ウイイレくん

大学生の頃、友達もなく、バイトもしていなかった。日々が長過ぎて途方がなかったので、ひたすらウイニングイレブンをやっていた時期があった。
サッカー選手の名前を際限なく覚え、モンタージュで自分の分身を作って活躍させ、行き場のない鬱憤を晴らしていた。

二部リーグ、一部リーグ、海外移籍、日本代表、日本代表キャプテン、欧州制覇、世界制覇。

チームメイトは、ババンギダ、ミナンダ、中村俊輔、リケルメ、アイマール、ラウール、マケレレ、レコバ、、、、、

分身は現実では考えられないくらい輝かしいキャリアを積み、訳わからないくらい年俸を稼ぎ、歳を重ねていく。
やがて分身もベテランになり、徐々に能力が下がり始め、引退を考えだす。
そんな分身に僕は髭を生やしたり、髪を薄くしたりして分身の人生に共に励み、共に歩んだ。

画面の中では十五年以上の時が流れ、意味のわからない達成感と徒労感を感じながら数ヶ月、僕はテレビに向かい続けた。

分身は輝かしい栄光と共に引退した。
ドラクエの最後のダンジョンをクリアしたあとのように、もうお店で買うものなど何もなく、使い道がなくなり数値でしかなくなった途方もない大金と、馬鹿のごとく積み上げた現実感のないゴール数を残して。

最後の試合での分身の晴れやかな顔を僕は忘れない。

いつか何かになりたかった。

今の僕はあの頃、分身が引退を考え始めた歳になった。
今ようやく何かになりかけている実感が湧いてきている。

ようやくだ。

分身よりもはるかに遅いスピードで、
分身のように途方もなく、
ましてや、ちっとも華やかではない、
この人生が今、僕はたまらなく愛おしい。



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