ビル街の更地にたむろする空の下限にしんと量感ありて
早すぎと松下由樹の要領で桜をなじる「は~ざ~く~らー」
泣きやめて顔をあげよと平積みのベストセラーにマウントとらる
まなぶたの裏を反してワレワレハウチュウジンダ、と風ふくむこゑ
我ならぬわれを佇たしむ春昼のデータの風に吹かるるデータ
教室へ 引つかへしたき夕陽なり 仕事がへりの 駅のホームにたたずむわれは
噛み跡のついたお尻とおしりとをくっつけて二個一の鉛筆 ちびっこい鉛筆同士をくっつけてシャア専用のビーム・ナギナタ
たひらなる石蹴る石を見失ひまた石選りて帰りこし夕
災害時でも売れ残るコンビニの菓子パンは世の正体さらす
好きな子の名を新品の消しゴムに書いてひそかに使ひ切ること
暴力のかたはらに舞ふ 画面越しの同情止んでやまぬ雪みゆ
全身白装束纏ふときにだけ撫づるものみな霜をまとへり
振り向きざまにやれ読者かと言ひ置いてまた歩きだす主は父なりき
お気に入りの香水なればちよいと来て香りを嗜む人を嗜む
煮凝りの中に閉ぢ込められてをり飯に寝せつけ溶かしてたもれ
岩ひとつ見あぐるおのが影ふたつ衝突まへのしづけき真昼 「しづかさや岩にしみ入る蝉の声」(松尾芭蕉)