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かつて車道側を歩きたがった頃

さっきまでYOUTUBEでマクロスFのライブ配信を観ていた。2008年に開催されたやつを再編集したもの。ヒロインのひとり、シェリルの誕生日が今日らしい。高校時代、ほとんどアニメを観なかったけれど、カラオケでみんながあまりに歌うものだからマクロスFは知っていたし、それから高校の友人の勧めもあってリアルタイムじゃないけどちゃんと25話まで観たし、20話は泣いた。劇場版は前編だけ公開していたけれど、それは観なかった。ライオンもダイアモンドクレバスも射手座☆午後九時Don't be lateも星間飛行も劇中で聴けたし歌えるようになったから。

前編を観たのは、友人と後編を観にいくことになったからだ。友人は私が上京する前からインターネットで仲良くなって、せっかく東京にいるんだから、なんて流れだったと思う。たぶん。9年も前のことだからあまりよく思い出せない。メールや電話のやりとりはあったものの、実際に会うのは映画へいく日がはじめてだったから私はすごく、すごくすごく緊張していて、前編の内容なんてちっとも覚えていなかったはず。当日は寒い冬の日で、たぶん晴れていた。ほとんど使ったことのない路線に乗り、降りたことのない駅で降り、改札の前ではじめましてなのか久しぶりなのかわからなくて、手を小さくあげて笑ったと思う。

緊張もあってかそれからの記憶がすっぽり抜け落ちている。どこの映画館だったかとか何を話したかとか食事はどうしたかとか(先ほど友人から教えてもらって、なるほど思い出した)。

でもただひとつだけ、ずっと、本当に片時も忘れたことのない思い出があって、それは私と並んで歩いているときのこと。私が車道側を歩こうとすると、友人は喋りながらものすごくなめらかに、なんの不自然さもなく私と身体の位置を入れ替えた。そのことに気づき、私がまたそろそろと車道側を歩こうとすると「そっち側にいてほしい」と申し訳なさそうに言われた。そのときになってようやく、耳の聞こえ方が左右で違うと友人に教えてもらったことを思い出した。同じ方にばかり耳をくっつけているのがつらいと電話でこぼしていたことも。たんなる見栄やらいい格好をするために車道側を歩こうとして、友人にそのことをわざわざ言わせてしまったことが情けなく、本当に恥ずかしかった。ごめん、と早口で謝ってそれから何事もなかったように話を続けたはずだけれど、それが正しかったのかさえ判断できないくらい自己嫌悪がすさまじかった。あーだから他のことを覚えてなかったのか、いまわかったわ。

友人とは数ヶ月後に1度だけ会い、それからはずっとインターネット上で話したり、これにいまハマってるのかーとかを目にする。たいてい幸せそうなので、幸福の具現化だ!すごい!なんて思ったりもする。私はあまり車道側を歩かなくなった。よく考えたら古い因習だよそれ、なんて思うし、わざわざ見せびらかすようにする時点でスマートじゃない。それに気が付けるくらいには大人になったはずだ。もしも今度、また友人と会うことがあったら、今度はちゃんとできると思う。あれから心の準備だけはいつも整えてる。


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