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No.22 義父は義母のことが大好きだった

22年前、初めてのアメリカ訪問は、夫の家族と過ごすクリスマス休暇だった。
その年は、アトランタに住む義姉夫妻が家を開放してくれて、家族が皆、国内のあちこちから集まってきた。
私達を含めて23人でのクリスマス休暇。
クリスマスにはアメリカ中の人達が、家族や大切な人と過ごす為に大移動し、日本のお盆やお正月みたいだと思った。

夫の家族は食事の前にお祈りをする。
クリスマスのように家族が大勢集まった時は、皆がまるく大きな円になり両隣りの人と手を繋ぎ、黙祷する。そして義父が食前の祈りを捧げた。
これも私にとって初めての経験だった。
私と産まれたばかりの長女のことにふれ、
「二人をこの家族に招き入れてくれたことを感謝します」
と言ったその言葉に、義父の愛と温かさを感じた。嬉しかった。
家族の誰もが、初めて会った日本から来た一女性の私に特別扱いや遠慮や必要以上の気遣いなく、自然な態度で接していた。そのおかげで、私もリラックスしてごく自然に大家族に溶け込めた。

夫の家族はとても仲がいい。
よく話し、よく笑い、陽気な人達だ。
夫の話から仲がいいのは知っていたが、実際にこの目で見ると、まるでアメリカのホームドラマの世界みたいだった。
この時から先、何度も一緒に過ごすことになるのだが、老いも若きも、彼らのうちの誰かが少しでも機嫌が悪かったり、誰かと誰かの意見がぶつかっていたり、空気が不穏になった場面を見たことも感じたこともない。
どうしてこんなに全員がよい人なのだろう。
全員が穏やかで、明るく、聡明で、どうしてだろう?
夫は五人兄弟姉妹で、その五人全員の人柄が魅力的って、どうやったらそういう子供達が育つのだろう?
初めて会ったときからそう思い、そう思い続けていた。
義母に「子育ての時に気を付けていたことはなに?」と聞いたことがある。
私も一母親として興味があった。
義母の答えは「いつも歌を絶やさないこと」「家の鍵は常にかけておくこと」だった。
なるほど。でももっと違う答えがある気がした。

それからもう一つ。
義父はもちろん、私の夫やその兄弟姉妹、甥や姪、家族全員が義母をとても大切にしていた。
私が結婚した当時、義母は70代の半ばくらいだったと思う。
義母はまるで一族のお姫様みたいだった。
本人は上品なご婦人だったが、
「子供の頃は馬に乗って遊んだのよ。お転婆だったのよ」
というくらいなので、決してしおらしい感じではない。
けれども家族の皆からお姫様のように大切にされていた。
歩く時、少し足の悪かった義母の横には必ず義父がいて、いつもしっかりと手を繋いでいた。義父がいない時、そんなことはほぼないのだけれど、代わりに誰かが義母の横で手を繋いでいた。
車から降りるときは、先に降りた義父が助手席側にまわり、ドアを開けて義母の手を取る。
一度、家族の中の有志達がNFLだっけ? アメフトの試合を観に出かけたことがあった。義父もその一人だった。
皆アメフトが大好きらしく、ものすごく盛り上がっていた。
出かける前に義母のところに来た義父が、
「これから出かけてくるよ。君をおいていくけれど、ごめんね」と
ハグしてキスしていた。義母は笑っていた。
大好きじゃん。そう思った。
義父はハーバードビジネススクールを出て、現役時代は金融関係の会社で重役をやっていた。年をとっても落ち着いた上品な紳士だった。
チャラ男な感じではない。
義母はとてもとても大切にされているのだなぁ。義父にとって、とても大切な女性なのだなぁ。
そしてある時思った。その義父の姿を見て、周りが同じことをするのだ。
母親に、祖母に、どう接するのか。お手本があるのだ。
無意識にそうしているのだ。家系の伝統みたいになっているのだ。
きっとそうだ。
親の態度や在り方って大切だな。そう思った。
もちろん、その前に義母の人柄が愛されていたのは揺ぎの無いことだったけれど。

だから二人は仲がいい。そうだったし、そう見えた。
ああ、そうか。そういうことか。
親が仲がいい。きっとそれがこの家族の人柄の秘密だ。
ある時ふとそう思った。
輪の中心に義両親がいて、その中心を向いて周りにいる皆が一つになっていた。
二人が高齢になっても、ずっとそうだった。
いなくなってしまった今も、輪の真ん中には笑っている二人がいる。

私が初めてアトランタで家族のクリスマスに参加した時、
食前のお祈りの時に義父は家族の前で
私と長女を、「この家族に招き入れてくれたことを感謝します」そう言った。
祈りを通した義父のその言葉が、私達がもう既に家族に受け入れられているのだということを、皆に伝えてくれたのかもしれない。

私の中のアメリカの思い出は本当に幸せなもので、そこにはいつも義両親がいる。

今日も幸せな一日でありますように。

Love & Peace,

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