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短詩集

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2019年7月の記事一覧

短詩集44 「髪」

1.ほうきで連れ去られる僕の一部 2.その指と鋏で私を綺麗にした一時間半 3.髪を梳いて好きと言って そしたら私逃げ出すから 4.欲しいものは重ならない 年々足りなくなる髪と言葉 5.触れられたいのは髪と爪そして骨 他は忘れて 6.顔から下の毛は要らない 7.疎まれる体毛の悲哀 8.人を食べる人の不気味な黒髪 9.毛先まで愛しいと思える人の声で眠りたい 10.縋るように詩を書く夜半 切り立ての髪確かめながら 11.慰めるぐらいなら美容室へ同行してくれ失恋後

短詩集43「右」

1.虫のようにうねっと出てきた芯のない点滴針 左から右へ 2.右手でカラカラ 業界用語で「ポチ」と呼ぶらしいアレ 3.「右に出る者はいない」その傲りに僕は風穴を開ける 4.メロディー係を下りたがる右手「一番低い音が弾いてみたい」 5.僕の右側神経を這った痛み 人体の仕組みに感心している場合だろうか 6.君は右へ 僕は左へ 川は神の瞬きで分かれ違う名前になりぬ 7.方向を忘れたくて椅子ごとクルクル回る私を止めた君の右手 9.「愛してる」右耳も聞きたがってる 10

短詩集42「左」

1.誰かに教えたい「スキはハートの少し左側をタップするといいよ」 2.あなたが私にスキと囁いたのも確か私の左耳だった 3.左手に刺さったままの点滴針コーヒーみたいにdripされるカフェイン苦手な私の体に 4.左に傾げたあなたの横文字私の名前だけ平仮名で 5.その左手の薬指 噛みちぎってやりたいと思った 見えない指輪ごと 6.左手に愛 右手に刀 人は欲張りね 7.イヤホン分けてせーので聴いたあの新曲 左耳だけが覚えてる あとがき げんきです。

短詩集41

1.平気なフリは生死がかかった時にするもの 2.強がり以外の戦略を試さなくては 3.「痛いのはいいけど」いやよくない、うんよくない 4.心の痛みもこれぐらい心配してくれたらな 5.人は人と争いたがっていない、らしい 6.心も体も全部が痛かったんだ あの時 7.痛みの中に置き去りにした僕のこころ 8.とりあえず痛くてしょうがない そうそれが僕の人生だった 9.「痛かったね」そう言われて零れた涙 10.僕の心はいつから麻痺していたんだろう あとがき とりあえず