2022年9月29日 右乳房全摘術+腋窩リンパ節郭清術

3月から開始した抗がん剤治療の結果、癌が摘出可能になり、炎症も引いたので8月23日に入院日と手術日が決定となった。摘出手術を目指してここまで来たのでひと安心。
9月からは術前のCT撮影や平時の心電図検査、麻酔科の受診など手術に向けた準備の通院となっていた。

麻酔科の検査も終わり、ゴーサインが出たので入院。病室は最初の3日は部屋代無料の大部屋にいたが、隣の人のいびきが凄まじくて眠れない日が続いたので準個室に移動した。
もし、今後入院することがあれば迷わず個室か準個室を選びたいと思う。他人のいびきの騒音ストレスは馬鹿に出来ない。入院は快適度を重視した方が絶対に良い。

入院当日は胸部レントゲン検査、翌日はリハビリ科の問診と術前の説明。自由に過ごせる。
手術前日は施術部位にマーカーでチェックをされる。夕食は可能、夜9時からは水とお茶のみで翌日の朝6時からは水分も不可となる。緊張で眠れないのでプライムビデオで映画を観て過ごした。
ちなみに手術前日に観てあたのはチェコ映画の「アリス」


翌日。いよいよ手術当日。


事故で入院したり、緊急手術で入院となったことはあるが、今回のような手術のための入院というのは初めての経験になる。

実際の手術は医療ドラマとはかけ離れたものだった。

病室で術衣に着替える。
術衣の下は下着以外は何も身につけない。着替えて看護師が迎えに来るのを待つ。
手術20分前に迎えが来た。
寝台専用エレベーターで手術室に向かう。
歩行機や杖を使用する人は車椅子で手術室に向かうのだそうだ。

到着。

医療ドラマと違うのは、手術室が16室もあり、全ての科の手術がこの階で行われるので、人も多く割とゴチャゴチャしていたところだった。
手術の手続きを行い、別室で看護師同士の引き継ぎ業務の間に手術帽を被り、滅菌したてホヤホヤであろうドレープを膝にかけて貰う。
この時、いかにもベテランそうな私と同じくらいの年齢の担当看護師が色々と話を聴いてくれている。この人が手術室への誘導も行ってくれるのだが、とにかく話しやすかった。

手術室は12と番号の振ってある、よりによって最深近い場所だった。そこまで歩いて移動する。
ドラマのようにストレッチャーで運ばれたりはしない。先程のベテラン看護師と会話しながら移動しているうちに、徒歩で移動するのには緊張と恐怖を緩和させる効果があるのだなと実感した。

手術室に入ると麻酔科医も主治医も皆揃っている状態で、手術台にも自分で上がる。両腕を広げて寝るようになっていて、台に仰向けになった途端緊張して来た。左手の甲に点滴が入る。
その後、吸引マスクが装着され「麻酔しますよー」と声掛けがあった直後に全身がピリピリして来た。
マスクの間に隙間があるのが気になって「このマスクカタカタしてるんですけど」と言ったところからの記憶はない。

意識が戻ると右胸にズキズキした鈍痛と喉にイガイガした痒みがあった。喉風邪のような気持ち悪さ。
「もう手術終わりましたから、お部屋に移動しますよ。ご気分いかがですか?」看護師から訊かれる。
「喉が気持ち悪いです」痛みよりも数日ずっと気になってたのは喉の違和感だった。全身麻酔中の人工呼吸の管が入ってたせいらしくこの気持ち悪さは3日ほど続いた。喫煙者はこの時に肺炎を起こすことがあるらしい。

紙パンツに履き替えられており、点滴と心電図モニターが着いている。胸からはドレーンとパックがぶら下がっている。これらが終わったと同時に麻酔が覚めたのかと思うと、その完璧なタイミングがちょっと怖く感じた。
いつの間にか自分が寝ているのは部屋のベッドに変わっていて、そのまま専用エレベーターで部屋まで移動した。

部屋に到着すると病院から家族に無事に終わったと連絡を入れてることを聞き、職場や友人に連絡をしてもいい、と携帯を渡された。
家族、友人、ヤドン(彼)に「無事終わった」程度の短文のメッセージを送るだけで精一杯だった。

術後4時間後から水分が取れる。
身体を起こすことが出来たので吸い飲みではなくペットボトルでお茶を飲む。全身麻酔の副作用防止のため食事は取れない。当日は痛み止めの点滴もあってかよく眠れた。


手術翌日。

朝は検温と血圧測定、胸についてるドレーンから出る血液を受けるパッキンの血抜きが加わった。
術後の血液量は95ccでかなり多いと言われた。
血液量50cc以下がドレーンが外れる目安なのだが、この調子だと退院が遅れる可能性もあると告げられた。

朝食後、点滴と心電図が外れ、付き添いの元でトイレまで歩行し、尿のカテーテルが外れる。
病棟内の移動と胸部以外のシャワーも可能になった。こちらはドレーンと違って予定より早い。

その後の日々は血液量が減ることを祈りながら、退屈な時間を過ごしていった。
入院中の必須アイテムはポケット型WiFiだと思う。
これで好きな映画や観ていない映画を観て過ごしていたので退屈が凌げた。

退院予定日3日前に血液量が33ccとなり、ドレーンが外れる。右胸内にぐるっと巻かれ、肋骨付近からその2本の管が出ている様子は我ながら見てて痛そうではあったのに、外すときは全く痛みはなかった。

予定通り10日後に退院。

早く帰りたくて仕方がなかったので、早々と荷造りをしていると肺癌の手術で入院してる同室の高齢の方から「退院が嬉しいのは若い証拠。私は転移5回目で主人も要介護だから帰ってからが不安でたまらない。いざというとき自分で何か出来る人だから退院が待ち遠しいのだ」と言われた。

病棟内には肺癌、乳癌で入院している患者が大半だった(整形外科の患者もいた)
整形外科以外、ほとんどが高齢者の患者で転移を繰り返してる人も少なくない。

退院して帰ってから癌の再発転移の不安だけでなく、生活の不安を抱えてる人が多いのだ。


高齢者に医療のリソースを割いている、と高齢者から搾取しろという人が世には多いが、70年も生きていたら身体にガタが来てもおかしくないし、病気になりやすいのはこの高齢者世代のはずだ。リソースを割くのは必然なのだと入院中に改めて思った。

高齢者の負担も増やしてはいけない、家に帰るのが不安だ、なんて考えずに済むためにはどうすればいいんだろう、

退院手続き後、そんなことを母と話しながら家に帰った。

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