僕は馬鹿になった

高校二年生の頃、Kさんという女の子を好きになった。
二年生になって最初の体力テスト、五十メートル走のスターターをしていたのがKさんで、「ようい すたああと」という甘ったるい声に僕は見事にやられてしまったのだった。
それからは、彼女の姿を目で追いかけることだけが僕の高校へ行く唯一の目的になった。
Kさんはきれいというよりはかわいいタイプ。
鼻にかかった甘ったるい声をしていて、髪型はボブ。
つまり僕の好みのど真ん中だった。

今までろくすっぽ恋をしたこともない。
何不自由なく甘やかされて育てられた。
そんな僕が初めて狂おしいほど想いを募らせたのが彼女への恋で、初めて自分の力でどうにもならない想いに直面したのが彼女への恋だった。

Kさんは違う組の男子に恋をしていた。
Kさんはその人の事が一年生の頃からずっと好きで、しかもその人は彼女に全く興味がない。むしろ嫌っているとさえ聞いた。
僕が報われない想いで胸を焦がしているように、Kさんもまた報われない想いの中にいるのだった。
一方通行の想いが二本ひたすらまっすぐ伸びていく。
それはどこまでいっても決して交わることはない。

この頃よく読んでいたのが、ビートたけしの詩集「僕は馬鹿になった」。
大人の恋愛を詠った詩が多かったが、中には恋する自分の気持ちに寄り添ってくれるものや、全力で突き放してくれるものがあった。

ふりむかない彼女に努力するのはやめよう
恋する自分に酔ってはいけない
夢中で書いた手紙も、プレゼントも何の力も無い
彼女は何処にでもいる、普通の女の子で
ただ、君が好きではないだけだ
「普通の彼女」

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