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バーにて 初恋

「ねぇ、初恋って覚えてる?」
「え…初恋??えっと…うーん…」
「ほら、憧れの近所のお姉さんとか、部活の先輩とか、そういうの…」
「ど、どうかなあ、いたような気もするけどなあ」
「えー忘れちゃったの?」
「自分はどうなのさ。まず自分の話からしなよ」
「あれー?今日はよっぽど話したくないの?」
「うーん、そうだなあ…」
「私の初恋はね…あれ?…あれ?初恋っていつ…?」
「ね?わかんないでしょ」
「あれー???」

「嘘でしょー、そんな筈じゃ…甘酸っぱい思い出がきっとあるはず…」
「あったような、気がするんだけどなあ…」
「そうね…。その時々で気になる人はいたし、憧れてる人はいたような気がするんだけど、じゃああれが初恋でした!ドキドキでした!みたいな風に思える人が、いない…」
「ね…俺たちもしかして年寄りになった…?」
「そうかも知れない…」

「じゃ、じゃあ、初めて付き合った人は??」
「それはわかるけどさあ、でも、それ語りたい?」
「語りたくない!!!」
「だろー」
「はぁ…。お互い、その相手を知ってるとなんだかね」
「ああ、君も僕のハツカノ知ってたっけ」
「ちょっとだけね。いい子だったよねー」
「ほんとにね…」
「振ったの後悔してるんでしょ?私に告白するために?」
「うるせい」
「バカだよねー」
「いつまでそのネタ使うんだよー」
「さあ、死ぬまで…?」

「恋なんか全部後悔の塊よ」
「まあ、全部終わってるわけだしなー」
「終わった恋でも綺麗、とか、いい思い出、とかそんなのあり得るのかしら?」
「んー、俺は、どの相手もすごく良い人だったと思うし、自分は不甲斐なかったけど、付き合ったことを後悔したりとかはないかなあ」
「えー、おっとなー。私はみんな死ねって思ってるー」
「穏やかでないな」
「ごめんねー酔ってるからー口が悪くてー」
「というか物騒だな。そんなに?」
「うーん、なんかね、きっと、我慢しすぎたのよ」
「君が我慢、ねぇ」
「私と付き合ったことないからわからないのよ」
「俺と付き合おうとしたことあんの」
「は?質問おかしくない?」
「すみません」

「好きな人には本音が言えない。本音を言える相手のことは好きになれない」
「こじらせの典型だなー」
「君よりマシ!故意に最悪のタイミングを選んで爆死して墓穴で自己憐憫に浸る男!」
「そこまで言う?」
「私もそんなもんだから、まあ、同族嫌悪ってやつ」
「山羊座だしね」
「そうね」

「なんとかして初恋のトキメキを思い出したい~」
「うーーん。うーん」
「初めてねー、バレンタインにチョコ渡した相手のことは覚えてないんだけどー、お返しにスヌーピーのぬいぐるみ貰ってね、かわいかったー」
「いい思い出じゃーん」
「スヌーピーのことしか覚えてないのよ、それって悲しい」
「手元に残ってたら、そっちの方が記憶に残るさ」
「まあね、結構ずっと持ってたしねー」
「最近はときめいてないの」
「それがね、ぜんっぜん、ないの。もうね、ゼロ」
「おう」
「なんかねー、もううんざりしちゃって」
「男に?」
「自分に…」

「君、いっつもなんかセカセカ恋してたからさ」
「えー?」
「今何もないって言うなら、何か変化したんじゃないの。次の恋は本当の初恋かもよ」
「そんないいもんじゃないよー。年取って疲れて、ときめくエネルギーもなくなっちゃったんだよ。惚れるのも体力要るんだよ」
「じゃあ老人になったら、恋、出来なくなるのかなあ…」
「老人ホームでも色恋沙汰はあるって言うけどねえ」
「へ、へぇ…あんまり想像したくないけど」
「人は人がいつも欲しいんだよ。何らかの形で」
「…俺、枯れてるかも」
「あはは。いつかどこかで思い切らないと、一生独り身かもよ」
「それはないと、思いたいんだけどな…」

「その、マッチングアプリで出会って会ってる年下の子とはどうなの?」
「うーん、たまに会ってて、お互い様子見って感じかなあ」
「一生一緒にやってけそう?」
「そんなんわからんわ…」
「プロポーズしないの?」
「うーん…。行動するなら俺からしなきゃとは思うんだけど…」
「他に行かれてフラれかけて告白するに一票入れとくわ」
「当たりそうで嫌だなあそれ」

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