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【ハイコ】ハイコとテオ

前回↓

剣の才能

ホルガーはハイコに剣の才能があると知るや否や、つきっきりでハイコに剣を教ました。
決闘というものが神聖である、というのも父が常々口にしていたものであり、
ハイコの戦いの技術、価値観のほぼ全ては父から叩き込まれたと言ってもいいでしょう。
感覚派の父の教え方はわかりやすいとは言えませんでしたが、自らの中で父の言うことを理屈に落とし込めた時に感じる、自分の成長に対する確かな達成感が心地よく、ハイコはめきめきと腕を上げていきました。
剣術自体はハイコの性に合っていましたが、父の訓練は非常に厳しいものです。そのなかでハイコの一番の憩いは、兄の研究室に行くことでした。
ハイコは兄との時間が好きでした。
あまり覚えていない母の話をしてもらったり、魔法の話を聞いたり。
魔法を人のためにばかり使い、私欲のために使わない兄をハイコはよくバカにしていましたが、本当は兄のそういう面を尊敬していました。
しかし、ハイコが研究室に行くのにはもう一つ大きな理由がありました。

淡い想い

それは兄の幼馴染、ソフィアの存在です。
ソフィアはテオと同い年の理知的で美しい女性で、人を見下しがちなハイコにとって、テオと並ぶ数少ない尊敬できる存在でした。
そして、ソフィアはハイコの初恋でもありました。
3人で話していると、ソフィアはよくハイコを褒め、反対にテオには怒ったり呆れたりする事が多くありました。
最初のうちはそれが嬉しかったハイコですが、年を重ね、感情の機微というものを学んでゆくにつれ、ソフィアの本当の気持ちに気付いていきます。
ハイコが14歳のとき、テオとソフィアは婚約しました。
素直に祝福するべきとはわかっているのですが、純粋にそう思うことが出来ない自分自身に、ハイコは苦しみました。
そしてハイコの気持ちに整理がつかないうちに、婚約に反対するソフィアの父とテオの決闘裁判が決まったのでした。

代闘…せず

ソフィアの父、キリルが雇った代闘士は歴戦の傭兵、ギコ。もちろんテオに勝ち目はありません。
そして、テオは決して言いませんでしたが、テオの代闘をする事が可能だったのは、ハイコただ1人であり、ハイコ自身もそれをわかっていました。
相手の代闘士、ギコは実力者です。しかし、ハイコの見立てでは勝てない相手ではないように見えました。
しかし、ハイコは自分から代闘を申し出ることがどうしても出来きませんでした…
ハイコはある夜、父の部屋の前で、父とキリルが「テオを決闘裁判で負けさせ、ソフィアを正統な後継であるハイコと結婚させる」という密約を交わしているのを聞いてしまったのです。
自分との婚約をソフィアが望むはずないこともわかっている。
テオとソフィアの結婚を応援すべきであることもわかっている。
兄やソフィアは、ハイコなら代闘ができることなどわかった上で、ハイコのためにその提案をしていないのだということもわかっている。
そして自分が今まで信じていた、父から教わった決闘の神聖さを、父自身が踏みにじっていること、様々な事実がハイコを混乱させたまま、決闘裁判は当日を迎えます。

大きな誤算

「父が決闘に絡んでいる以上、テオが大きな怪我を負うような事はない」
ハイコはそう考えていました。
しかしその考えは甘く、テオは右腕を失い、そのまましばらく意識も戻りませんでした。
ハイコは後悔します。
結局叶わないことがわかっている自分のちいさな意地で、兄の代闘をしなかったことを。
兄の怪我は自分のせいだ…
自分をそう責める日々が続きました。

そして数日後、決闘裁判の日から姿を見せていなかった、ソフィアが自殺したという報せがハイコの耳に届きました。

「ハイコの初推理」に続きます

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