ベクトルの内積が成分]で,0に等しいのは,これらのベクトルが線形従属であることによります.二面角αとすると,それぞれの面の垂直ベクトル間の角度はπ-αだから,cos(π-α)=-cosα です.
ユークリッド三角形とすると,α_{12}=α, α_{13}=β, α_{23}=γ だから,

この簡単な場合からは,α+β+γ=π が得られます.

関係式(6)は,先に導いた不等式と合わせて,二面角α_{ij}を持つ三角錐がユークリッド空間に存在するための必要十分条件となります.これを利用すると,二面角がπ/整数であるユークリッド空間の三角錐をすべて求めることができ,その数は3つです.図7で,マークのない辺の二面角はπ / 2,マーク|,あるいは,マーク||のついた辺の二面角は,それぞれ,π / 3またはπ / 4です.図7のピラミッドのうち,1つ目のピラミッドを対称面によって切断すると2つ目のピラミッドが得られ,2つ目のピラミッドを対称面で切断すると3つ目のピラミッドが得られます.

3次元ユークリッド空間には,この3つの万華鏡のほかに,ある意味で2次元に還元された万華鏡が4つだけあります.これは、直角プリズム(3角柱)の底面が2次元の万華鏡であるものです.

3次元ユークリッド万華鏡は,結晶学と密接な関係があります.このような万華鏡の中にいくつかの原子を配置し,万華鏡の壁で繰り返し反射させ得られる像をすべて調べると,結晶格子を得ることができます.つまり,図7に示した万華鏡のうち,1番目の万華鏡で,炭素原子Cを図に示した2つの頂点に置くとダイヤモンドの結晶格子が得られ,2番目の万華鏡で,ナトリウムNaと塩素Clの原子を図に示した頂点に置くと,食塩の結晶格子が得られます.

3次元球面上の万華鏡をすべて見つけることも難しくありません.このすべてが,球面三角錐です.この場合,ユークリッド平面から球面に移るとき,三角形の内角の和がπより大きくなるので,(6)の等号が不等号>に置き換えられます.

引用:
E. B. Vinberg, published in the "Soros Educational Journal" (1997, No. 2)
«КВАНТ» No6, 2020
表紙の写真は「美しい幾何学」p.47より



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