為政者のリロイ

人間達は代替わりをする。長い歴史は流転の連続で、塔の建設に関わった者でさえ今は数えるほどしかいない。時間を止めたような王宮内でさえ緩やかに変化を受け入れる。リロイ。彼は人間だ。

王宮には様々な機関がある。リロイの担当は法整備と施行。実務をこなし、同時に塔の監視を受ける。塔の監視。リロイは塔の魔術師のことを知っている。歳をとらず、監視役にそぐわない実権を持つ女。自分が来る以前から王宮に仕え、おそらく自分がいなくなった後もそのようにあり続ける女。

あの魔術師はなぜ一人で塔を管理する? 明らかに分不相応な力だ。塔に不信感を抱くリロイは、仕事の合間に独自調査を続けた。なぜ塔なのか。なぜ魔術師が管理者なのか。なぜ捕らえられた魔法使いは塔に連れてこられるのか。そもそも魔法使いが罪人として扱われるのはなぜなのか。魔術師の女は一体何を考えている?

リロイの疑念は肩すかしに終わった。塔の魔術師は王宮の役職を複数受け持っている。他に適役がいないため、一番の古株である彼女が仮の代役を務めたところ、それが常態化した。それだけのことだった。リロイの担う法整備と施行も、元をたどれば複数機関による審査承認の必要な作業であった。調査の末、人が足りていないことこそを憂うべきではないかとリロイは考えた。

人間達は代替わりをする。新しく迎え入れられた少年は王子に任命された。黒い目を持つ彼もまた優秀な人間だった。仕事の負担が減り、本格的な調査に乗り出したリロイは今や王宮の資料室の一部と成り果てた。研究家として、生身の一次資料として、リロイは筆を執る。王宮を間近でつぶさに観察した彼の目は、苔むした年代記を紐解き、新しく開ける時代のうねりを綯い合わせていく。時間を止めたような王宮内は緩やかに、しかし明確に変化していく。変わること、変わらないこと。リロイはただただ書き記した。

(続く)

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