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【SGDトーク】これからの時代に求められる人が集まる場づくりとは~地域資源からうまれる新しいビジネスモデル~ RIK SQUARE! 2022(ゲスト:河村 玲 氏, 谷口 千春 氏)

個人の利益だけを求めず、公益的な幸せを作るソーシャルビジネスは、どのように実現できるでしょうか?地域資源の魅力を再発見して活用することで、人々の交流の場が生まれます。その実践者の方々にゲストにお越しいただきました。

今回のゲストは株式会社良品計画の河村玲(あきら)氏とミナガルテンの谷口千春氏。「これからの時代に求められる人が集まる場づくりとは」と題して、2022年9月13日(火)に開催されたSGDトークの模様をお届けします。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。

それでは配信開始のご挨拶として、SOCIAL GREEN DESIGN 協会の小松さんと三島さんのお話から振り返ってみましょう。

SGDの今、住まい産業が社会課題を解決

小松さん:私たちの会社(株式会社ユニマットリック)は、人にみどりを、まちに彩りをというテーマで運営しています。その中で、ソーシャルソリューション事業として、このSOCIAL GREEN DESIGN(以下SGD)の取り組みを実施しています。

三島さん:SGDは2020年秋に立ち上げ、2021年4月にスタートした取り組みで、「これからの社会に求められるみどりを考え、つくる」がテーマです。2つの軸がありSCHOOLでは、様々な専門家をお呼びしてSGDトークとしてレクチャーをしていただく他、みどりに関わる仕事をする方々(庭師やディベロッパーなど)と新しい緑の事業計画を作るゼミをしています。また、COMMUNITYは企業や個人が繋がり合って、これからの社会に必要なみどりについて考えるプラットフォームです。

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今回のSGDトークでは、住まい産業のお2人がゲストです。小松さんによれば「地域社会には様々な課題が存在します。地場産業である住まい産業が社会課題を解決するプレイヤーとなりつつあります」とのこと。

それでは、今回お越しいただいたゲストのお話を振り返ります。国際的なブランドである無印良品の河村さんと、地元に根ざして活動を展開される谷口さん。活動のベクトルは対照的ではありますが、目指すべき理念は似ているお2人のお話を簡単に振り返っていきましょう。

営利と交易を両立、地域への良い影響をつくる(河村さん)

河村さん:私たち無印良品の取り組みは「営利」と「公益」の両立を目指しています。つまり、生活に欠かせない基本商品群、サービス群を、誰もが手に取りやすい適正な価格で提供するとともに、地域課題に対して取り組み地域への良いインパクトを提供することを考えています。

幅広い事業展開
地域の方々との信頼関係を築きながら、小売業を展開するという考え方
直売所とカフェ、二地域居住の拠点作り(千葉県)
無印の袋を持ち歩くおばあちゃん、路上販売→店舗出店で市民が長蛇の列(山形県)
耕作放棄地の棚田で生産したコシヒカリで日本酒を開発したら完売続き(新潟県)
観光で稼働の少ないバスを活用して、中山間地にバスを走らせる(新潟県・長野県)
団地を丸ごとリノベーションして自動運転の実証実験も行い、コミュニティの活性化(千葉県)

河村さん:このような取り組みを通して、感じ良い暮らしと社会の実現に向けて、地域に既にある様々な資源を再発見して、地域資源を生かしたコミュニティセンターを目指しています。

大きな庭で私と皆の幸せを作る(谷口さん)

谷口さん:私は今まで建築や出版、伝統工芸など様々な業界にいた経験があります。断絶した業界をつなぎながら、主役を裏で支える媒介者として、自分のことを「モノガタリスト」と名乗ってます。

谷口さん:広島市郊外、佐伯区皆賀の住宅街でまちづくりプロジェクトである「minagarten(ミナガルテン)」の企画・設計・運営をしています。温室でだった土地が住宅地になり、またコミュニティ施設にもなりました。町の文化や歴史が消えていく危機意識から、敷地全体でどういう風景を作っていくかを考え、「大きな庭」を作っていく意識で、ミナガルテンをはじめました。

ミナガルテンの敷地全体図
祖父、父と続いた真屋農園の閉業がきっかけ
建築や環境のルールを定め、全体最適を考えながら住宅エリアを設計
園芸資材倉庫だった場所をコミュニティスペースに変更
コミュニティスペースの活用計画、小さな村(社会)をここで作るという意識
ワクワクに反応してくれる感度の高い人々向けにワークショップを開催、活用のプロセスを共有
住民が力を合わせ治水工事をして皆が喜んだことから、「水長→皆賀」に改名した土地の歴史を共有
最初は実験の場として営業、1階はイベント使用、2階はシェアキッチンやレンタルスタジオ
どんな小さな芽(市民活動)でも受け入れ応援する
カフェやベーカリーができる
これからもさらに新しい仲間が増えていくみんなの場所に
長期滞在してくれる方を受け入れる
世界とつながる郷土史本の編纂
正解がない新しい事業は、自分の本質的な性質や願いから始まる

谷口さん:ミナガルデンという名前は「皆賀の庭」というシンプルな意味ではありますが、minaとはフィンランド語で「私・個人」という意味であり、日本語では「皆んな」という意味です。私自身が幸せになるには、周りの世界の幸せを作っていかねばなりません。

トークセッション

河村さんと谷口さんのお話の後、モデレーターの小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)、三島由樹さん(株式会社 フォルク)を交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。

谷口さん:無印さんはこれほど様々な事業をされているのがすごいなあと。何を目的に始まったのか、それぞれ違う物語があるのではと思いました。酒田市の小さいところから始めて、50坪にスケールしていく展開に親近感がありました。

河村さん:酒田で店舗展開のお声がけをいただき、まずは2泊3日の社員研修を3回行いました。そしたら移住する社員も現れ、中山間地で移動販売を行うことになりました。その効果は、地域でのコミュニケーションが促進されたことです。移動販売をしていると、井戸端会議が始まることもあり、高齢者の見守りにも繋がりました。市街地から中山間地に買いに来てくれることもあり、酒田市の中心市街地にもお店を出店することになりました。

谷口さん:無印さんのような大きな会社が移動販売で中山間地まで来てくれたことに、地域の方も親近感が湧いたのかもしれませんね。

河村さん:無印に行くのにおめかしして来てくれたり、エコバックとして買い物袋を利用してくれたり、そういう地域の方もいました。

三島さん:お話を伺っていて、消費者とクリエイターという関係性ではない、ビジネスモデルの変化のようなものも感じました。谷口さんは事業承継、河村さんは事業部を立ち上げ、という形でしたね。ソーシャルビジネスをどのように社内で提案していったら良いと思われますか?

谷口さん:この未来が欲しいというビジョンがあり、それを信じきることは大事です。半信半疑だとトラブルがあり、ゴールを信じていると、より良い道筋が見つかっていきます。私の場合は記憶や歴史を感じられる街並みを残したいという思いがありました。あの場所を潰して何かにということは考えられませんでした。

河村さん:困難なことは結構好きで、それを乗り越えると何か見えてくるということはありますよね。やっぱり覚悟なんだと思います。酒田では移住して地域専属社員になってますから、地域の人も応援しようとなりますよね。会社の大小、個人に関係なく、世の中的にどういう風に事業をやることでより良い社会になっていくかを問われている時代なんだと思います。

小松さん:素晴らしい。今日の答えのようなお話ですね。お金や目標が目的化することが多々ありますが、継続するとか幸せになることを考えた時に、そうすべきではない場合があることをお2人から学びました。

参加者からのQ&A

今回も、視聴者の皆様から本当にたくさんのご質問をいただきました。質疑応答の一部をここでご紹介させていただきます。

河村さん:企業の思想にもよるのですが、我々は小さなお店との共存を大事にしています。「つながるマルシェ」という取り組みでは、小さなお店の方に出店していただいています。我々に取っても地域が元気じゃないといけないんで、一緒にやりましょうということです。これは危機感ですね。相乗効果で盛り上げたいと考えています。

谷口さん:マルシェに出店している個人事業主は多くて、うち(ミナガルテン)以外にもそういう場がないといけないんですよね。大きく売り上げが上がるチャンスがあれば、お店の人にとっても良いはずです。巨大な資本主義による短期的な利益や自分のためだけにとなると敵だと思ってしまいますが、(それに対抗するためにも)ソーシャルグッドなものを持っている人が横のつながりで、手を結んでいくことが必要ですよね。

小松さん:マーケットが競合するということではなく、やりたいこと、やるべきことを目指すと、新しいマーケットができるということですね。

河村さん:社員の出身地で、この地域をなんとかしたいと覚悟を持ってくれる場合もあるし、知り合い関係もあります。オファーが逆に来ることもあるんです。我々がその地域の資源をどう活かせるか、ローカルヒーローがいるかいないかも重要ですね。やりきるという覚悟がある地域では、本気で取り組みます。

谷口さん:UDS時代には、キッザニアの企画営業をしました。(仕事を提供する側の)大企業をどうプロモーションしていこうかなどを考えながら企画を作るのですが、企業の押し付けになっては(仕事を体験する側の)子供にとってグッドにならないです。そこらへんの両立が大事で、新しい事業を作り一対一で数をこなして相手の目線に潜っていく感覚が学べて良かったです。ただ組織の中ではうつ病になることもあり、ADHDなのでやりたいことは出てくるけどそれを実現するために疲れてしまうこともありました。それから凸凹の良い部分を生かすことで、社会に生み出せる価値が広がると実感しました。

小松さん:素晴らしいですね、困難を乗り越えた強さを感じました!

河村さん:今45歳で10年後は55歳です。今は首都圏に住んでいますが、ある特定の地域に入りたいなと思っていたところでした。その地域で10年後に若手として活躍するために、今トレーニングを積んでいる感覚ですね。どこかで農作業しているか、カフェを開いているのか、どうしていこうか探っているところです。

谷口さん:今体を使うことが足りてなくて、頭や口ばかり使っています。ミナガルテンで農作業などを通して、身体性を取り戻したいですね。

三島さん:自分がいろんな地域で活動をしているけれど、そこに根付いていないので、根付いてみたいという想いは僕もあります。

【SGDトーク】今回のまとめ

三島さんの言葉をお借りすると、「自分が課題に思っていることを覚悟を持って実践していくこと」がとても大事であることを改めて実感するトークでした。ゲストのお2人にも締めくくりの言葉をいただきました。

河村さん:事業活動をする上で営利は大事です。一方で、目的としては世の中をどうより良い社会にしていくかが大事ですね。未来につながる活動であることを意識するともっとより良い社会になると考えています。

谷口さん:ビジネスとしてスケールさせることには興味がなく、ウェルビーイングな生き方をする人をどう増やせるのか。その担い手を増やすことを考えています。また、その受け皿になる町や組織を追求していきたいですし、苗床のようなまちづくりを考えています。一人一人がそれを志向していけば、実現のスピードもアップしていきます。今日はそのような方々とご一緒できて良かったです。

【SGDトーク】 プロフィール

ゲストスピーカー

河村 玲 氏
株式会社良品計画 執行役員
ソーシャルグッド事業部長
2000年株式会社伊勢丹入社、バイイング、商品企画開発、マーケティング、販売までのマーチャンダイジングを行いながら、新宿店リニューアル、新規店プロデュース、新規業態開発に従事。2019年7月株式会社良品計画入社、21年9月より現職。地域社会の役に立つという全社の大戦略のもと、感じ良い暮らしと社会の実現に向けて、各地の地域活性化案件を手掛け、草の根の地域活動から行政や地域企業との連携など、お店のプロデュースのみならず、街づくりまで多岐に渡る事業に関わっている。
https://ryohin-keikaku.jp/

谷口 千春 氏
ミナガルテン 代表
モノガタリスト
1980年生まれ。幼少期より作曲・漫画・演劇などの創作文化活動に親しみ、京都大学・東京大学大学院では建築学を学ぶ。修士論文はスリランカの建築家ジェフリー・バワ。自然と都市、外部と内部、主体と客体など、あらゆる境界線を横断させる体験創造に価値を置き、建築・不動産のプロデュース会社を始め、出版、着物・伝統工芸の世界で各種ディレクション業を経験。
2017年夏、家業の園芸卸売業の廃業を受け、広島市郊外の住宅街でまちづくりプロジェクト「minagarten(ミナガルテン)」を始動。「人と暮らしのWell-being(幸福)」をテーマに、17戸の緑豊かな住宅群と園芸倉庫をリノベーションしたコミュニティ施設を一体開発。裏通りの住宅街に日平均200人・年間5万人を呼ぶ人気施設となる。2020年4月より広島在住。
https://minagarten.jp/

モデレーター

小松 正幸(こまつ・まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 代表理事
NPO法人ガーデンを考える会理事、NPO法人渋谷・青山景観整備機構理事。
「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデンにおける課題解決を目指している。
https://www.rikcorp.jp/

三島 由樹(みしま・よしき)
株式会社フォルク 代表取締役
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 理事
一般社団法人シモキタ園藝部共同代表理事
ランドスケープデザイナー ハーバード大学大学院デザインスクール、マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院都市工学専攻助教の職を経て、2015年株式会社フォルクを設立。 ランドスケープデザイナーとして全国の様々な地域における文化と環境の資源をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営を行う。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。
https://www.f-o-l-k.jp/

(執筆:稲村 行真)


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