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【読了記録】今月読んだ本 ~24年4月編~


西成活裕『とんでもなくおもしろい仕事に役立つ数学』

 モノづくりの現場ではよく何かを計算することが求められる。Excelを使った単純な計算もあるが、電子部品の定数をざっと概算して安全性について見通しを立てるなんてこともある。大抵どの業種でも数学は使われているが、著者いわく「数学をもっと利用出来るはず」と語る。

 本書では「渋滞学」の研究で有名な西成活裕氏が、講義形式でより踏み込んだ仕事に役立つ数学を紹介している。具体的には曲率や微分などを使えば新たな視点で問題を解決できるはずと。実際、ところどころに大学レベルの式(波動方程式のような微分方程式など)も登場するなど、出てくる数式は実際難しかった。少なくとも一度は見たことある数式が多かったので、思い出しながら軽く目を通した程度だが代数学・幾何学など分野を超えて紹介してくれている点は興味深かった。

 数式も多く「文系の人でも何となく分かる」とはあるが、脳が拒否反応を起こすような式ばかりなので高校数学までの知識はしっかり抑えておかないと楽しめないといった印象。とはいえ製造業、特に設計部門に在籍している社会人は読むと良いかもしれない。個人的には同じ著者の『とんでもなく役に立つ数学』の方がライトかつ数式もほぼなく直感的だったので、こちらを先に読むことを勧めたい。

おもしろ世界史学会[編]『「カノッサの屈辱」を30秒で説明せよ。世界史を攻略する86の”パワー・ワード”』

 世界史で習って以降忘れられないワードは沢山あるが、本書タイトルの「カノッサの屈辱」がその1つだろう。要は皇帝が教皇の権威に屈したことに対する象徴的事件だが、こういった忘れられないワードを本書では「パワー・ワード」として端的にいくつも詳説してくれている。

 ローマの大火、十字軍、ノルマン・コンクエスト、朕は国家なりなど、聴いたことあれどいまいち説明できないワードを要点を掻い摘んで説明してくれていたため、良い復習(知らないのもあったが…)になった。

加藤文元『数学の世界史』

 まず考えたことがなかったのだが、古代史の研究において数学は非常に良い切り口らしい。というのも素数は今も昔も素数であり、記法は違えど数字や数式の意味することは変わらないのだ。ここで特に刺さった本書の文を一部紹介したい。

(前略)数学史は単に一つの直線的時系列なのではなく、幾重にも重なり絡み合った古代からの文明史なのであり、人類のグローバルヒストリーなのであり、スリルとサスペンスに満ち溢れた興亡史である(後略)

加藤文元『数学の世界史』p.4 はじめに(一部改変)

 上にあるように数学は文明ごとに存在しており、それは興亡史ともいえるようなものなのである。これは現在の画一的な記法が確立した現在と大きく異なる。そのため数学は文化・社会構造・行動様式などの影響を大きく受けており、逆説的にそれらを推し量る要素としても数学は非常に有効なのである。そんな数学の世界史を綴っているのが本書である。

 今でこそ数学は研究対象として学ばれているが、証明という概念が登場する古代ギリシャまでは実用的なもの、社会的要求に沿ったものを計算するのが主だった。その代表例として古代バビロニアでは(おそらく)人類最初の三角比表が作成され、(おそらく)測量などに使われていたと考えられている。一方で古代エジプトでは二進数的な考え方で行う掛け算や、単位分数を基にした割り算がおこなれており、これらはバビロニア数学とは全く違うものだった。

 これ以外にもインドや中国の数学も紹介されているが、同様に地域ごとに特色が非常に出たユニークなものばかりである。そして現在は非ユークリッド幾何学などに代表される新たな数学が日夜研究されているが、これは文明ごとに興った古代数学と同じようなものと考えることも出来る。前にも述べたが、数学は文化・社会構造・行動様式などの影響を大きく受けるものでああり、必要であれば発達するものでもある。これは今も昔も変わらないものだと感じた。

橋本之克『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学 BEST100』

 人間はいつも合理的な行動を取るわけではない。理想と現実の差が生んだ学問の一つが行動経済学とも言える。一般的な経済学では人間の意思決定は自己の利益が最大化になるように行動する前提ありきの学問である。しかし実際はそうでもないことは容易に想像できる。これまでかけたお金が勿体なくてズルズルと続けてしまうギャンブルやソシャゲの課金に代表されるように、明らかに自らの利益が最大化するように行動していない。これはコンコルド効果(サンクコストとも)と呼ばれるものだが、こういった行動経済学の奥深さが詰まった本である。

 現状維持バイアス(未知のもの、未体験のものを受け入れられず、現状のままでいたいとする心理的バイアス)やメンタル・アカウンティング(お金に対する意思決定する際に、狭いフレームの中で判断してしまう心理的バイアス)など身をつまされるようなものばかりが記憶に残っているが、研究や実例の紹介が非常に多かった。実際に100件紹介しているかは数えていないがそれだけあってもおかしくないほどの切り口の多さだった。実際にそういった心理を利用したマーケティングも一般に広がっており、本書ではそういった事例も数多く紹介されている。

 また、Youtuberがなぜ子供に人気なのか、人生設計に影響するローンと行動経済学の関係、種々の実験についても詳細に述べられてて大変勉強になった。ビジネス書という立ち位置だが、ビジネスに関係ない普段の生活でも、新たな気づきを得られる内容だと思うのでオススメしたい一冊である。

ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド著 上杉周作, 関美和訳『FACTFULNESS(ファクトフルネス) - 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』

 本書では最初に世界の事実にまつわる3択テストを13問解く。そのうちの一問を下に記す。

世界の1歳児で、なんらかの予防接種を受けている子供はどのくらいいる?
・A 20%
・B 50%
・C 80%

ハンス・ロスリング他『FACTFULNESS』p.11

何となく推測できそうな問題という印象で、これが13問である。この13問の正答数について様々な国と地域での結果も載っているが、なんとチンパンジーがランダムに選択して正解した点数(4問)に勝てない人が9割もいるという。特に専門家、社会的地位のある人々、いわゆるインテリ層はこの正答数が更に悪いという(ちなみに私は4~5問正解し、ギリギリチンパンジーラインを超えることが出来た)。どうして皆が同じように間違えてしまうのか。どうして事実を勘違いしてしまうのか。本書はそういった間違いを正し、事実に基づく世界の正しい見方を示している。

 タイトルにもある通り10の本能的思い込みが誤った選択をしてしまう原因だと著者は述べている。本書ではこれらをそれぞれ章立てて、著者の体験談を踏まえつつ具体的に説明してくれている。これらは人間が進化の過程で獲得した考え方に依るものでもあるが、そういった思い込みがあるというのを知るだけでも非常に重要だと感じた。

 「印象操作」という言葉が随分と一般化したが、それも無関係とは言えない。確かにドラマチックな話ほど衆目を集めるが、それに囚われすぎているのはメディアだけの責任ではないと思う。加えて情報社会の今では知識のアップデートは簡単に行えるはずであり、古い価値観は改めていく必要がある。わからないものも当然あるとは思う。しかし正しいデータを基に、事実に基づいた冷静な判断を下せば社会を正しく見ることができるはずである。自分の思い込みを正す良いきっかけとなった本だった。是非手に取ってもらいたい。

「遺された歴史」取材班[編]『古代遺跡 幻の世界地図大全』

 仮説、トンデモ学説も含めて種々の古代遺跡について紹介している。若干のムー・テイストを感じたが、オカルト要素はそこまでなく一般的な雑学書に近しいものがあった。既知のものもあったが、ピサの斜塔の角度変化など知らないものも多く、楽しめた。

 近年ではLiDAR(Light Detection and Ranging:光検出と測距)技術による中南米の古代遺跡の発見もニュースになっている。

 今後新たな遺跡の発掘で人類史が変わる可能性もあり、私も注目している。本書でも中南米遺跡の紹介もあり、知識を補う良い機会になった。


 以上6冊、前から読み進めてたものがちょうど読み終わった形になったので結果的に多くなった。ではでは。


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