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品品喫茶譚 第48回『名古屋 高岳 喫茶ボンボンは雨のなか』

19時過ぎ、思い立ったかのように京都駅から新幹線に飛び乗って向かった先は名古屋である。
新幹線であればわずか三〇分程度で名古屋に着く。八時過ぎには高岳に着き、さらにその数分後には喫茶ボンボンへ到着した。
久しぶりのボンボンは雨のなか。
店内には二組くらいお客がいたが静かなもの、まさに花金とは思えない良い意味での名古屋の夜である。
ケーキのメニューを見ながら、自分の『喫茶ボンボン』という歌を小声で口ずさむ程度には私は浮かれていた。

コルネパイ、アメリカン、レモンロール、クレメダンジュ、ダマンドタルト、ボンフラームショコラ、バケットシュー、ダンドルトルテ、ショートケーキ、ロイヤルチーズ、モンブラン

夕食を済ませていなかったので、ハムサンド。珈琲はアメリカン。閉店間際だったこともあって、ケーキは品切れのものも多かった。
ティラミス、ありません。エクレア、ありません。
抹茶ムース、ございます。
そのうち先にいた二組もいなくなり、店内は静かになる。レジ横のガラスケースの電気も消され、見れば閉店十分前になっていた。
そそくさとケーキを食べ、店を出る。雨は相変わらず降り続いている。

宿は丸の内にとった。ひどく安かった。
新しいが、おそらく元々、マンションか何かだったのだろう。通りを挟んで向かいにあるコンビニから見ると、やけに細長いホテルだ。
明日チェックアウトしたら、大島てるでも見てやろう。とはあまり良い趣味ではない。
何となくまだ時間も早く、近くのバーに行くことにした。地下へと続く階段を降りていくと、徐々に店内の騒がしさが扉越しにもわかってくる。かなり騒いでいる。大丈夫だろうか。
しかし店の佇まいは最高で、ぜひ今日はここで一杯、ウイスキーの水割りでも決めてやる。なんなら入口横にあった旨そうなメニューも頼んでやる。と、ドアを開けると、会社の新年会か大学の新年会か分からないが、何かの新年会が催されていたものの、奥のカウンターのほうでは数名が落ち着いて飲んでいる。これならば大丈夫。と、カウンターに座る。
斜め前によく分からないブルドッグの置物が置かれていて、その前に大量の一円玉が供えられている(という言い方が正しいかは分からないが)。
人はなぜ池を見ると賽銭を投げ入れ、ブルドッグを見ると一円玉を置くのだろう。とか、まあそれはいいとして、当初の予定通り私はウイスキーの水割りを注文する。
フォアローゼズの水割りで。
これは私が唯一知っているウイスキーである。
牡蠣のアラビアータと牛ハラミのステーキも下さい。
私はこれらを連れとシェアするつもりで頼んだ。
こういうバーで、あまりガツガツ食べるのはどうなのかなと思っていたのだが、隣の席で渋くウイスキーを決めていた老紳士がおもむろにステーキを食べ出したので、ああ全然自由にやればいいのだと思えたし、なんなら老紳士はステーキの皿が片づけられるやいなや到着した牡蠣のアラビアータまでペロリと平らげた。見上げた大食漢だと思った。勇気をもらった。
部屋に戻り、布団に入る。
ここからが長い夜になった。

後半へ続く。

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