セックスじゃ届かない場所に、「自分」が沈んでしまった時。
自分の存在が自分の中で希薄になる、というのは誰しも多かれ少なかれあると思っている。
日々の忙しさに自分を省みる余裕がなかったり、ストレスだったり、何か悲しいことがあったり。
「今ここを生きている」という、生物なら誰もが本来常に持ちえている感覚。
人間という生き物ほど、この感覚から遠のいてしまった存在はいないんじゃないだろうか。
人間だから。
些細なことで「生きている」という感覚が希薄になって、自分が何処か遠くにいるような感覚で、軸が不安定になっている時。自分の力で元に戻れることもあるけれど、自力でなかなか思うように戻れないこともある。
そういう日が続いていた。頭が何処かぼんやりとしていて、自分を自分で抱きしめてやる気力もない。ただ忙しさに埋没して、空っぽの自分のまま、なんとなく時が過ぎるのを待っている。
そのうちにどんどんネガティブになって、過去の苦痛や未来の不安が今を塗りつぶしてゆく。そうして目の前にある幸せにも気付きづらくなっていってしまう。鬱の時はこの状態がずっと続いていたから、ああ、久々にコレが来てしまったな、と思っていた。
「今自分がここにある実感を取り戻したい」
荒療治、なんだろう。人を選ぶけれど、圧倒的に有効な方法がある。思考をオフにするどころか、思考する余裕すらなくして。感覚しか捉えられないようになる。セックスは自分がリラックスして感覚を研ぎ澄ませていくけれど、そんな余裕もない時は、セックスにはあんまり意味がないから。
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