027 織姫交神
言っても変わらないのならば、
行動で示すしかないでしょう。
1022.1 織姫交神
お正月になりました。
1022年になっても、まだまだ
一族の戦いは終わりません。
前回は、大江山越え後に新たに出現した
迷宮の一つである親王鎮魂墓へ出撃し
アイテム集めに邁進しました。
筒の指南やツブテ吐き、春菜を無事に
ゲットして帰還した直後に
倒れた橘を皆で看取りました。
引き続き、家族の空気は重いまま。
織姫は淡々と仕事してるし、
仁那は言いたい事があるのに言えず
モヤモヤしたままだし……。
澪と宰牙は、落ち込んでいる蓮華の側に
そっと寄り添っています。
……皆、橘の遺言の事考えてるのかな。
橘が最後に指導してくれた成果を
聞かせてもらいましょう。
今月から宰牙も出撃できるね〜。
どこで初陣を飾ろうかな。
良い成長です。
体が辛い中で、出来得る限りで
鍛えてくれたんだ……ありがとうね……。
術の修得状況を確認した所、
春菜を覚えていたのは織姫だけでした。
ついでに光無しも修得してました。
仁那もあとちょっとで覚えられそうだから
アクセサリーで補強しとこうね。
さて、今月の予定ですが。
ここいらで織姫の交神をします。
次の当主になる御子だから、
あんまり蓮華や宰牙と年齢を離したく
ないからね。この辺りでいいかな。
遂に織姫も交神かぁ、早いなぁ。
交神の度に言ってる気もするけども、
成長が早過ぎるっすよ……。
東雲君の指導を受けて訓練してた
あのちっちゃかった織姫がねぇ……。
それじゃー、織姫の素質を見ながら
神様を選んでいきましょうか。
織姫はねぇ……強いんだよなぁ。
体火612ですよ、攻撃力の鬼。
防御が低くても有り余る体力と回避力で
それを補っています。
強いけど、全体的に風が弱いかな。
当主家は水、火、土の神様とそれぞれ
交神してきてて、まだ風の神様の血は
入ってないんですよね。
バー的には体土も低いから、その辺りを
補える風の神様を探してみようかな。
素晴らしい方を見つけてしまった。
つ、強すぎやろ……。
この風素質が欲しい!君に決めた!!
めちゃくそイケメン神様だけど、
織姫はシンプルに素質と奉納点の
兼ね合いで決めてそうだな。
好みとかは度外視してそう。
一応、お嫁に行くって感じだけど、
大丈夫か……?もっとわがまま言っても
いいのよ……?
……橘がいなくなってから、
織姫の感情が更に無になってる気がする。
お二人とも並んでみ〜〜!!
褐色美少女と色白イケメン、有りですね。
ビジュアル的にはお似合いすぎる〜〜!
福郎太様、うちの織姫をどうか
宜しくお願いしますね。
う〜ん……。優しい台詞なんだけど、
今の彼女には届かないだろうな……。
1022.2 鳥居千万宮出陣
2月になりました。
今月に、ちょっとドタバタ大騒動が
起きる事になるとは、まだ誰も
思ってはいなかった……。なんて。
織姫の交神も終わり、本格的に
各地の迷宮へ足を運ぶか〜とか
思いつつ、皆の状態一覧を開きました。
仁那が春菜を覚えてるかとか
確認したくてね。
そしたら。
に゛っっっ…………!!!!!!
嫌じゃぁぁあぁあ!!!!!!
仁那の健康度が下がっちゃった……。
このままいけば、一才9ヶ月って…コト?
長生きは長生きなのかもしれないけど
この前橘と別れたばかりだよォ…。
はぁ……。
って事は、今月が仁那にとっては
最後の出陣になるのかな。
宰牙と親子出陣できるのは嬉しいな。
部隊にダブル弓使い……ロマンじゃぁ。
さて、今月の出陣メンバーですが。
初陣の宰牙は絶対入れるとして。
仁那ももちろんラストなので入るとして。
色々考えまして。
当主を置いていきます。
織姫、留守番!!!!
……もちろん、こんな事を織姫が
許すはずありません。
まだ何の情報もない強化された迷宮に
挑むのに、当主である自分が行かないのは
彼女の選択肢には無いでしょう。
プレイヤーだって怖いですよ!!!
拳法家がいないのは怖すぎる!!!
言い出しっぺは仁那です。
織姫を置いていくなんて暴挙、
言い出すのはこの子しかいないでしょ!
漢方薬を飲んで隊長として
部隊を率いるのも、仁那です。
「あの馬鹿に思い知らせてやるのよ。
あたし達一族は、当主に導かれなきゃ
前に進む事もできないって思い込んでる
あの馬鹿当主にね!」
何故、こんな暴挙ができたかと言うと。
前月に織姫の交神してるんですよね。
で、交神って丸々一ヶ月の間
交神する子は天界にいると思うんです。
その間、他の一族の子は屋敷にいて
休養扱いになってるんだよね、確か。
なので、2月になった瞬間の
まだ織姫が天界から屋敷に向かって
帰ってこようとしている、
ほんの僅かな間に仁那隊は速攻で
屋敷を飛び出したって訳です。
帰ってきた織姫を待っているのは
イツ花せんせしかいない、
がらんどうの屋敷です。
まぁ、それこそが仁那の狙いなんですが。
それでは、参りましょう!!
仁那隊、進めー!!
目指すは鳥居千万宮!
今回の目標としては、かの強敵・萌子と
梵ピンを回収したいと思います。
もうこれからの戦いに、マジで萌子は
必要不可欠です。萌子様〜〜!
でも慎重に行きます。
げっ!飛空大将だ!
こいつら動きが速くて、逃げても
余裕でぶつかってくるのやめて欲しい。
まだ当たりたくなかったのに〜〜!!
もう少し宰牙のレベルを上げたかったが
仕方がないか…。気をつけて行こう!
まず雑魚を散らして、さぁ大将を
叩くぞという所で雷電を食らいました。
おもったいなァ!!
仁那が春菜を覚えてて良かった〜と
思っていた矢先、
まさかの連続で雷電を打たれて。
宰牙が落とされました。
連続で動くなんて
嘘だろお前。
後列に置いてても回復する間もなく
2発喰らったら耐えられる訳がない。
動揺で冷静な判断も出来ないまま
ゴリ押しで大将を倒しました。
さいが、さいが……!!
ごめんよ、本当にごめんよ……!!!
飛空大将と出会った時点で引波の御守を
使わなかったプレイヤーのミスです。
宰牙のレベルアップが十分じゃなかった。
鎮魂墓で黒ズズ大将と戦っても
何とかなったから、と油断していたから。
後悔しても足りない。
しかも、母親である仁那が
隊長をしているこの出陣でやらかした…。
マジで当時は頭が真っ白でした。
朱点戦で手に入れた養老水を一つ
念の為持ってきていました。
飲め、飲むんだ宰牙、死ぬな……。
健康度29、まだ数値は真っ赤です。
だけど、これなら死亡判定からは
逃れられるかな……。
まだ生まれて3ヶ月……。
宰牙の生命力に賭けます。
仁那、春菜を使います。
これで宰牙の体力はMAXですが、
技力は0。これ以上無茶をさせたくない。
ここで仁那に決断が迫られます。
このまま続行するか帰還するか。
まだ赤火は迎えておらず、戦果は無し。
でも息子である宰牙がぼろぼろで。
何度も出陣して慣れていたはずの迷宮は
強化されて仁那達に牙を剥きました。
とてもではありませんが、今いる場所から
奥へは行けるはずもなく。
ぐるぐると思考を巡らせる仁那ですが
隊長として早く判断しなければ。
こんな時、織姫なら……。
仁那の頭によぎるのは妹の姿。
当主としていつも一族を導き
判断し計画し行動してきた当主の姿。
織姫なら、今この状況でどうする?
「仁那さん、私が後列に下がって
無事帰還できるまで宰牙を守りながら
戦います!」
「仁那姉……。判断は任せるけど、
もう帰還した方がいいかもしれない。
仁那姉だって、漢方で誤魔化してるだけで
万全じゃないだろう?これ以上進んで、
私は家族を二人も危険に晒したくは……」
蓮華も澪も、帰還を進言します。
仁那も分かっています。
このまま無茶をするのは危険でしか無い。
帰還する方がいい。
織姫が待っている屋敷へ。
「討伐を……、続行するわ」
まだ、何も得られていない。
帰還する事は出来ない。
もうこの先の未来を生きられないなら、
後の世代の為に出来る事をしなければ。
織姫は、その為に当主で有り続けている。
当主として振る舞っている。
その彼女を屋敷に置いてきてまで、
今。仁那隊はここにいます。
今、この局面で。
仁那は織姫の行動を理解しました。
「宰牙、母さんの我儘に付き合わせて
本当にごめんね……。まだ、戦える?」
宰牙とてここで死にたくは無いでしょう。
雷電を受けた傷が完全に癒えているはずは
ありません。
それでも、母から受け継いだ高い心土と
父から受け継いだ高い心火が、
自分のせいで何の成果も無く屋敷へ
帰るという選択を認めたく無いでしょう。
「へっ……、臨む所だ」
という訳で、討伐続行します。
当時はプレイヤーも死ぬ程悩みました。
これで宰牙が死んだらどうしよう、
一回リセットしようか……とか。
プレイヤーの慢心による事故ですからね!
でも、宰牙の若さに賭けました。
健康度29でも、3ヶ月なら恐らく
大丈夫だ!!と信じました。
……これで2月終了時に帰還して
宰牙が死んだら、プレイヤーも絶命して
泣き喚きながらリセットする所でした。
宰牙……本当ごめんな……。
ここから赤火へ突入しました。
来い萌子!!そして梵ピン!!!
飛空大将へ突っ込んでいきます。
あとは萌子を回収して帰るだけ!!
赤火でも来ないの本当何なの!!??
どんだけの飛空大将と戦わなきゃ
いけないんだ!??
萌子ォォォーー!!!
お前に翻弄され続けたよォォォ!!
よくぞいらっしゃいました……。
結局青火で来るんかい。
これで目標は全てクリアできたぞー!
あとは皆で無事に帰るだけ……。
ここで、2月終了です。
皆本当によく頑張りました。
宰牙には無理させまくって本当ごめん。
澪も蓮華もよく着いてきてくれた。
萌子と梵ピンの巻物を持って、
屋敷へ帰還します。
……織姫、帰ったよ〜〜。
イツ花せんせも、お待たせしました。
当主の部屋、つまり執務室にて
織姫は待っていました。
家族皆がいなかったこの一ヶ月、
何を思っていたでしょう。
「当主」としてではなく、
「織姫」という一人の人間として、
何を考えていたでしょう。
布団に横になっている仁那の様子を
見に来た織姫に、彼女は言いました。
「……勝手に出陣した事は、謝らないわ。
でも、勝手な判断で家族を危険に晒した
愚行だけは、本当にごめんなさい……」
「もう過ぎた事だから、怒らないよ。
……どうして、こんな事したのか。
その理由だけは教えて欲しいの」
死の間際に橘は言いました。
思いは素直に口にしろ、と。
でも言っただけでは織姫はきっと
聞かないと思った仁那は
思い切って行動する事にしました。
そうしてまで、仁那が織姫に
伝えたかったのは。
「当主」としての責務から
僅かな間でも解放されて、
1人の人間としての「織姫」に戻って。
橘の死を悼んで欲しかった。
ただ、それだけでした。
屋敷にいる限り。
家族がいる限り。
織姫は当主として居続けるでしょう。
だから家族皆を連れ出して
物理的に織姫を一人にする事で、
橘の事を思い出して
その死を悲しんで欲しかったのです。
「……あたし達がいたら、
……あんたは、泣かないでしょ?」
結局。皆優しくて真面目で家族想いで、
それ故にぶつかっていました。
今回の件で、あの大江山出陣の日から
少しでも前に進めたらいいね。
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