夢追い虫

スピッツの数ある曲の中で何が一番思い出に残っているかと問われれば、僕は「夢追い虫」と答えるだろう。この曲を聴くと、いつでも僕は切ない気持ちになって涙が出そうになる。

高校時代中、唯一楽しかった二年生の頃の思い出の曲なのである。

確か飯島愛原作の「プラトニックセックス」(ドラマ版)の主題歌だった気がする。

やさぐれた役が全く板についていない星野真里、「僕は種なし」というセリフを残し、死んでしまう佐野史郎など高校生にとっては翌日の教室でのネタに事欠かないイジりやすいドラマ(エッチなシーンも確か少しあった)だったので、冗談半分で観ていたのだが、ドラマの終わりにこの曲が不意に流れた時、僕は泣いてしまった。

ドラマの内容とは無関係に泣いてしまったのである。

特に「美人じゃない 魔法もない 馬鹿な君が好きさ」という歌詞は、当時、かわいくもない上に特に何の良いところもない同級生に恋をしていた僕にとっては他人事とは思えなかったし、「夢に見たあの場所に立つ日まで 僕らは少しづつ進む あくまでも」という歌詞は家で独りライブをひたすら繰り返していただけのくせに、自分をいっぱしのフォークシンガーであると思い込み、下積みを続けているつもりになっていた僕にとって感情移入するには十分だった。

その後、修学旅行で京都に行った際、昼食を食べたレストランでこの曲がたまたまかかっていたことがあり、イントロだけですでに涙腺が崩壊しそうだったが、曲がかかるやいなやニヤニヤし出した他の友達の手前、「プラトニックセーックス」などと、僕ははしゃいだのだった。

京都に住んだ今、そのレストランの前を通るたびに思い出すのである。

全然関係ないが、夢追い虫というタイトルに引っ張られ、ブックオフで買ってしまい、一行も読まずに売った武田鉄矢の「ふられ虫の唄」という本を唐突に思い出したが、こちらには何の思い出もない。



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