高円寺の夜、曖昧な記憶のこと。

バンドを結成した当初、高円寺のスタジオでよく練習していた。

メンバーは僕を含めて三人。

僕にとっては東京でできた初めての友達のような二人との楽しい時間だった。

いつもは二時間ばかり練習し、解散といった感じだったが、その日はなぜか盛り上がり、スタジオ後、たまに利用していたとにかく安いだけが取り柄のよくわからない居酒屋で飲むことになった。

飲んだ酒が安いくせに妙に強かったのか、とにかく皆HIGH&HIGH。

そのまま駅前のロータリーで路上ライブ。

オリジナル曲を延々、酔っぱらいながらグダグダと歌ったわけだが、当然、そんなものをわざわざ立ち止まって聴くような人はいない。

たまに有名な曲なんかやってみると案外、反応があったりして、妙に哀しくなる。

社長風のおっさんとその愛人と思われる酔っぱらいに絡まれ、(悪い人ではなかったが)ジュディ&マリーを歌わせられたり、相当まいったはずだが、その日はなにせHIGH&HIGH。

我々の勢いは止まらない。

帰ればいいのに、もう一度スタジオに入ろうとなった。

深夜のスタジオ、受付に向かうロビーのところで数人の男達が、車座で何かよく分からないものをスパスパ吸っている。

火災報知器にひっかかりそうなくらい白い煙がモクモクと部屋に充満している。

二つしかない部屋の一つからはイギーポップのような半裸のおっさん。

そんな魔窟をおっかなびっくり受付まで向かったのだが。

さて、このあとの記憶がない。

全く思い出せない。

その日はスタジオに入れたのかどうだったか。

高円寺の公園で半分眠りながらギターを弾いていて、職質されたのも果たしてその日だったか。

急に曖昧になってしまった。

そも、何故あの日は皆あんなに熱に浮かされたようにテンションが高かったのか。

白い煙を吸う前だったのに、合点がいかない。

不思議な夜だった。

音楽の魔法かな?

そんなわけがない。

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