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学校を安全に再開・・・・・連続接触検査


英国では3月8日に学校が再開しました.再開にあたり接触者継続検査(SCT)という検査戦略をとりました.英国,JUNIPERコンソーシアムの研究者達は,この課題を研究して来て,いくつかの非常に興味深い結果を出しました.学校を再開すべきかどうかが研究されたわけではありません.安全に再開するにはどのような検査が良いかを研究したのです.

ウォーリック大学の疫学准教授であり,JUNIPERコンソーシアムのメンバーであるルイーズ・ダイソンへのインタビューのレイチェル・トーマスによるMarch 4, 2021の記事です.https://plus.maths.org/content/testing-testing-schools

ダイソンは,先週,アイザックニュートン研究所が開催したJUNIPER研究集会の講演者の1人でした(彼女の講演はここで見ることができます).学校が再開するとことになった2021年の初めに,英国政府は中学校でのCOVID-19検査の新戦略を提案しました.研究集会では,検査が学校の安全再開にどのように役立つかの講演が多くありました.さまざまな種類の検査の利点と欠点を明確にするのが狙いです.ダイソンは,ウォーリック大学のトリスタン・レンや他の同僚と協力して,これらの新しい検査戦略が中学生に与える影響をシミュレートできるモデルを開発しました.
クリスマス前の学校では,生徒は通常は学年別グループで構成される「バブル」の一員として学校に通っていました.ある生徒が陽性と判定された場合,その「バブル」内の全員が10日間の自己隔離のために自宅送りされました.この戦略は,すべての潜在リスクが隔離でき,学校内はもとより,そのまわりのコミュニティ内での感染伝播を止められる利点がありますが,多くの学生が多くの学校で欠席しなければならないという欠点があります.

生徒が学校に行けない日数を減らすために,イムノクロマトグラフィー(LF検査)を使用した新しい戦略(連続接触検査)が提案されました.COVID-19の症例が特定されると,その「バブル」内の他の生徒は①以前と同様に自己隔離するか,②7日の間,毎日イムノクロマトグラフィー検査を受けて,その日の検査が陰性ならば学校に通う,のどちらかが選べます.この戦略の主な利点は,感染率を下げることではなく,より多くの子供たちが学校に通えることにあります.

学生は,学期の初めにLF検査(イムノクロマトグラフィー)を2回受け,陰性である場合にのみ通学します.LF検査による毎週の集団検査も検討されていました.

イムノクロマトグラフィー検査
イムノクロマトグラフィー検査は,パンデミックの時期に,英国の多くの人が受けたPCR検査に似ています.サンプルを採取するには,綿棒を喉の奥でこするため鼻を突き刺すのは同じです.しかし,イムノクロマトグラフィーでは,分析のために綿棒をラボに送るよりもはるかに速く結果が出ます.テストキットは約30分で結果を出します.
(訳者注)抗体が配置されたセルローズ膜の端に,採取した検体を落とすと,検体の中にCOVID-19の抗原があると,それが抗体と反応しながら移動し所定位置でキャプチャーされ呈色します.

イムノクロマトグラフィーはPCR検査よりも感度が低いかもしれません.しかし,それは感染している時期に大きく依存します.ウイルス量が最も多く,感染性が最も高いと考えられる時点(感染してから約5日後)に,イムノクロマトグラフィーでCOVID-19陽性となる可能性は高いのです.[(訳者注)イムノクロマトグラフィーは感度が高い.感度も特異度も90%以上という説もあります.PCR検査の感度は70%,特異度は99%です]ダイソンによると,イムノクロマトグラフィーで陽性となる確率は,まだPCR検査よりも少し低いとのことですが,ウイルス量がピークにあるとき(感染性のピークにあるとき),陽性になる可能性はPCRと同程度に高いのです.

ダイソンと彼女の同僚は,戦略を隔離から接触者継続検査SCTに変更することが,生徒に与える影響を研究しました.この戦略の主な利点は,感染率を下げることではなく,より多くの子供たちが学校に通えることです.私たちは,人々が家にいるだけ(感染を避ける)という状況から,戦略を転換します.検査が陰性でも,偽陰性ならば実際に感染率が上昇します.油断なく常に検査を続けるSCT検査への転換です.

不確実性のモデリング
SCT検査とPCRテストの感度は,まだ正確に特定できていません.そのほかにもまだわからないことがあります.COVID-19に感染した中学生の12ー31%が,症状を発症すると考えられており,発症すると無症候よりも感染性が高いことはわかっていますが,それ以上のことはわかりません.

シミュレーションのモデルを作成することの難しさの一部は,これらの種類のパラメーターに多くの不確実性があることです.ダイソンたちがアプローチした方法は,点推定ではなくこれらの範囲をとることによって,その不確実性をモデルに取り入れました.

ダイソン,レン,とその同僚たちは,それぞれ200人の生徒からなる5つの「バブル」で構成されるモデルを作成しました.彼らは,次の色々な戦略:何もしない;学年グループを隔離するクリスマス前の戦略;接触者継続検査;毎週の集団検査;両検査の組み合わせ;のそれぞれについて,7週間の半期にわたって毎日の時間ステップでシミュレーションモデルを実行しました.
また,各パラメーターに1つの値だけを使用してモデルを実行するのではなく,各パラメーターの不確実性の全範囲をカバーするさまざまな値の組み合わせに対してモデルを実行しました.

「このモデルをさまざまな戦略を比較できる方法として考えています」とダイソンは言います.感染する人数や欠席する日数を具体的に予測するのではなく,さまざまな戦略に従った場合に何が起こるかを予測調査することに関心がありました.そして,不確実性にもかかわらず,各戦略は生徒に異なる結果をもたらします.

検査のトレードオフ
モデリングから非常に明確なことが1つあります.不確実性にもかかわらず,これらの新しい戦略でイムノクロマトグラフィーを使用すると,欠席する授業日数が劇的に減少します.提案された戦略(接触者継続検査と毎週の集団検査)は,実際に欠席する授業日数を減らします.ある意味で,望ましい結果が得られます.しかし,それらは感染の数を増やします.
戦略がまったくない場合,学年グループを隔離することすらしない場合,感染数は半期の終わりまでに非常に多くなる可能性があります.提案された戦略は,感染を減らすのにいくらか効果がありますが,グループを隔離するクリスマス前の戦略よりも効果的ではありません.

欠席日数と感染数の両方を減らす方法は,「接触者連続検査と毎週の集団検査の組み合わせ」です.

このすべての検査で無症候性のCOVID症例が多数特定されるため,この組み合わせた戦略は効果を発揮します.しかし,これはトレードオフが発生するところでもあります.「組み合わせ検査は,感染が少なく,学校を休む日数が減ります.しかし,多くの検査を行う必要があります」とダイソンは言います.組み合わせ検査の戦略では,7週間の半期の終わりに,生徒1人は平均して25回の検査を受けます.検査費用もかかり,若者にそれらを受諾するよう依頼しなければなりません.それに,毎日子供たちの鼻に綿棒を突き刺さなければならないのは素晴らしいことではありません.それらはトレードオフです.

この調査は,パンデミックの際に政府や学校の指導者が下さなければならない難しい決定を浮き彫りにしています.3月8日に学校が再開したときに,検査の状況がどのように展開するかを見ましょう.ライブパンデミックの前例のない挑戦に対処するには,数学モデルがどれほど有用であるかを示しています.

(訳者注)英国はロックダウンを間欠的に実施しました.長期のロックダウンを続ければ感染は減りますが生活ができなくなります.どのくらいの期間のロックダウンをどのくらいの期間を空けて実施するのが良いかのトレードオフも感染拡大モデルでシミュレーションしています.何も対策を講じずに宣言だけ出すのとは大変な違いです.今回は,学校再開に対する接触者継続検査SCTの実施戦略ですが,これも数学モデルで検査の実施程度をシミュレーションして策定しました.英国の100万人当たりの患者数とPCR検査数は日本の20倍~30倍もありますが,パンデミックを乗り越え現在の有病率は日本より小さい値に下がっています(下のグラフをご覧ください).

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