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短詩集

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記事一覧

短歌集 雪

1.さっぽろが わたしのために やってきた 匂いのちがう 雪にがっかり 2.除雪車と 雪ふむ音しかない夜に 誰をめざして 歩いていたのか 3.寒波だと 波などぬるい ぬるいのと 道民気取る 未練のままに 4.体しか 褒めない親に よく似てる 握れど擦れど 冷たい指先 5.無くしたの 今日の薬をどこかにね 衝動買いの帳尻合わせか 6.見てもいや 触ってもいや どうしたい なりたかったの 雪になりたい 7.人をやめ 生き物をやめ 雪になる そしたら胸も 痛まないかな

短詩集 嘘

1.明日がないなら未来のことは全部嘘だね 2.嘘つきと呼ばなきゃあの子は弱虫で済んだ 3.いつかバレるか誰かが知ってるホントのことも嘘のことも 4.いちごの数だけ作り笑いした人生 5.嘘が描く混沌と矛盾のマーブル模様が世界ってやつさボーイ 6.100万部売れたら何でも正義です 吸い込まれてくぼくのまごころ 7.心にもないことを言えるようになったら大人なんだね 8.本当のことを話すには あなたは少し理不尽すぎて 9.嘘にも美醜があってねぇ あの時のあれは酷かった

短詩集 カナリア

1.籠の鳥空へゆく あてなくただ光を浴びて 2.愛にウソとルビを振る それで全部丸く収まる 3.ついに救われましたね いいえ巣食われましたわ 4.大好きという言葉ぐらいは美しく響いて欲しい君の世界で 5.死んだらどこへ行くのと問われ 死ねばどこへも行かないと夢を語りかける 6.プライドは何で出来ているのかしら あなたの身体を殺している蟲 7.自分の死体に囲まれて生活しているのですよ 死なぬとわかれば使い捨てのこころ 8.ドライフラワーに水をやる袖口からこぼれた思

短詩集86 コスモス

1.コスモスに紛れ鬼を待つ 20年続くかくれんぼ 2.四葉では叶わなかった願い数えむしる 3.今日の景色写したようなスカートで 冬を生きよう秋が死んでも 4.これはコスモスが揺れる音 草花にも声があるのさ 5.主役にはなれない顔のアブラムシ 葉っぱはみはみ泣いていた 6.金木犀だったのか 7.憎しみが実体を得たら きっと白くて生ぬるく涙を溜めたアメーバ 8.燃えて空へ帰れ 夢でも愛でもなんでも良いから ついにこの手を離れて

短歌集

短詩集84

1.おしりセレブを使ってしまった日 2.あなたが私を諦める音が降ってきた天気予報にない空 3.新しいコートでごまかした不安から身を守るように家の中で着る 4.自然に治る傷ならば 思い出しさえしないのに 5.私が一番綺麗になりたいのはあなたの結婚式 6.傍に来た途端にあなた怖くなる嘘つきだってバレたくなくて 7.「愛してる」一度目は信じたけれどそれは間違い 8.呑み込まれた年数だけ私も「不安」という生き物に近づく 9.雨の日も風の日も嵐の日も地震の日も世界が終わ

短詩集82 あなた

1.犬みたいに謝ってどうせ不誠実なら 2.鋏を握って絡まった糸玉を見つめ続ける人生よ 3.尼寺で自分を想ってほしかったのよねハムレットちゃん 4.見たくないものがこの世にはあるから私には足がある 5.「蓋がない」をちゃんと事件にしてくれたひと 6.一粒の涙がたたえる時間の長さ重さ熱さ深さを測れるものさし(モテアイテム) 7.感謝より 謝罪で笑顔になれるぼく 人間でごめんと謝って? 8.鳥ならさ ずっと見ていてくれるよね 窓辺の木の上電線の上 9.ちょっとした小

短詩集78 茜

1.心も焼けそうな色の空 2.コピーが仕事ならクローンで十分ね 3.雨雲より速くわたし新幹線で 4.電気自動車から未来っぽい音がする 5.嫌いじゃないのに踏んじゃったバッタ 6.元彼がみんなバスから降りてくる夢 7.アンパンマンを持つ係 8.手元に残らないものはみんな幻なのかな 9.何も無いなら恐れも無い深淵を覗き 10.変わり映えのしない恋のパターンに辟易した午後 11.「もちろんあなたは一番じゃない」と言った母親 12.一番近くにいるもの私は私が一番

短詩集77 桜

1.浴びれども掴めない春吹雪 2.桃色の羽織が私を外へ出す 3.こんな日に必要なのねピンクトルマリンが首元に 4.わがままでいいのよ誰にもそれしかない 5.明日は雨 明年は知れぬ 今日しかない 酔うまで歩く 桜街道 6.綾波とソメイヨシノが重なるの 先週観たねエヴァの終局 7.潔く散る何も背負わずただ生きて舞う

短詩集76 春

1.「最近ね、『くっつくホイル』って呼ばれるの」 2.ひとつ気付いたことがある 服を着ている限り洗濯物はなくならない 3.番号が合ってると信じて入れる100円玉(駐輪場にて) 4.ネタバレ怖さに映画館へゆく 5.指紋認証機能はやっぱり必要なかった 6.壊れたままのPS2 7.溜まってゆくスマホ端末がんばって払った割賦金 8.死んだお魚がもう生まれ変わっていることを祈りながら 9.裸で生活しましょうか それはそれで洗うモノが増える 10.心は無色透明のまま 空

短詩集75 罪悪感

1.追い立てられて堕ちるなら 助走をつけて翔ぶの崖から 2.避けやうと注視するゆえ吸い込まれゆく苦痛の快楽 3.では何を?と問う手に君が握らせた まつぼっくりの描く螺旋 4.呼吸さえ罪と責めたる母の手の酸素ボンベで延命する胎児 5.腹筋よ僕を支えて!願い込め 耐え抜くプランクあと10秒 6.切り花の蕾が開く生きている 僕とおんなじ息をしている 7.真っすぐに見据えるだけで掻き消える 幻とはいつもそんなもの 8.命以上に美しいものがあるかしら?与えずとも求めずとも

短詩集74 声

1.音声のみでも紅さして会う貴方には 2.囁きを今生で聞けずとも繋がりにただ満たされてゐる 3.求めてよい 欲情してよい 焦がれてよい 命ということ私であること 4.私だけ罪に堕としてあなただけ ニヤリ笑うの見降ろしながら 5.快楽を禁じるその手に握られた 命を操る享楽の鞭 6.「何よ」って思う時いつも感じてる「私のものよ」「私のなのに」 7.扱いも知らぬ刃物みたいに愛という言葉を使ってゐる

短詩集73 いたずら

1.電波時計を狂わせる 2.ひとつだけゆで卵 3.半音ズラしたGの弦 4.顔を入れ替えた記念写真 5.最大音量にしておく 6.造花を枯らす 7. 8. 9. 10.ブレーキオイルを抜いておく

短詩集72 栄養

1.愛を吸収できないあなた 2.年輪のこの辺があの飢饉の時期ね 3.あの日食べたモスが最近一番体によかった 4.このサヨナラは体に良いかな 5.その言葉を食べたら死ぬからやめとき 6.授乳のように奪われてく気味悪さ 7.愛のない料理の味がする 8.光合成できたらな 9.ヒトの味を覚えたあなたはまるで狂ったように 10.咲かない蕾を切る右手 二度と綱がない右手