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今、この時代を生きる私たちが見ている空―BUCK-TICK『異空 -IZORA-』レビュー

はじめに



こんにちは、せつなです。

今回は、2023年4月12日に発売されたBUCK-TICK23枚目のアルバム『異空 -IZORA-』について書きたいと思います。


前作『ABRACADABRA』からおよそ2年7か月ぶりの発売となったニューアルバム。
思い返すとしばらく間が空いたんだな~という印象です。
ただ、その間にもコンサートの開催やシングル・ベスト盤の発売、35周年のお祝いなどなど活動としては盛りだくさんでしたので、気づけばもうそんなに経ったんだ…月日が過ぎるのは早いな…という感じですね笑

ただ、ニューアルバムの発売自体は結構前から告知されていたので(私の記憶では2021年12月29日の武道館公演での発表が最初?)、やっと待ちに待ったニューアルバムが聴けるんだ!というワクワク感は強く感じていました。


そして、まず一聴した感想ですが、想像をはるかに超える世界観を見せつけられて驚愕しました。
今回はアルバム発売の前にベスト盤に収録されていた『さよならシェルター』と先行シングルとして2曲(+remix1曲)を聴いた状態でしたが、その感触とはまた全然違った空気感がアルバム内に漂っていて。
またひとつ、BUCK-TICKの新たな一面が感じられるアルバムになっていると思います。


それでは、ここからはアルバムの収録曲について1曲ずつレビューを書いていきます。


全曲レビュー


1.QUANTUMⅠ

アルバムのスタートは今井さん作のインストから。
インダストリアル的な音の使い方がかっこいい。
コンサートのオープニングSEをイメージして作ったとのことで、これから何が始まるんだろう?という高揚感がある曲です。
ツアーではこの曲が始まると共にメンバーが登場するのかな…と妄想を膨らませています笑


2.SCARECROW

あっちゃん作詞、今井さん作曲のナンバー。

イントロのアルペジオ~Aメロ・Bメロの抑えた進行から、疾走感あるサビに繋がる感じがめちゃくちゃかっこいい。

メロディーラインに関しても、進行に合わせて低音から高音に移り変わっていく流れが綺麗だなと思いました。
のっけからあっちゃんの低音にやられた…声に色気があって体の中に響いてくるような感じ。
今回のアルバムはあっちゃんの歌い方とか発声の仕方が今まで以上にバラエティー豊かで、曲ごとにいろいろな表情を見せてくれるのが凄いなと思っています。

歌詞はあっちゃん曰く「暗い」ですが(笑)
この堂々巡り感というか袋小路感は過去の曲たちの世界観にも似通っている部分があって。(特に私が崇拝してやまない『Six/Nine』(1995年)期とかの雰囲気)
ただ、その当時の歌詞はある種のノンフィクション感があったような気がする。その中で藻掻くあっちゃんの姿が見えるというか。
その点、今回は孤独感を『SCARECROW』(案山子)に投影することで一つのストーリーとして成立させられているところが凄いな、と思います。


3.ワルキューレの騎行

あっちゃん作詞、今井さん作曲。

イントロ頭のちょっとゴスっぽい雰囲気とインダストリアル的アレンジ、ノイズ交じりのギターリフ。
こういう重厚なアレンジの曲、大好物です。
まず何よりギターのリフがかっこよすぎる。不協和音っぽい感じも含めてクセになる感じ。

メロディーはBメロの辺りが特に好きです。
あっちゃんの歌い方も相まって妖艶なイメージ。特に『ああ So Lonely Play』『Adam&Eva』あたりがここ好きポイント。(とは)
あと『Righty…Righty Right!』のリズム感もいいよね。
このレビュー書くのに歌詞カードを見返してたんですが、この部分の「!」が回数重ねるたびに増えててニヤリとしてしまった。そういう歌詞の表記で遊んでくるの好き。もっと頂戴。


4.さよならシェルター destroy and regenerate-Mix

昨年発売されたベスト盤に新曲として収められていたヒデ曲。

今回のアルバムにはバイオリンが入った新しいアレンジで収録されています。
バイオリンの音色が加わることで温かみが増したというか、よりドラマティックな展開の曲になったように感じました。

また、この曲は昨年の横アリ~TOUR THE BESTのコンサートでも演奏されていて、公演を重ねる毎にあっちゃんの表現が進化していくことにすごく感動して。
銃を構えるようなマイムだったり、子どもを抱きしめるような仕草だったり。そんなあっちゃんの動きひとつひとつに、息をのみながら見入ってました。
今回のアルバムツアーではどのような表現を見せてもらえるのか、今からとても楽しみです。


5.愛のハレム

あっちゃん作詞、ヒデ作曲。

エキゾチックな香りが漂う楽曲。
ヴェールを纏って歌うあっちゃんの幻覚が見えました。これ絶対似合うやつだ…ツアー楽しみにしてます

曲全体のリズムだったりバックに流れるパーカッションのアレンジから想起するのは、異国情緒あふれる市場の情景で。
曲の世界に引き込まれて、まるで自分も異国を彷徨っているかのように感じます。

ラストの語りのような部分もシャンソン味があって素敵。
これも今までのBUCK-TICKにはなかった新たな一面だと思います。
こういう歌い方もあっちゃんによく似合うなあ。


6.Campanella 花束を君に

あっちゃん作詞、今井さん作曲。

これまたあっちゃんの表現の幅広さに驚かされました。
本当に純真な子どもが歌っているように聴こえるんですよ…。さっきまで低音ボイスを響かせてた人と同じ人間だとはとても思えない(などと)
楽曲の世界の中で、性別も年齢も超えて様々な顔を見せてくれるあっちゃん。
今回のアルバムでその表現がさらに深まったように思います。

同じようなテーマで子どもが主人公の曲といえば、昨年の横アリでも演奏された『ゲルニカの夜』(2018年)が思い浮かびます。
ただ、今回の『Campanella』は曲調の違いもありまた異なる印象の曲になっていると感じました。

あと、この曲はベースラインがとっても面白い動きをしてるのが推しポイント。
ひたすら同じ動きを繰り返す8ビートのルート弾きもかっこよくて好きですが、この曲のようにメロディアスな展開をするベースラインも大好きなんですよね。
特にAメロはベースが主体になっているので、一度ベースに注目して聴いていただきたいです。


7.THE FALLING DOWN

今井さん作詞作曲で、アルバム恒例(?)の今井さんヴォーカル曲。
今回は今井曲がこの一曲だけで、もしかして歌うのかな?とは予想していましたが、実際に聴いて今井さんが歌い出した瞬間めっちゃテンション上がりました笑
今井さんの声聞くとなんか安心するんですが。クセになりますよね…。
歌詞に関しても今井節が炸裂してる。今井さんのセンスは本当に唯一無二だと思ってるので毎回新鮮な気持ちで聴かせてもらってます。
あっちゃんの歌詞はどっちかというと共感成分多めですが(自分と思考回路が似ていると勝手に思っているため)、今井さんは私が見たことのない視点から物事を捉えてるイメージなのですごく興味深いです。

曲調は先程までと打って変わってハードな印象。
今回のアルバム随一の盛り上がり曲じゃないかなこれ。コンサートで聴くのが楽しみ。箱でモッシュとかしたらめっちゃ楽しそう。


8.太陽とイカロス

あっちゃん作詞、ヒデ作曲。今回の先行シングル第一弾です。

曲調としては、これまた今までのイメージになかった爽やかさが感じられるポップでストレートなナンバー。
あっちゃんが「若いヴィジュアル系がやってそう」って言ってた意味もなんとなく分かる感じ笑
タイトルの雰囲気からもっとゴスっぽい曲が来るのかな?と思ってたので、初めて聴いた時はとても驚かされました。

個人的に、この曲は歌詞を読んで初めて完成する物語だと思っていて。
聴くだけではわからない、詞としての表現が素晴らしいなと感じました。

例えば、「カラダ」という音に『機体』という字を当てはめていたり。
歌詞の大部分が漢字カタカナまじりの文章で書かれていたり。
ただ「聴く」だけではわからないメッセージを曲の中に忍ばせているところに感銘を受けました。

上記ツイートはシングル発売日の私の解釈殴り書きです。
無事あっちゃんの言質が取れたのでそっと貼っておきます…。

この曲のストーリーはすごく多層的なつくりになっていると思いました。
まず表層は、曲調から感じられる爽やかで明るい印象。
そこから中間層として、イカロスの神話のモチーフが出現する。そしてそこから立ち上る「死」の匂い。
そして深層にあるのは、戦争の渦中で本当の「自由」を求めて太陽を目指す人の姿。

考えれば考えるほど奥深い曲です。
あっちゃんは本当に素晴らしい詩人だよ…。


9.Boogie Woogie

あっちゃん作詞、今井さん作曲。
アルバム発売前に先行配信として公開された曲です。

こういうハネたリズムの曲も珍しいよね。
そしてギターリフがクセになる感じでとってもかっこいい。
個人的な好みなんですが、リフものの曲大好きなんですよね。

歌詞は、バンドを始めた頃のイメージで作ったとのことで。
高速で機材車がガス欠したエピソードはどこかで聞いたことがあって、あーあれがモチーフなのかぁと謎に感慨深さを感じたりしました笑

あと、2番の歌詞が面白いな~と思ってます。
特に『赤い服脱いだあの娘』っていう表現が秀逸すぎて。
「赤い靴履いてた女の子」と対比させてるんだよね?とてもエモい
あっちゃんの鼻にかかったような声の響きも良き。


10.無限 LOOP -IZORA-

あっちゃん作詞、今井さん作曲。
先行シングル第二弾として発売された楽曲のアルバムver.です。

この曲も、初めて聴いた時は度肝を抜かれました。
BUCK-TICK流のシティ・ポップサウンドともいえるような印象の曲です。
こんな曲調もできるんだBUCK-TICK…まじで凄いバンドだよ…(しみじみ)

曲全体を通してとてもロマンティックな展開。
爽やかな風が頬をかすめていくようなイメージが浮かびました。

そしてこの曲も歌詞を読んだときに面白いなと思ったところがあって。
すごく行間をあけた書き方なんですよね。これは行間を読めということなのか(違)
私の解釈ではありますが、これは現実とは違う夢幻の世界を表現しているのかなと思います。
『途切れ 途切れ』『千切れ 千切れ』と出てくるように、浮かんでは消える夢。
遠のく意識の中で、そんな風に断続的な夢を見ているイメージなのかなと感じました。

また、これはめちゃくちゃな余談なのですが、先日BUCK-TICKが28年ぶりにミュージックステーションに出演した際に披露したのがこの『無限 LOOP』でした。
あれでBUCK-TICKを初めて知った人は、この曲がファーストコンタクトになるんですよね。ぜひそのままの流れで今回のアルバムまで聴いてほしいです。そして暗黒の世界に引きずり込まれてほしい。
ようこそ地獄へ(たのしいよ!)


11.野良猫ブルー

あっちゃん作詞、今井さん作曲。

ジャジーな雰囲気でピアノが入ってくるのもかっこいい。
こういう雰囲気の曲も今までなかったように思うなあ。
バンドとして35年も続いてて、未だに新境地を開拓し続けるの凄くない??

歌詞はあっちゃんお得意の猫ちゃんソング。
最早あっちゃんがにゃーにゃ―言いたいだけなような気もするけど笑
コンサートでどんな風に演じてくれるのか、今から楽しみです。
ちょっと気取った感じ、キザな感じのあっちゃんが大好きなのでそういう面が見られれば嬉しい(願望)

あと、ラストの歌メロとピアノがユニゾンするところが狂おしいほど好き(などと)
横ちゃんのピアノがめっちゃいい仕事してる…最高です


12.ヒズミ

あっちゃん作詞、今井さん作曲。

随分久しぶりな気がするお先真っ暗激重ソング(とは)
タイトルが発表になった瞬間から、これは覚悟して聴かないといけないタイプの曲だな…とは思ってた

ただ、この曲はメロディーとかアレンジ面はそこまで重い印象じゃないような気がするんですよね。
そのかわり…なんというかどんよりしてる。湿気がすごい。

歌詞に関してもかなり直接的な表現を使ってるな…という印象。
あっちゃんが自分を傷つけて言葉を紡いでいることは常々感じていますが、今回のアルバムではこの曲がダントツで生々しく胸に迫りました。

「お父さん」「お母さん」という部分にも、少なからずあっちゃんの主観が入り込んでいるような気がして。
あのー、さっき『Campanella』でようやく普遍的な両親像が出てきたと思ったんですけど…(などと)
現実と幻覚の狭間。フィクションに入り込むノンフィクション。交じり合って境界線が分からなくなっていく。
歌詞を読んでゾクリとしました。


13.名も無きわたし

あっちゃん作詞、今井さん作曲。
先行シングル『太陽とイカロス』のカップリングとして、この曲のremix ver.である『名も無きわたし -花鳥風月 REMIX-』が収録されています。

この曲がアルバム最後の曲でよかった…(厳密に言うと最後から2曲目ですが)
少し和のイメージを感じる旋律を聴いた瞬間、美しい情景が目に浮かんできました。
まるで木漏れ日のように、何もかもを包み込んでくれるような優しさを感じるメロディーです。

楽曲の展開もとてもドラマティック。
大サビ前のギターソロの音色に、胸の奥がきゅっとなる感覚を覚えました。

歌詞は、出会えた喜びといつか来るお別れの切なさが混ざり合っていて。
たとえいつか散ってしまうとしても、今は生きる喜びを謳歌して咲けばいいんだという力強いメッセージを感じました。

もう感涙です。これコンサートで聴いたらもっとやばいかもしれない
アルバムの締めくくりに相応しい曲だと思います。


14.QUANTUM Ⅱ

最後は今井さん作のインストで。
アルバム冒頭のインストはインダストリアル感が強く攻撃的な印象でしたが、この曲はピアノのフレーズが繰り返される中に少し切なさが感じられるような印象をもちました。
ツアーでも終演間際のSEとして使われるのかな?
コンサートが待ち遠しいです。この濃密な世界を早く体感したい。


おわりに


さて、ここまで書いてきましたアルバム『異空 -IZORA-』の全曲レビュー。
昨年デビュー35周年を迎えたBUCK-TICKですが、常に最新作が最高傑作であると証明できるアルバムになっています。

間違いなく現在の社会情勢や空気感が反映されている作品ではあるのですが、決してそれだけではない様々な物語がその中にはあって。
1曲1曲の世界に深く没入していくことができる、素晴らしいアルバムだと思います。

この世界観がコンサートでどのように表現されるのか楽しみでなりません。
(ちなみに筆者は一刻も早く参戦したくて5月の地元開催まで我慢できず、来週宇都宮に遠征をキメます←)
実はアルバムツアーにがっつり参戦するの初めてなんですよね。
No.0は曲全く知らないまま1回観ただけだしABRACADABRAはコロナでコンサートができなかった時期だったので…。
もう今からすでに楽しみすぎて眠れません(などと)

それでは、今回はこの辺りで締めたいと思います。
今回も長文乱文失礼いたしました。
このレビューを読んで、あーそうだよね!とか私はこう思ってた!などいろいろ思っていただけたら嬉しいです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




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