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お天道様ノ掴み方- ⑦

(場面 変わる 教室)

「えー、であるからしてー」

授業中-

黒板に書かれていくチョークの音だけが、僕を唯一、その授業の内容に、集中をさせる。

教師の話しは、教科にもよってだが、ほとんどが眠くなるだけで、もれなくつまらない。

僕は、右肘を机に突き、頬を手のひらで押さえながら、半ば、聞いているのか聞いていないのか、よくわからない姿勢でいた。

そう・・。これはきっと「夏のせい」なんだと自分に言い聞かし- 勉強に身の入らない自分を、そして、そんな、僕のくだらない精神性を、ただただ誤魔化していた-

すると-

-ツンツンッ(後ろからペンで背中をつつく音)

「ねぇ」
「ん?」

ちょうど、僕の後ろ席に座っていた彼女- 末永 響が、何やら僕に、小声で話しを持ちかけてくる。

「今朝の話し、何だったの?」

今朝の出来事を、まだ聞きたがっていた響に対して、僕は-

「・・だから、何度も言ってるだろ。つまらない話だよ」
「そんなことない!私、わかるもの」
「何がわかるんだよ」
「猫ちゃんを助けていたんでしょう?」
「まあ・・そうだが?」
「その猫ちゃんて、どんなだった?」
「え?確かこう・・白と茶の、まだらな・・・」

そこまで言いかけると、僕は、フッと、我に返る。・・一体、何をそんなに真剣に話しをしているのだ・・。別に、猫がどうだろうと、あれは「ただの事故」だった。そう・・・。ただ、別に、それだけの筈なのに・・

「気にするなよ」
「もうっ!」
「そこ- 私語を慎みなさい」
「あっ・・!・・ハ〜イッ」

教師に注意を促された僕たちは、小声で「てへっ♪」と言いつつも、半ばプリプリと怒っているであろう響をよそに、黒板に書かれた授業の内容を書き写す作業に、黙々と戻る。

響もモノ好きだねぇ・・

(蝉時雨)

教室の窓からは、時折、良い風が吹いてきては、夏の真っ盛りの蝉のその時雨だけが、けたたましく、ただ鳴り響いていた-

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