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お天道様ノ掴み方- 11

「話したいこと?」
「・・えっとね?何というか、その、夕君に、見せたいものがあるの・・」

見せたいもの?一体、何だろう。
響のやつは、それだけを僕に言い終えると、ちょいっちょいっと、指で合図をし-

「家・・って、わかるよね?」

「まあ・・当然だ」と、言わんばかりの顔を、僕は、彼女に見せつける。

久しぶりに訪れる幼なじみの家は、かれこれ十年以上は経っているであろうその時間の隙間を、一体どう埋めてくれるのやら-

(場面 変わる 末永家)

僕は、彼女の家に着いた。

響きの家には、当時はまだ子犬の、クリーム色の雑種犬を飼っていて、僕がよく、まだ遊びにきていた頃は、玄関先で尻尾を振ってお出迎えをしてくれていたのだが・・

「ワンッ、ワンッ!」

いた。やつだ。大きくなったな-

やつは、響の帰りに喜んでいるのか、尻尾を振って、飛びついてきた。

そして、やつは、やつはまだ、僕のことを覚えてくれているだろうか・・。
それとも、当時の頃なんてとうに忘れて、こちらに警戒心を剥き出し、敵意を見せ、歯向かってこないだろうか・・。と、少し、心配だった。

それで、やつの名前なのだが、確か、そう・・

「ただいまッ♪ラース♪」

ラース- そう。「ラース」だ。

僕がその名前を思い出す前に、彼女が、やつ- 彼の名前を呼んでみせた。それにしても・・いや、結構、でっかくなったな・・・

ラースは、今では大型犬ぐらいはあるであろう、その体で僕のところへやって来て、鼻を寄せ、クンクンとまずその匂いを嗅ぎ出す。すると、やがて僕の顔を見るなり、お座りをしながら尻尾をパタパタと振り始め、クーンクーンと鳴いてみせた。

「・・ラースッ、久しぶりだな!」
「ワンッ!」

ラースは一度、ワンと吠えると、僕の腹回りに、飛びついてきた。そして、芝生の上にもたれかかると、ラースの顔を撫でながら、揉んでやった- ハハッ、重くなったなあ。コイツ。

「覚えててくれてたんだね♪」
「ワンッ!ワンッ!」

ラースが、響の家の庭先をグルグルと回っていると、響の母さんが、家の玄関の扉を開け始める。

すると-

「なあに?どうしたの?アラッ-」
「あ・・お久しぶりです」

それは、久しぶりに見る、響の母さんだった。

「まあ夕ちゃん!いや〜しばらく見ない間に、大きくなったわねえ?お母さんや、響から、話しは聞いていたのよ?そう。最近、なんでも、事故に遭ったそうで・・」
「あ・・いや・・まあ、あの、ハイ」
「体の方は?どこか具合が悪いの?」
「いや・・実は、なんとも」
「ね!」
「今日はどうしたの?遊びに来たの?」
「・・まあ、そんな感じで・・・」
「上がって?さあ、今、飲み物でも用意もするからね?」
「あ、ありがとうございます・・」

久しぶりに会う響の母さんは、僕を歓迎してくれていたのか、どことなく、変な勢いがあった。

「お、お邪魔します・・」
「ハーイッ♪」

(扉を閉める音)

僕は、響に付いていくまま、二階へと上がり、彼女の自室へと案内される。響の家は、別段、特に変わっている様子は、無かった。

「どうぞ?今、お茶の用意をするから。好きなとこに座ってて?」

そう言うと、響は部屋の扉を閉め、小走りにタッタッタッタッと、一階へ飲み物を取りに降りていった。

僕は、鞄を下ろし、学生服のボタンを第一ボタンまで開けると、適当にテーブルの前に腰を下ろし「フウ」と一息をついた。

「久しぶりだな・・・」

響の部屋の内装は、当時よりも、より、女性らしくなっていた・・と言えば、わかりやすいだろうか。

それは、当たり前と言えば当たり前のことなのかもしれないが、幼い頃に感じた・・そう。なんと言えばいいのか、それはもう「ピンクの色一色」で統一された、あのメルヘンチックな内装とは打って変わって、今では一女子高校生らしく、地味でありつつも、また、そして可愛らしかった。

「あれ・・・」

幼い頃に撮った、僕たち二人がピースをしている写真が、部屋のコルクボードに貼ってある。

「・・あいつ、まだこんなものをとっていたのか・・・」

幼い頃の懐かしい思い出に浸りながらも、僕は、響がやってくるのを、ただひたすらに待っていた。

そして-

「ゴメンね〜?お・待・た・せッ♪」

彼女は、その両手にトレイを持ち、上には、氷の入った飲み物であろう- そして、簡単な「茶菓子」のようなものを持ってきては、用意してくれていた。

「どうぞ?召し上がれッ♪」
「あ、ああ・・」

僕は、と。まず、一つ、クッキーのようなものをいただく。と同時に、食べ終えたときに喉が渇いたので、氷の入った「冷たい麦茶」をいただいた。

「美味しい?」
「ああ。ウマイよ。」

彼女は「ウンウン♪」と満足気な顔を浮かべると、同時に、少し深妙なおもつきになっていった。

閉じた窓から微かに聞こえてくる、樹々の葉のざわめきの音が、何より少し、強くなったような感じがした。

「それでね・・?ゴメンね?急に、私の・・その、わたしの家になんか呼び出しちゃって」
「いや・・それは別に構わないが・・」

彼女は、何だかそわそわとしている様子だった。

僕は「それて一体?」と言わんばかりの表情をしていたころ、徐々に徐々にではあるが、彼女の方から、話しの口々を切り始めてくる。

「それでね?今日呼んだことなんだけど・・」
「うん」
「私ね?実はね・・?」

そう言って、彼女は、スッ- と立ち上がり、おもむろに、僕に向かって、こう告げてきたのだった。

・・それは、おそらく、この夏二番目ではあろう衝撃的な事実であり、また、正直、これは信じていいのかまだ分からなかったのだが、とにかく、その話の無内容は「笑えなかった」のである-

「実は・・私は、あの時助けてもらった猫ちゃんです!」

ハハッ-

・・いや、何だって?

もしこの場でラースが聞いていたとしたら、それはそれは、人間同様に、さながら驚いたことであったことだろう-

「真夏ノ果実ハ-」終

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