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お天道様ノ掴み方- 16

「お天道様ノ掴み方-」④

「偽リニ糺(ただ)セシ眼を-」

(場面 変わる 夜 道中)

夜道-

僕は一人、家路へと向かうため、先程あった「一連の流れ」に対して、これから自分は、どう対処をしていったらいいのだろうか、とか、最善の儀を尽くすには、一体、どうしていったらいいのだろうか、とか、そんなことを考えながら、ただ、ひたすらに、歩いていた。

-「アヤカシ」僕のことを「敵」と認識し、最終的に、僕を「取り殺そうとする」存在・・

それには「忌まわしき因縁」のようなものが絡んでいると、あいつは言っていたが・・・

僕は、今まで、そんな何者かからによる恨みなんてことは、ただの一度も、買ったことは無かったし、ましてや、その理屈に対しても、正直、微塵も理解できなかったのでいるのだが、しかし、確かにこれから僕・・、いわ、正確には、少なくとも「僕たち」は、妖の言う通り、きっと、戦わなくてはならない運命みたいなものにあるのだろう。

けれども・・、それには、果たして、本当に、先程手に入れたこの「道具」だけで、対処をしていっていけるのだろうか・・。と、僕は、ただただひたすらに心配で、他ならなかった。

妖は「いざとなったら任せろ」みたいなことを、言っていたけれど・・・

「はあ・・」

気が重い・・・。これじゃ、学校の期末テストの方が、はっきり言って、よっぽマシだ。

正直言って・・、僕は、そんな「アヤカシ」に対する感想としては、ただただ、一言「恐ろしい」の他以外に、言葉は無かった。

だからと言っても、やはり死を受け入れるなんてことは、できやしないし、それに、僕には、まだ、何と言っても、恐らくは、普通の一「ごく一般男子高校生」以外には、他ならないスタンスであるのだ。つまり、それには、まだ、僕にはやりたい事、やらなければならない事が、やり残した事が、まだ、これでもないかと言うくらいに、沢山あるんだ-

・・来るなら来い- と、そう考えていた、矢先に-

ドンッ-(誰かにぶつかる音)

「うわっ!?」

僕は、暗がりの中、しかも、殆どがその俯き加減であったためだったからなのか、正直、実は、あまり前を見ていなかった。そして、そんな中で、帰りの最中に、不意に、他の誰かと、正面から体の半分ほどを、途端にぶつけてしまう。

「す、すいません・・アテテッ-」

よろめいて、コケてしまった自分に対して、道路には、おそらく、等間隔で設置されているであろう、街灯の一本の明かりだけが、その、ぶつかってしまった相手のことを、真上から、逆光で、照らしている。

「悪ぃ!大丈夫か?・・って、ん・・?あれ?」
「いや、すいません・・僕のほうこそ・・って、あれ・・?」
「何やってんだよ、夕-」

なんと、ぶつかってしまったのは、学校の友人でもある 道野(とうの) 健 だった-

「そっちこそ・・。って、なんだ。そうか。バイトの帰りか」
「ん、まあな。しっかし、疲れたなあ〜。今日は」

健は、肩に手を当てながら、二、三度、首をコキコキし、鳴らすと、僕に対し手を差し伸べてきて、仕方が無しに「ホラ。立てよ」と言わんばかりな顔をしながら、すっ転んでコケてしまった僕に対し、助けをくれる。

「悪いな。し、しかし、偶然だな?」
「そうだなあ〜。って、お前!どうしたんだ?その顔?まるで『幽霊』でも見たような顔してるぜ?」
「あ・・ああ。いや、何でもないんだ。気にするな」
「?」

・・ついさっきまで、僕は「猫娘」や「神様」やらなんやから話を聞き、これからは、いつか、本当に、健の言っている、その「幽霊」みたいな存在と、立ち向かわなくちゃならないんだ- と、いつ、この時、誰が、どうやって、そんなことを彼に言えるのであろうかと、僕は、ただ、そう考えていた。

「・・ぶつかってきたのがお前で、正直、良かったよ」
「・・?なんだ?それ」

帰りの最中、偶然にも健と再会わ果たした僕たち二人だったが、実は、彼とは同じように、家の方向も、近い。そのためなのか、僕たち二人は、特に、何の躊躇(ためら)いもなく、彼と家路を、共にする。

・・にしたって、今日は、色んなやつに出会う日だな・・・。学校だって、もうとっくに終わっている時間だっていうのに。

「-なあ?ところでお前、こんなに遅い時間、どこで、何やってたんだ?」

・・いきなしそこを突いてくるか。

まあ、当たり前っちゃ、当たり前なんだが・・・

・・・こんなところで、彼に真相なんて、言えるわけがない。そう考えていた僕は、彼に対して、咄嗟に、こんな嘘を、途端についてしまう。

「・・別に?今夜は月も綺麗だから、さ?だ、だからそう・・。さ、散歩さ」
「散歩お?こんな時間に?お前が?」
「そ、そうさ。べ、別に良いじゃないか。別に・・・」
「ふう〜ん・・・?」
「あ!そ、そうだ!お前の方こそ、バイト、どうだったんだよ?」

-こいつ、健は、家庭内での事情もあるためか、学校には、もちろん「許可」を提出した上で、帰りの際にはいつも、街の商店街の方にある、とある居酒屋さんのお店の方で、せっせと毎日、アルバイトをしていた。

なんでも、昔は飲んだくれの上に、全く仕事をしないような、更には、自分の弟に暴力を振るっていたような、そんな、所謂(いわゆる)「ろくでもない父親」を持っていたらしいのだが、なんでも、今では何故か、その父親も、家には居ないらしい。一体何があったんだかな・・

・・まあ、きっと、彼にだって、多分、僕らには言えない、何か「特別な事情」でもあるのだろうと、僕が、最初に健からその話しを聞いた時には、確か、そんなことを、考えていたっけ・・

まあ、それでも健は、僕から言わせてみれば、普通に「いい奴」だし、友達としても、普通に良い友達である。だから、友達として、僕からしてあげられることなんてのも、響を含めての場合だと、案外、こいつにも結構、気さくにできていたりするんだ。

話は変わるのだが、母親の方は、優しくて、美人だったらしく、しかし、どうにも、足の方が悪いようで、今でも、仕事の方へはあまり、精を出せていないでいるらしい。弟さんのことだってあるだろうし、正直、こいつの甲斐性の良さにだけは、ほんとに、頭が上がらないよ。

良い奴なんだな。お前はさ-

「今日はいっつもより客が多くってなあ〜。肉も酒も、とりあえず注文が多かったっけ・・・。全く、こっちはただでさえ学校もあり日直もあったりで、正直疲れているっていうのに、オマケに、しかも、残業付きだぜ?高校生によォ。こればっかりは、さすがに、笑えないよな〜。ははははッ」
「は、ハハ、ハハハ・・それは、全く、残念だったな?」

(ふくろうの鳴く音)

時間は、もう、健のバイトの帰りからに想像するにあたって、おそらくは、夜の23時は回っていたのだろう。辺りには、もう、街灯以外、何も明かりが差し掛からない道であったせいか、僕たち以外、道中には、もう、殆ど誰も出歩いてなどいなかった。

そんな中、道が二つの「分かれ道」に差し掛かかってきた時、普段なら、僕たちはいつも朝、ここで学校に行く前に落ち合い、帰りの際、ここでいつも別れを告げる。しかし「今日の」健は、何だかいつもと違うことを、急に言ってきだしたのだった。

「・・なあ。夕」
「ん?」
「今日は、こっちの道から帰れよ」
「え?何でだよ」
「いいからさッ!」

健は、急に僕の腕を、わざわざ反対の道へ引っ張ろうとすると、僕の家の方向とは逆の、左の方の道へ、肩をぽんっと叩きながら、背中越しに「いいからいいから」と言わんばかりに、僕のことを押してくる。

「な、なんなんだよ・・・」

正直、意味がわからなかったが、健のその感じからは、何か、別の「いつもとは違う」何か別の気配のようなものを感じ取っていた僕は、健に背中を押されながら歩きつつ、健の言うことに対し、同意した。

「・・なんだってんだよ。一体」
「いやあ〜、別に?まあ、たまにはお前と、もう少し話しをしてみたいかな〜?なんて、思っちゃったりもしてよ?ハハッ」
「・・なんじゃ・・?そら・・」

帰りとは違う道を通る最中、まあ、こっちからでも、遠回りだが、一応、普通に帰れるなと考えていた僕は、なんだか、少し俯いて、僕に、何かを言いたげそうな顔をしている健だったのだが、僕たちは、二人、また、家路の方を目指し、歩き出していた。

が、その時-

「-れ。夕」
「え?」

今まで、あの出来事があってからは、分かれ道以来、何も会話を交わさなかったであろう健が、僕に対して、急に、何かをボソッと呟き始めたかと思うと、途端に、足が少しずつだが、徐々に徐々に、早歩きへとなっていく。

そして、その瞬間-

「走れ!!夕!」
「へ?!」

突如、健が、ダッ!と、正直、一体どこからそんな瞬発力が出てくるんだと言わんばかりの、猛烈なスピードで、僕の目の前を、走り出す。一体全体、何がどうしたのかまるで分からなかったが、僕は、言われるがまま、健に息を合わせるように、二人で、一斉になって、走り出す。・・もう、何がなんなんだか・・・

「-ハア。ハア。ハア」

僕は、息を切らせながらも、道中、健についていくのが、正直、やっとだった。-話は変わるのだが、実は、健は、こと「体を動かすこと」に関してだけ言えば、校内で彼の右に出る者などいなかった。これは、前に、まだ、とある有名な街の不良グループの一つの集団が、深夜方にはいつも、蔓延(はびこ)っていたのだが、彼は、ある日、たまたま夜道を散歩中に、とある学校の女子生徒たちに対し、その不良共が絡んでいた姿を目撃するや否や、なんと、その瞬間、側に立て掛けてあった「物干し竿一本」で「一人残らず全員叩きのめしてきた」という、今でさえご近所界隈では「不朽(ふきゅう)」となっている伝説があるくらいなのだ。

事の内情を説明すると、当時、彼女たちは、その不良達の全員から、恐喝やらカツアゲやらに巻き込まれていて、連日連夜、何人か呼び出されていっては、毎度の様に、しつこく請求をされていたのだという。そのことが原因で、一人は「自殺」までをも考えたらしいのだが、健は、見事に、その窮地を救ったことが起因して、なんと、警察に、一度表彰をされている。-いやあ、あの頃のお前は、正直、カッコ良かったよ。

・・僕は、何故だか、そんなことをこの場で思い出しながら、走っていると「はあ、はあ、はあ」と、息を切らしながら走っている僕に対して、健は、顔色を全く一つ変えていないで走っていたのだが、そんな彼が、僕に対して、急に、こんなことを口走ってきた。

「(走りながら)お前さ。さっきの話し、絶対、嘘だろ」
「(走り、息を切らせながら)え?」
「さっきから、何か、どうも、怪しいなと思ってたんだ・・。お前は学校の制服のままだし、それに、こんな時間に散歩なんて、普通に考えたら、絶対、変だし」
「は、はは・・は。ま、まあ、な、なんだ、その、バレてたのね・・・」
「当たり前だ!!」
「そ、それよりも、さ・・な、何で、お前、急にこんなこと、しだしたんだよ・・・」

その、走るスピードを全く緩めない健が、僕に対して、向かいながら、そして、走りながら、こう囁いてきた。

「・・お前の帰ろうとしてた道からな・・なんかこう、嫌〜な気配がしてたんだよ・・。なんかこう・・鳥肌が立つような、嫌〜な気配がな〜・・・」
「・・はあ?」
「いいから走れ!あいつら、多分、俺たちのことを追ってきやがる」
「な、な、何だってんだよ・・?一体・・・」

僕たち二人は、ただ言われるがままに、走った-

その「何か」が追ってきているという、健の嫌〜な気配とやらを断ち切る。そのために・・・

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