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品品喫茶譚 第96回『京都 喫茶フィガロ』

喫茶フィガロはたまに通る道沿いにある。
以前訪れたときから代がわりし、いまは若い人たちが店を営んでいるらしい。
店に入るとかなりの盛況ぶり。奥のテーブルに向かう。
席にはここ冷房めっちゃ来ますよ的なことが書かれている。
喫茶店に長居する人間あるあるのひとつに、段々冷房が身体にこたえてくる、というのがある。かどうかは分からないが、私にはあり、はるか昔、今以上に未熟だった折りには、あるチェーン店に無駄に入り浸っては、段々寒くなるその席に、身体をぶるぶる震わせ、唇は紫色、は言い過ぎにしても、歯をガタガタと鳴らし、挙句には俺を長居させないために冷房強くしてんじゃないの!? などと、ひとつも根拠がない憤りを勝手に覚え、そそくさと会計を済ますと、無言で店を飛び出したりしたものだ。見上げた馬鹿である。
冷房に一定時間当たっておれば身体が冷えるのは当たり前である。愚か者が。出直してくるがよい。という日々を繰り返し、馬鹿も流石に段々学んだ。何事も適切なことが大事! と、しっかり喫茶店での滞在時間に思いを馳せるようになり、快適に過ごせるようになった。ダラダラ長居するのは誰のためにもならない。
フィガロは親切である。冷房の強いことをわざわざ伝えてくださっている。それにつけ、この日はなかなかの夏日であった。私はむしろ冷房にあたりたかった。良い席が空いていて本当に良かった。
アイス珈琲を注文する。
入り口のガラス越しに車が行き交うのが見える。私はボーっとしながら、それを眺めるのが好きである。これは歌になってしまう。詩になってしまう。そう私くらいになると、こんなふうに嫌でも歌が生まれてしまうのである。これは少し熟成させないといけない。さささっとポケットにしまいこむ。
というのは嘘で、アイス珈琲をすすりながら、しばしボーっとした。
良い時間だった。

会計を済ませようと、席を立つ。カウンターに見慣れたブックカバーがあるのが目に入った。
竹馬の友(と私が思っている)、藤井基二さんの営む古本屋 弐拾dBのものだ。薬の処方箋みたいなあのかわいいやつである。
店にグッと親近感がわいた。よく分からないが、ありがとうと思った。
店を出ると、すごい日差しに目が眩んだ。目を細めながら通りをいく。
しかし夏みたいな気分で歩いていると、日暮れに結構寒くなるから、まだまだ油断しないこと!

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