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品品喫茶譚 第43回『仙台 エルベにアラジン、道玄坂。そしてエビアン』

仙台に行ったのは十年ぶりだった。仙台駅を出たところの立体歩道橋?が印象的で、私のイメージもその周りに集約されていたが、今回は車だったので、郊外の方から街に入る形になった。入る場所が違うだけで、街は全然違うものに見えた。
今回の旅は一人ではない。両親も一緒だった。宮城は母方の祖母の出身地であり、かの地には母方の祖父が私の色々を祈願してくれた寺があるのである。そこを訪れるのも今回の旅の大きな目的の一つだった。

寺を後にして、宿にチェックインするころには夕刻になっていた。数件の喫茶店をピックアップし、夕食の時間まで訪れられるだけ訪れてみようと思った。一軒目のエルベという喫茶店は宿の近くにあったので、駅前をぶらつきたいという両親もついてくることになった。
ビルヂングの地下にあるその店は、アーケードゲーム機(麻雀のやつだった)をテーブルにしているタイプの喫茶店だった。私の大好きな翡翠と同じである。両親と三人でアーケードゲーム機の席に着く。ブレンドを頼むと、ドライフルーツがお茶受けとして出た。冷えた体に温かい珈琲が沁みていく。店を出ると、暗くなりかかっていた。母がドライフルーツの袋を三つ、バッグにしまった。
 
両親と別れ、アーケードを進んでいく。
二軒目はアラジンという喫茶店だった。その店は繁華街にあり、外観がどう見てもクラブっぽかった。疑心暗鬼になりながらも階段を上っていく。ここを目指して来た以上は行かなくてはならない。やっぱり明らかにクラブっぽいエントランスのところで検温をする。あのiPhoneみたいな画面に顔を映して測るタイプのやつである。しかし、焦っているし、汗っているために前髪が額に張りつきまくり、散らかりまくりで一向に測れない。横では従業員の方が静かに待っている。散らかして、散らかして、なんとか測ると、よかった平熱だった。
席に通される。広いテーブルの上には黒いライターが何本も並べられ、きれいな灰皿が積んであり、メニューを開くと、一桁間違っているのではないかというほどの高い酒が並んでいる。何より目の前にはポールダンスのステージがあり、ああここはやっぱりクラブだ。やってしまった。幸いほかにお客もいないし、従業員さんも奥に引っ込んだところだ。トイレに行くふりをして帰ろうと、リュックを持ちトイレに向かいかけたとき、女子高生二人組が来店してきた。よくこんな所見つけたねえ、パフェめっちゃおいしそうだよ、と話している。私はリュックを抱えたままトイレに行くと、何食わぬ顔で席に戻った。ほどなくして従業員さんがメニューを持ってきて下さり、そこには喫茶メニューが載っているのだった。どうやら昼間は喫茶店として営業しているらしい。
 
アラジンを出ると、外は真っ暗になっていた。
宿を出て、ちょうど一番遠いアラジンから何軒かめぐり戻ってくるようなルートを考えていたため、次に目指すのはエルベとアラジンの間にある道玄坂という店だった。
ビジネス街っぽいところを一本路地に入り、小さな公園がある辺りの角っこに店を見つけた。目印はツタの絡まった外観である。私の目の前にはまさにツタの絡まった真っ白な店が見える。とりあえず外観の写真を撮ろうと後ずさると、どうにもそこは道玄坂っぽくない気がした。バルというか、カッフェというか、若い人の経営している店に見えた。ここは道玄坂ではない。というとまるでここ道玄坂じゃない! 間違えて宮益坂のほうに来ちゃった! という東京に住んでいたころによく自分がやらかしたミスを思い出してしまうが、この店は道玄坂ではない、と私は思った。サっと後ろを振り向くと、なんと斜向かいに同じようにツタの絡まった店があった。紛らわしい。ともあれ道玄坂発見! 店に入るとメガネが一瞬にしてくもり、何が何だかわからなくなったが、奥の方の席は若者たちで埋まっていて、結構繁盛しているように見えた。マスターは初老の男性だった。とにかく店の中に置いてあるものの物量が多い。漫画は当然のこと、置物、時計、人形などで溢れかえっていた。
 
最後の一軒はエビアンという店だった。
閉店間際に駆け込む形になったが、お店の方は丁寧で親切だった。ビルの二階にある店からはアーケードを人が往来している姿が見えた。年末である。私はこの慌ただしさが嫌いではない。明日は盛岡に行ってみよう。私はそう決めると今日、四杯目の珈琲を口に運んだ。


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