品品喫茶譚 第111回『御茶ノ水 穂高 品品、三週間空いたのちに、またものし始めるのこと』
やれ改名だ、ライブだ、怠惰の精神だ、などと、ふにゃついているうちに喫茶譚を三週間も休んでしまった。
10月より品品(ピンポン)と改名し、ようやくアルバムタイトルや随筆集のタイトル、出店するときの名前など十年前から使ってきた割と愛着のある「品品」という名前が世田谷ピンポンズに追いつき、追い越し、ここにいたって改名となったのに、その名前を冠した「品品喫茶譚」が滞るようではしょうがない。
さて、この三週間のあいだ、私は東京に行ったりしていた。
行っていないときは翡翠によく行っていた。
私が喫茶店を訪れるたびに記録しているスマホのメモのここ三週間はこんなかんじだ。
翡翠 京都
石 京都
翡翠 京都
翡翠 京都
穂高 御茶ノ水 東京
翡翠 京都
翡翠 京都
穂高 御茶ノ水 東京
翡翠 京都
その翡翠率の高さもさることながらその間、二回も御茶ノ水の穂高に行っている。京都に住んでいるのだから翡翠率が高いのは当然だが、穂高率の高さはなんだ。私は短い期間に二回仕事で東京に行き、二度とも穂高に行っている。つまり100パーセント。これも相当である。
で、つい先日、穂高に行ったのは多摩センター駅前での『TAMATAMA FESTIVAL2024』ツーデイズの帰り道であった。
一日目、アーティストフリマというブースでおのれの古本などを売りつつ、トーク&ギグをかました。主に隣で出店していたエンニュイの長谷川さん、zzzpeakerさんとだべり、缶ビールさえ飲んだりしながら楽しい日になった。
二日目は朝から風が強く、奥のステージでのギグが中止になった。しかし、アーティストフリマは健在で、私はこの日も缶ビールを挟みつつ、古本を売り、30分くらいのギグもきめた。
イベント終わりに高円寺に向かう。
いつものペリカン時代に飲みに行き、たまたま居合わせた、高円寺住みの常連さんよりも京都住みの私のほうが会ってるんじゃないかと思われるほど、いつも高確率で遭遇するガンビーノ小林さんたちと飲む。最近、髭をたくわえている私をガンビーノさんがしきりに向井千秋の夫に似ていると揶揄してきて盛り上がる。昼間からロング缶を決めていたおかげで、私のツッコミも多少キレがあり、大いに笑った。
店を出て阿諏訪さんと合流し、飲みに行く。
途中でソノシートのお二人も合流し、楽しいお酒だった。皆、本当に優しい。身体の中心に一本、筋が通った人たちといつも関わっていたい。
で、翌日、穂高に寄った。
でかいギターを背負い、でかいトランクを転がす。不粋の極みだったが、先日来たときと同じ席に座らせてもらい、荷物も邪魔にならないところに置かせてもらった。
まだまだアイス珈琲である。
まだ半袖でいけてしまう、中途半端なのか、何か逆に決意が固まってしまっているのか分からない季節の中、相変わらずアイス珈琲をちゅうちゅう飲みながら、ここに来るまでにどこかでつまんだ(西村賢太的)本を読む。本とスマホを行ったり来たりしながら、年末までのライブの事務的なメールをいっぺんに返す。こんなことで何かした気になるのだから阿呆である。
もう一つくらい爪痕を残したい。
ふと、御茶ノ水の楽器屋でギターのセミハードケースを買おうと思った。
いま背負っているMAX(通称)は大分くたびれてきたし、何よりMAXは字面が恥ずかしい。
私にはずっと使ってきたGODINというメーカーのtric fort(だったか)というイカしたギターケースがあるのである。旅芸人の忙しなさでもう二台使い潰し、いまはMAX。MAXは頑丈ではあるが、とにかく字面が恥ずい。ここいらでtric fortに戻りたい。ただこれらが数年前から廃番になっていることも知っていた。だからことあるごとにネットの海をサーフし、血眼になって探しているのだが、なかなか見つからないのだ。
御茶ノ水ならもしかして。
そう、初めてあいつを手に入れた店に行ってみよう。
明治大学を過ぎたあたり、確かこの辺だったとあたりをつけて店に入る。
二階に上がる階段の壁にギターケースがかけてある。
ここだ。
二階のスタッフさんに話しかける。
ギターケース、ありますか?
ギターケース? 何ですか? それ?
異界に来てしまった。
店は居抜きで違う店に変わっていたのだった。
神保町まで歩く。
何度も何度も歩いた道だ。
きっとこれからもずっと歩く道だろう。
背中で何度も何度もMAXがきしんでいる。
旅に出る。これから歌を歌いに色々な街に行くのだ。