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品品喫茶譚 第49回『名古屋 今池 ひふみ ロイヤル 七五書店を訪れるのこと』

名古屋二日目の朝は引き続き雨。
急な名古屋行きのメインの目的は一月末で閉店する七五書店を訪れることだ。
七五書店はこんな書店が自分の街にあったらそれだけで嬉しくなるような素敵な店だ。私は数年前に一度だけ店に行ったことがある程度のにわか客ではあるが、常日頃から七五書店がSNSにあげている入荷本を見て、気になった本を見つけて買って読んだりしていたので、その恩はとても計り知れない。
二〇二〇年に出した私の初めての随筆集も置いて下さった。ありがたかった。
この日は奇しくも夏葉社・島田潤一郎氏が一日店員をするという日でもあり、たまたまこの日に七五書店行きとなったのも私的には奇跡的タイミングだ。
店には昼過ぎに向かうことにして、朝は何軒か名古屋の喫茶店を巡ろうと思った。
今回はいままであまり行ったことのなかった今池を攻めてみる。

一軒目は「ひふみ」。
ここではモーニングを注文した。珈琲とトースト、バナナというシンプルモーニング。私はこういうのが食べたかったのである。
奥は常連の老人たちで埋まっており、新参者は入口すぐ近くの席に座る。しばしスマホなどこねくって、近辺の喫茶店情報を仕入れる。
本当はこんな野暮なことはせず、とにかく自分の勘だけをもって街をふらつき、そこで出会った店に入るほうが良いかもしれないが、今回は七五書店に向かう都合もあり、スマホにたよる。
元々名古屋は喫茶店の多い街だけど、どうやら今池にもたくさんあるようだ。土地勘がないから分からなかったが、少し歩けば吹上という街があり、池下という街がある。そこにも良さげな店を見つける。今回は行かなかったが、次は行きたい。
私は昔、吹上の鑪ら場、池下のGURU×GURUというライブハウスに出演したことがあるのである。

さて、二軒目は「ロイヤル」。
しばし今池の住宅街を行く。あいかわらず小雨が降りそぼっている。ウーバーが通り過ぎる。どこの街にも同じ風景がある。
店の佇まいは素敵だった。
軒先にでかい甕があるが、これがはたして傘入れなのかどうか判断がつかない。とにかくでかいし、店にはまだ先客もないようで分からない。
結局、でかい甕の横に傘を置いた。帰りに見てみると、甕に傘をさす派と私のように下に置く派に分かれていた。正解は分からないままだ。
朝食というには遅く(さっき食べたし!)、昼食というには早すぎるが、カツサンドを注文する。
全然食べられる。この店は内装も素敵だったし、トイレのタイルも可愛かった(一番下の画像、参照のこと)、なぜかトイレのドアにはピョン吉のステッカーが貼られていたが、これくらいの隙がないと完璧すぎるし、何よりこのアンバランス感こそがロイヤルをより素敵な店にしていると思った。

店を出て、今池駅に戻る。
途中で一軒の古本屋を見つけた。
なんとそこはシマウマ書房だった。と、いきなり、なんととは何ぞという話であるが、私はかの店が本山にあるころ、何回か訪れたことがあるのだ。
その文学を中心にした私好みの棚のラインナップは、いつ訪れても心が踊ったものだ。移転したのはなんとなく知っていたが、まさか偶然辿りつけるとは思っておらず、偶然性にすぐ歓喜する私はやはり歓喜した。
相変わらず買いたいものがたくさんあり、かなり吟味した結果、「よしだたくろう全集」、大江健三郎「万延元年のフットボール」の函本、侯孝賢の映画パンフレットなどを購った。店に入ると、すぐに友部正人さんの曲がかかったのも嬉しかった。

さて、十三時も過ぎたころ、七五書店に到着した。店には夏葉社・島田氏がお客さんと喋る声が響き渡っている。こういうときの私の悪いくせだが、そこですぐに氏に挨拶せずにまず棚のほうへ向かい、そこからひたすら本を見て、レジのときに挨拶しよう、みたいな感じになった。かなり長い時間、店内を歩き回っていると、休憩だったのか、店員としての仕事中だったのか、島田氏が近くに来、声をかけてくれたので、ここぞとばかりに挨拶し、雑談した。
棚から業田良家「機械仕掛けの愛 六、七巻」、土田世紀「雲出づるところ 愛蔵版」、カート・ヴォネガット「読者に憐れみを」を手に取り、レジに向かう。島田氏が紹介してくれて、店長さんにもようやく挨拶することができた。寡黙で優しい人なのだろうと思った。
帰りに外で島田氏が最近怪我したという額の傷を見せて下さった。わざわざ地面に手をついて、当時の状況まで再現して下さる大盤振る舞い。見ると確かに額の上のほうがちょっと擦れていた。サービスの人・島田氏。

七五書店、本当にありがとうございました。

その後はちくさ正文館(ここも本当に素晴らしい書店!)に行ってまたさらに本を買ったり、名古屋駅のあんかけスパゲティ屋で、隣の若い男女の
「傷つくのって悪いことなの?」
「俺は彼女のことを大好きでいたい。愛するよりも愛されたい」
とかいうキンキキッズの真逆、あんかけよりもベタついた会話がなされた瞬間に店内のBGMがビリージョエルに変わったりするなど、もっと色々書きたいこともあったが、結局のところ、みんな幸せならそれでいいじゃない。人の会話に聞き耳たてていやらしい! なんて思っていると、BGMが日本代表の絶対負けられない戦い、のあれに変わったりしてよくわからないが面白かった。
新幹線は三十分程度で京都に着く。
なんだかワープしたような変な気分になりながらあっという間に家路についた。

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