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品品喫茶譚 第52回『茨城 土浦~つくば ポロンと珈琲哲学、PEOPLE BOOK STOREを訪ねるのこと』

話は去年の十二月に戻る。
私は茨城・土浦にいる。
この街を訪れた理由はふたつ。
ひとつ目は「つちうら古書俱楽部」という異様にでかい古本屋に行くこと。ふたつ目はいつも通りのやつ。行ったことのない喫茶店に行くことである。駅前の立体駐車場に車を停める。駅前から繁華街が続いているが、流石に平日の昼間に人影は極めて少ない。はずなのだが、たまに遠くの路地にキャッチっぽい人がいて、なんだかおっかない。
目指す喫茶店「ポロン」はちょうど開店したばかりだった。
その日最初の客となり、早速、その日最初のカレーを注文する。
テーブルにはミッキーマウスのテーブルかけが掛かっており、その下はゲーム機だ。私の好きな喫茶店によくあるパターン。翡翠とか仙台のエルベもそうだった。ゲーム機の電源は入っていないのだが、なんだかわくわくする。他にお客のいない店はそわそわするが、その時にしか味わえない贅沢というものもある。朝に食うカレーはうまいということも再確認した。

店を出て、昔の記憶を頼りにつちうら古書倶楽部を目指す。
途中、道に迷う。
線路なのか道路なのか分からない高架下にショッピングモールみたいなものがある。が、なぜか開いている店は一軒もない。もちろんテナント募集はそこかしこ。街にそもそも人が少ないことも相まってディストピア感が凄まじい。段々心細くなってきたところに加えて、一番端っこにある自衛隊の案内所だけ煌々と電気が灯っているのが不気味だった。  
そして、つちうら古書倶楽部は定休日であった。

次の街、つくばを目指す。
ここにはずっと訪れてみたかった本屋がある。
研究学園都市というだけあって、街はニュータウンじみている。
筑波大学を中心とした街だからか、若者が多い。
新しい街ではもちろん喫茶店を探すことが最重要だが、目に入ってきたブックオフには必ず入らなくてはならない。また朝早くから行動し始めていたために、目当ての本屋「PEOPLE BOOK STORE」もまだ開いていない。
いつものように110円文庫棚、110円~220円文芸棚、文庫棚、文芸棚、うんちゃらかんちゃら、レコード、CD、ゲームまで見尽くし、何も買わずに店を出る。これではただの冷やかしであるが、最近110円でも妥協ができず、買えないことが多い。
それでもまだ時間があり、ちょっとスマホをひねくってみると、店の少し先に「珈琲哲学」という店を見つける。
珈琲美学という店は知っているがこちらは哲学、良さそうだと思って車を走らせると結構大きい店構え。
中に入るとどこかチェーン店然としているものの、店内は広く、席も多いので、近くに住んでいたら原稿を書いたり、作業するのに良さそうだと思った。
朝、カレーを食ってからそこまで時間は経っていないものの、お腹は空いている。店舗限定セットというものを見つけて注文すると、それはランチAセットと同じです、ランチAセットでよろしいですか、と優しく言われ、恥をかく。この恥のかき方は盛岡・アリスの海と同じである(品品喫茶譚第45回を参照されたし)。またやってしまった。
ランチAセットはトマトスパゲティである。
シソがたんまりのっているし、トマトもしっかりプチトマトのやつである。美味しかった。
ふと珈琲の入れられたカップを見ると、そこには「TETSUGAKU COFFEE」と書かれている。どっちなんだ。ここは珈琲哲学ではないのか。

PEOPLE BOOK STOREに行くと、すでにお客さんが沢山いた。
店主と話す内容から勝手に類推すると彼らはDJかラッパー、もしくは洋服屋さんだったと思う。もちろん皆礼儀正しい人たちばかりであろう。
それでも私はひよった。ひよりまくった。ひよりまくりながらも店に置いてある本が面白すぎて長居してしまった。田川律『シンガー・ソングライター』と『創作』を購った。
いよいよ長居していると、いよいよ店主の方が「世田谷ピンポンズの人ですか?」と声をかけてくださり、いよいよ挨拶することができた。
私は普段京都に住んでいるのである。いきなり茨城に現れることなんて普通想像もしないはずである。マスクと帽子と眼鏡で知人や行きつけの酒場の店主にすら気づかれないことのあるこの私を、である。嬉しかった。また来たいと思った。
帰り道、黄昏の畑の中に廃ボーリング場を見つけた。何枚も写真を撮った。きれいだった。
元気でいこう。無駄にひよるな。では失敬。

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