見出し画像

【SGDトーク】 在来種植物生産と里山再生活動(ゲスト:仲田茂司氏)<アーカイブ動画のみ有料>

考古学を学んだ種苗屋さんが「業界一の変わり者」と自称しながら、都市と里山の循環の中に、新しい持続可能な社会の実現を目指しています。今回のゲストは有限会社仲田種苗園の仲田茂司(なかだしげじ)氏。「SGD×生産」のテーマの1人目のゲストです。「在来種植物生産と里山再生活動 」と題して、2021年12月2日(木)に開催されたSGDトークの模様をお届けします。

SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。
第1部 19:00-19:20 SGDイントロダクション「SOCIAL GREEN DESIGNとは」
第2部 19:20-20:20 仲田氏によるトーク「在来種植物生産と里山再生活動 」
第3部 20:20-21:30 モデレータとのディスカッション
仲田茂司氏のトーク内容から振り返っていきます。

里山の原風景を届けたい

仲田さんのトークは異色の経歴の紹介と、(有)仲田種苗園を経営する中で大事にされている理念のお話から始まりました。

仲田さん:私たちが追求しているビジネスモデルは、地方から消費地に一方通行ではなく、里山と都市を循環させるようなものです。私は業界一の変わり者でして、まず同志社大学で考古学を学んで、10年以上学芸員を務めていました。その後は東京農大で造園学を学び、今の(有)仲田種苗園の仕事を続け今に至っています。「考古学を学んだ種苗屋」というのは、業界で唯一の存在だと思います。

スクリーンショット 2021-12-10 13.57.14

仲田さん:子供の頃は実家がある標高500mの山の中で、遊んでました。照葉樹林帯とブナ帯が交差するとても気持ちが良い場所で、考古学の仕事も楽しかったのですが、この原風景を大事にしていきたいという思いから今の仕事に至りました。

スクリーンショット 2021-12-09 11.53.39

仲田さん:私は2代目で、父が創業してから60年が経っています。私たちの理念は「在来種(主)義」です。業界では一般的な草花1ポット・植木1本を販売するというよりは、子供の頃に慣れ親しんだ日本の原風景を提供したいと思っています。1999年に造園家の田瀬理夫(みちお)さんと出会い、「植生マットを作ってみないか」とお誘いがありました。植生マットはまさに風景を凝縮した存在ですから、これはやりがいがあるなと感じました。私たちの生産している植生マットを総称して「フローラルマット」と呼びます。

在来種を保存・繁殖する「妖精の森」

仲田さん:フローラルマットのビジネスモデルについてお話しします。まずは、地域の在来種を保存・繁殖するシードバンク「妖精の森」の運営を行なっています。約40年間、福島県の阿武隈山地を中心とする地域の在来植物を私の母親が丹念に保存しつつ繁殖させてきました。その中には、ヒメシャガとかサクラソウとか、もう自生地では絶滅したものも含んでいますので、この地域の貴重なシードバンクだと学術的に評価されています。

スクリーンショット 2021-12-09 18.09.57

生物多様性の区分から植生を考える

仲田さん:私は考古学を研究していましたので、土器も地域性があります。同じ地域の中でも、鍋に使うとかドングリを盛るとか、色々な機能を分担しつつ、全体としてまとまりがあるので、これは植物分布や植生と似ています。これが、フローラルマットにも繋がってくる話で、(以下の写真のように)エリアごとに提供するものが異なります。環境省は生物多様性のための国土区分として日本を10区分しています。このうち3区分が福島県にあり、動物と植物が豊富なところだと言えます。

スクリーンショット 2021-12-09 13.09.18

野の花マットのビジネスモデル

仲田さん:野の花マットでは、「お客様のコストを下げる」ということを意識したビジネスモデルを採用しています。水は必要だけど枯れにくく、貼り芝程度の簡単な施工で取り付けられ、宿根草なので毎年の植え替えが不要であるなどの工夫がなされています。また、お客様と価値を作り出す「価値の重層化」を意識しています。生物多様性や地球温暖化防止というコンセプト性や、お客様と一緒にまちづくりや環境教育での協働する社会性などを含んでいます。

スクリーンショット 2021-12-09 13.14.45

仲田さん:野の花マットの生産圃場は約5ヘクタールあります。種をまき、苗を作って、それを寄せ植えしていきます。マンパワーが必要な一方で、植物の知識も必要になる仕事です。

スクリーンショット 2021-12-09 13.23.41

仲田さん:「野の花ガーデン」は事務所に併設している野の花マットのモデルガーデンです。四季折々の花を楽しむことができます。東京工業大学、豊島区役所、東京都庭園美術館など様々な施工例があります。都会にはとてもよく合う商品ですが、田舎だと周りに溶け込みすぎてなかなか難しいです。

スクリーンショット 2021-12-09 13.25.51

完全オリジナルの植生マットもある

仲田さん:これまでは、エリアごとに野の花マットとか、浜っ子ターフとかを提供しているという話をしてきましたが、ピンポイントで計画地のオリジナルのマットを提供している事例もあります。それが、伊勢神宮外宮の例です。「秋の中秋の名月にイベントがあるので、そのころの花が欲しいね」などのやり取りを設計事務所と行なっていました。このやり方だと、1から種を採取して蒔いてマットを作るので、完成までに最低2年はかかります。

スクリーンショット 2021-12-09 13.41.08

欧米から学ぶ!フローラルマットの今後の展望

仲田さん:2012年には低炭素杯ソーシャルビジネス部門環境大臣賞、2017年は日本造園学会賞を受賞するなど、フローラルマットは高い評価を頂いています。今後の展望としては、欧米の潮流を押さえておく必要があります。ニューヨークのハイラインでは、利用者が皆リラックスしていて、在来種の懐かしさや安らぎ、浅い水辺、くつろげる椅子など、日常の中から抽出したようなやり方で工夫されているなと感じます。そして、メンテナンスにも、植栽のことをよく理解している人が関わっているのが素晴らしいと思います。

スクリーンショット 2021-12-09 13.52.37

仲田さん:将来に求められる価値としては、健康、自分らしさ地域らしさ、自然、美しさ、リラックスがあり、これにコミットしたビジネスは将来性があると個人的に思います。ここまでがフローラルマットの説明です。

産学民連携の活動を開始

仲田さん:ところで、東日本大震災の後、鬱屈した福島県の状況を打破しようということで、産学民連携の活動を始めました。東京農業大学と水谷工業と私たちがコラボしたさくらテラスの活動では、学生さんに「1ヵ月後の桜の植栽」を目標にプランを考えていただきました。徹夜して考えてくれた結果、実際に描いてくれた図面通りに、1本50~60万円もする高さ8mのしだれ桜を10本植えることができました。そして、その時の様子の写真が大学院の募集のポスターにもなりました。

スクリーンショット 2021-12-10 12.15.13

仲田さん:震災後は里山の活性化をするべく、都市の人を呼び込み地域の人と触れ合っていただくような、循環型のプラットフォームを構築しています。これはNPO法人ふくしま風景塾が担っています。

地域一体となった、里山ビジネスの展開

仲田さん:福島県石川町では、人と馬とが一緒に歩く人馬ウォークラリーを実施したところ、非常に多くの人が集まりました。馬事振興会、青年会議所、新聞社、地域の様々な人が関わっているからこそできるイベントです。地元の建設業の方が「こちらに仮設トイレがあります」という表示や警備の人まで出してくれることもあります。

スクリーンショット 2021-12-09 14.38.36

地域の内と外の交流による、相乗効果

仲田さん:また、やまびこテラスでは里山観光・民泊の事業を進めており、留学生など外から来た人は「本当の日本だ」と喜んでくれます。国際ワークショップでは留学生が里山整備の標識のデザインを作ってくれたこともありました。来てくれた人たち皆で、食事をしながら交流することを大事にしています。留学生に刺激された地域の高齢者が、自発的に急斜面に2万本のスイセンを植えるという取り組みを実施したこともありました。2万本を自分たちの思いで植えたくなるというのはすごいことです。

スクリーンショット 2021-12-09 17.28.28

今後の展望、 都市と里山のサステナブルな循環

仲田さん:今後の展望としては、種苗会社なので人材育成を行い、人の種、技術の種を蒔いて、創業60年の会社を100年ものの会社に育てていきたいです。多様な人材の持ち味を引き出してビジネスを開拓していくのが大事で、そのような未来的なことができるのが、NPO法人ふくしま風景塾の活動です。種苗園はがっつり稼がないといけません。その両輪がうまく回る必要があるのです。

スクリーンショット 2021-12-09 17.45.03

仲田さん:福島県知事が訪ねてきてくださったこともありますが、「東京の一極集中ではなく、里山を再評価していかねば」というお話をされていました。「グローカル」という言葉がありますが、グローバルな視点を持って地域で活動するという意味があります。その一方で、里山のことをとことん追求すると世界に繋がるという意味も含んでいます。アジア各国が抱える共通の課題、つまり、大都市への人口集中による環境悪化と地方の衰退という問題の解決糸口として、里山ビジネスがあるのだと考えています。

スクリーンショット 2021-12-09 17.44.51

仲田さん:2010年のCOP10で日本が提案した「SATOYAMAイニシアティブ」という言葉がありますが、里山、水田、集落が一体となった繋がり、つまりモザイク状の土地利用のことを指します。例えば「幸福の国」ブータンも、都市に人口が溢れて仕事がなくなり、一方で地方は衰退しています。都市と里山を循環させることがサステナブルであり、そのようなビジネスを私たちは目指しています。

スクリーンショット 2021-12-09 17.54.41

レクチャーを受けて、ディスカッション

仲田さんのお話の後、(株)フォルクのランドスケープデザイナーである三島由樹さんとデザイナーの金田ゆりあさんを交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。

スクリーンショット 2021-12-10 9.36.52

金田さん:貴重なお話をありがとうございました。里山に来ていただいた人にどのようなことを持ち帰ってほしいですか?現在は関係人口として通い続ける方もいるのですか?

仲田さん:たくさん通ってくれる人もいます。地域に来ていただいた学生さんは一生懸命なので、里山を体感したい気持ちがあれば地域に受け入れられます。移住を前提としないで、ここに来れば里山体験ができるくらいの、軽い気持ちが良いのかもしれません。

三島さん:スケールの大きいお話で、種苗園を超えて子供達や地域といった社会に対するタネを撒かれていると感じました。これをぜひ真似したいという方もいると思うのですが、実現する上での課題や工夫があれば伺ってみたいです。

仲田さん:素晴らしいガーデンや、ランドスケープの作品が最終モデルではなく、無限の可能性がある自然がモデルです。行き詰まった時には里山に足を運び、もう一度考え直すということをしています。里山には学生さんが泊まるだけではなく、ランドスケープの仕事をしている方も宿泊してくれるので、フローラルマットに適した土に関する情報なども提供しています。設計者やメンテナンスをする人とのコミュニケーションも大事です。

視聴者からの質問例

今回も、視聴者から本当にたくさんの質問をいただきました。質疑応答の一部をここでご紹介させていただきます。

視聴者①:仲田さんがもし業界外から生物多様性の保全や向上の必要を聞かれたらなんと答えますか?

仲田さん:子供と生物との触れ合いが大事で、子供は素直に生き物との触れ合いを喜びます。これは、子供の感性や情緒を育むのに必要なことです。

ーーーーー

視聴者②:ある地域からある地域へ生物を移動させると、生物多様性が増す一方で、生物の攪乱が起こることもあると思うのですが、いかがでしょうか?

仲田さん:あくまでも、環境省が定める生物多様性の法律に則って、10区分のエリアごとに提供させていただいてます。区分内での移動なので、遠隔地の移動は行わないですね。

その後、(株)フォルクの金田さんから仲田さんのお話をまとめたダイヤグラムのお披露目がありました。仲田種苗園では様々な取り組みが行われていますが、全てが一筆書きでつながり、いい循環をもたらしているようです。

画像17

「SGD×生産」共通の質問

①これからの生産はどうなるのか?

三島さん:野草を採取している人はいますが、それを生産している人はなかなかいません。例えば、水田を行うことと、野の花マットのビジネスをすることとで、生産性やお金の面はどのような違いがありますか?

仲田さん:野の花マットは芝生の十倍の値段がしますので、売れれば収益は上がります。中山間地の増えている休耕田をこのまま放置するのではなく、活用していくのも良いかもしれません。ただ、中山間地の何千年もの堆積してきた土を剥ぎ取るのはもったいないです。薬草や野の花を植えるなどの活用方法も良いかもしれません。中山間地では、稲作一辺倒を考え直す必要があります。

金田さん:仲田さんの取り組みで、里山の種を全部継承できるのは難しいと思うのですが、その中でどこを目指していくのでしょうか?

仲田さん:万葉集から伝えられているもの、1000年以上の前から続いている草花を大事にすべきと思います。小さな可憐さを慈しむのは日本の民族の特徴です。

②これからの社会に必要な緑とは?

仲田さん:「楽しい緑」ですかね。自然にはワクワクする楽しみがあります。子供の頃の原風景が懐かしいです。ぜひ里山に来て、本当の楽しさを知っていただきたいと感じています。忘れていた楽しみを再発見していただきたいです。

種苗園として緑の生産に関わる仲田さんは、里山を通じてその楽しさを伝えていくプロでもあると実感させられるお話でした。この度はお話を聞かせてくださり、ありがとうございました!

【SGDトーク】SGD×生産 #01

・子供の頃に見てきた心地よい里山の原風景を大事にしていきたい。
・在来種の保全を行い、地域にあった植生マットを提供する。
・お客様のコストを下げ、価値の重層化を意識したビジネスモデルを構築。
・大震災以後は産官学の連携を行い、地域一丸となって里山を活用。
・都市への人口一極集中から、都市と里山を循環するサステナブルな社会へ!

【SGDトーク】 SGD×生産 #01プロフィール

ゲスト

仲田茂司(なかだ しげじ)
有限会社仲田種苗園
1957年 福島県石川町生まれ  
同志社大学文学部文化史専攻卒
東京農業大学修士課程(造園学)
元三春町学芸員(考古学担当)

モデレータ

三島由樹(みしま よしき)

株式会社フォルク 代表取締役 / ランドスケープ・デザイナー 
1979年 東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院デザインスクール・ランドスケープアーキテクチャー学科修了(MLA)。マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教の職を経て、2015年 株式会社フォルクを設立。 これまで、慶應義塾大学、芝浦工業大学、千葉大学、東京大学、日本女子大学、早稲田大学で非常勤講師を務める。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)


金田ゆりあ(かねだ ゆりあ)
デザイナー
1994年 鹿児島生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。
専門はデザイン学、デザインリサーチ。
2017年から卒業研究として石川県加賀市にて空き家の研究をはじめる。現在、空き家所有者に対するアプローチに関する研究を行い、石川県加賀市で空き家を使った展覧会や片付けイベントなどを開催。

(執筆:稲村行真)

アーカイブ動画について
▼今回のSGDトークの全ての内容は、以下のYoutube動画にてご覧いただけます。ご希望の方は以下よりご購入ください。

https://form.run/@SocialGreenDesign-archive

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?