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デザインとは自己を語る言語      (石岡瑛子 1938-2012年)

(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2021.2.6>主な解説より引用)

 ビジュアルデザイナー、アートディレクターとして、世界的に活躍した石岡瑛子(いしおか えいこ)氏は語る。「デザインとは自己を語る言語である」「デザインで何ができるのか」「一人の私がどこまで戦えるのか」

「石岡瑛子という<存在証明>。そういうものを表現の中でしていきたいということは、すごく強くあると思う。<あの人は自己主張の強い人だ>って日本の新聞なんかでよく書かれる。でも、自己主張が強くなくてどうやって表現できるんだろうかと、私は思う」と述べた。

番組では、主に3つの作品(以下の①〜③)が紹介された。

①「資生堂 ホネケーキ 雑誌広告(1964年)」

 東京芸術大学美術学部図案計画科を卒業後、彼女の最初の就職先である、広告宣伝の聖地とも呼ばれた「資生堂」での鮮烈なデビュー作品。

ホネケーキ(Honey Cake)という洗顔石鹸のロングセラー商品の広告作品であるが、石鹸そのものの成分とか効果には一切触れていない。ナイフで「スパッとよく切れる」ことのみをコピーしている。この作品により、彼女は早くも日本の広告業界に衝撃と革命をおこした。

②「シンポジウムー現代の発見ー」(架空シンポジウム)ポスター

「TIMELESSー石岡瑛子とその時代ー」(朝日新聞出版)著者の河尻亨一さんは語る。

「平面の作品ではあるが、最初は立体の模型をつくるところから入っている。それを撮影してベストなコンポジションを見極めてから、紙の上に書くという作業を経ている。完璧主義者・石岡瑛子の真骨頂。彼女らしい仕事ぶりが出ている作品である」と。この作品は、1965年「日本宣伝美術会賞<グランプリ>」を受賞した。

③「裸を見るな。裸になれ。PARCO(1975年)」パルコ広告ポスター

 キャッチコピーが凄いのは、石岡瑛子氏の情熱と執念の賜物とも言える。コピーライターの長沢岳夫さんに対してのオーダーは、「誰も書かなかったことを書いて」。そんな彼女を

長沢氏は当時を振り返って「(彼女は)怖かったなぁ。それでも、最終的に結果には満足させてくれた」と語る。

「モデルだって顔だけじゃダメなんだ」「裸を見るな。裸になれ。」

 1980年代に入ってからは、「石岡瑛子 風姿花伝 EIKO by EIKO」を自ら構成、編集し日米で出版。これを名刺がわりに、「挑発したのは世界」として世界へ打って出ていった。オペラ、サーカス、オリンピック、映画などなど、ジャンルも幅もよりグローバルに縦横無尽の活躍を見せていく。

 彼女と仕事をともにした面々は、石岡瑛子を評して曰く「デザインの革命家」「超完璧主義者」「真剣と比例して挑戦した人」「スーパーウーマン」「愛と情熱と美の戦士」etc...

番組アートトラベラーの冨永 愛さんは、番組の最後に語った。「心の底から何か湧き出るものを彼女は形にしたかったんだろうな」「作品の一つ一つに、石岡さんの魂が入っている感じがします」と。

(番組を視聴後、さらに加えて「石岡瑛子展ー血が汗が涙がデザインできるかー<東京都現代美術館にて>観賞後の私の感想コメント)

 コロナ禍でかつ緊急事態宣言の最中ではあったが、オンライン事前チケット販売も売り切れ。それでも、「血が、汗が、涙がデザインできるか」というコピーにも惹かれ、開催期間終了(〜2021年2月14日)まであと3日と迫っていたこともあり、待ち行列覚悟で開催場所の「東京都現代美術館」へと足を運んだ。

 祝日ということもあり、開館時間(午前10時)30分前に到着したが、案の定、長蛇の列ができており、入館まで約60分であった。その後の昼頃の出入口では、約110分待ちとアナウンスしていた。こんな混雑は、私的には上野での「伊藤若冲展」以来かと振り返った。

 さて、視聴後と展示会観賞後のコメントと印象である。

TIMELESS、BORDERLESS、SUPER ORIGINALITYに挑んだ、まさに革命家というにもふさわしいビジュアルデザイナーであり、アートディレクターであったのかと。

 それは、世界に挑み、石岡瑛子という人間がどこまで通用するのかという挑戦の一方で、「私とは何者か?」 という自問自答を、内なる冒険というか、自身への採掘として繰り返していたのかもしれないとも感じた。

TIMELESS (時間の時空を乗り超える挑戦)

 過去、現在、未来という時間軸を超えていく「人間の普遍性」への挑戦とも言えるスケールの大きさを感じた。

BORDERLESS (国境、人種、性、文化を乗り超える挑戦)

 スーパーウーマンを乗り越えて、むしろスーパーヒューマンといった存在であったのではと。展示会のBGMがわりに、彼女の肉声が繰り返し会場内に流されていたのが、印象的であったが、「世界と渡り合う」ということを、観念ではなく、実際に国籍や人種や言語を超えた人びととの行動・コミュニケーション・結果としての仕事の成果をもって体現した人ではなかったか。

SUPER ORIGINALITY (「石岡瑛子」自身の「存在証明」を最後まで追求する挑戦)

 「デザインとは自己を語る言語である」「自己の<存在証明>を示していきたい」とも語った石岡瑛子さん。「イメージ・インパクト・メッセージ」なるものを常に自己の脳裏に刻みながら、妥協することのない「自己のオリジナリティ」に、執念と情熱と愛情をもち、世界からのオーダーに、応え続けた「グローバルな真のプロフェッショナルヒューマン」と写った。つまりは、時代を先取りした「世界が求める先端芸術」の開拓者とも言えるのではないかと。

 コロナ禍を経験することなく、2012年にすい臓がんで逝去された彼女ではあるが、自らの病気のことは最後まで周囲に漏らさなかったという。

 ポストコロナの時代は、コロナ前の時代に戻ることではないとすると、一体どんな時代なのか、石岡瑛子さんが存命であれば、どうコメントしていただけたのか。

 わからないまでも、他者への思いやりや共感、自然やもともとある地球環境との共生、コロナを超えた先にある、新たなオリジナリティの姿を語ったのではと、いささかも勝手に推測する。「あなたならどう描くのか。どう表現して魅せるのか」新たな自らへの問いとの遭遇にもなった。

写真: 「新・美の巨人たち<テレビ東京放映番組2021.2.6>」より転載。同視聴者センターより許諾済。

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