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品品喫茶譚 第70回『京都 繰り返すスタジオ繰り返す』

スタジオの待ち時間というものが苦手だ。ロビーではバンドが数組固まっており、ケタケタと笑い声を上げ、楽しそう。ひとりでアコギを背負い、汗だくの私は勝手に気後れして居心地が悪い。なのに、時間ギリギリに行くのはソワソワしてできないので、早目に着いてしまう。が、今日はたまたま予約していた部屋がもう空いていた。幸運である。
入る。
ケースからアコギを取り出す。譜面台に楽譜をセットする。わーわー歌う。ガシャガシャ鳴らす。コロナで寝込んでからサボり気味だった指の腹がすぐに痛くなる。二時間も経つと、それも少しずつ固くなってきて、わずかに鈍い痛みだけが残る。弦はピンと張っている。
出る。
会計をすましてスタジオを後にする。暑さを通り越して訳のわからなくなった街を歩く。
六曜社。
今日は一階店のほうに入る。満席に近い。一番入口に近い二人がけの席に案内される。この席は縦長の店内を入口から真っ直ぐ見渡すような位置にある。目の前には四人がけのテーブル。大学生っぽい青年らがタバコを吹かしている。スタジオの待ち時間の居心地に近いものを感じてソワソワする。横っ面を私から見つめられる形になってしまった青年もなんだか少し居心地が悪そう。申し訳ないな。本当にいい加減慣れないものから遠ざかってばかりいてはいけないなとか思う。アイス珈琲飲む。
店を出ると、暑さで訳のわからなくなった街がさらに熱せられている。
橋を渡る。駅でチャージする。改札に入り、電車に乗る。
ライブが近い。
暑さで訳の分からなくなった街の少し早めに着いたスタジオでこれから何度も何度もわーわー歌い、指の腹が再びカッチカチになった頃、私は待ち焦がれた舞台に立つ。
残暑はまだ厳しいだろうか。
風にはきっと秋の匂いが混ざり始めているだろう。

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