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アーノルドはリバプールに不要な存在なのか

割引あり

リバプールFCが誇るユース出身の右SB、トレント・アレクサンダー=アーノルド。一振りで瞬時に局面を打開する彼の能力は唯一無二である。

トップチームで鮮烈なデビューを飾ってから、アーノルドはクロップリバプールの中心人物として活躍を続けている。プレミアリーグでは19-20シーズンは38試合すべてに出場、以降も各シーズン30試合以上出場している。激しいチームスタイルも相まって怪我人の絶えないチーム事情を踏まえると、彼の稼働率の高さも評価点の1つだった。

アーノルドは調子にムラがあることを誰もが理解しつつも、得点を創出する能力の高さを考慮すると、彼は必要不可欠で代替不可能な存在だった。

しかし、アーノルドが2024年1月に負傷離脱をしたことが契機となり、彼に対する評価に明確な揺らぎが生じた。アーノルドのMF化(脱SB化)を唱えるものもいれば、アーノルド不要論を唱えるものまで顕著に見られるようになった。

アーノルド不要論者の考えを大雑把にいえば、
「アーノルドがいなくても得点できる、かつアーノルドがいないほうがチームの守備力が高くなるため、アーノルドはもはや不要である」
というものである。

その考え方の是非はさておき、アーノルドがチームに不要であるという主張は理にかなっているのか。

今回は23-24シーズンのチーム状況の変化を中心に、アーノルドの存在意義について考察する。

アーノルドの役割の変遷と3-2-2-3への帰着

キック精度の高さを武器とする攻撃的なプレースタイルで、アーノルドは瞬く間にリバプールの右SBとしての地位を確立した。そして、彼の存在と脅威が世界から認知されるのに時間はかからなかった。

攻撃能力に秀ででいるSBは世界中に数多く存在するが、アーノルドが稀有であるのは、プレーする位置に依存せずに局面を打開し、即座に決定機を創出できる点にある。
たとえ自陣からでもアシストを記録できるSBはどこにでもいるものではない。

緻密な組み立てを省略し、攻撃を急加速させる飛び道具として、アーノルドは数多の得点を生み出し、クロップが体現する直線的でダイナミックなフットボールの中核を担うようになった。

しかし、優れた攻撃性能とは裏腹に、アーノルドの守備対応は不安定である。スピードこそ人並みにあるものの、簡単に相手アタッカーに突破される場面は決して珍しくない。驚異的な攻撃性能と不安定な守備対応というアーノルドの尖った特徴が認知され始めると、アーノルドの主戦場であるリバプールの右サイドは対戦相手に明確に狙われるようになった。

そのため、アーノルドの攻撃性能を可能な限り引き出しつつ、守備時のリスク管理を行うことがアーノルドをチームに組み込むうえでの命題となった。

好守バランス改善への挑戦

主力CBの負傷離脱が続出し、最終ラインが不安定となった20-21シーズンでは、アーノルドの配置に変化が見られた。彼はボール保持時に明確に内側に入り、右SBではなく右CBに近い位置を取るようになった。従来であれば両SBがサイドの高い位置を取り、疑似的にWGのような役割を果たしていたが、アーノルドは最終ラインに残り、左SB(ロバートソン)のみをサイドに押し上げる形が採用された。

アーノルドは位置に依存せず能力を発揮できるため、必ずしもサイドの高い位置にいる必要はない。ボール保持時に高い位置を取らせずに、CBとして最終ラインに残すことで攻撃から守備へのトランジション時の準備をすることが可能となる。

アーノルドの配置の変更により、直接的な得点創出機会は減少した。なぜなら、純粋なSB時よりもプレー位置がゴールから遠ざかったからである。しかし、CBに近い配置に変更したことで、サイドチェンジやロングフィード等のボール保持時の展開やプレス回避において重要な役割を果たした。そのため、アシスト等の数字に若干の物足りなさを感じることはあっても、攻撃における彼の貢献度は否定されるものではなかった。

しかし、守備面においては、ボール保持時にCB化したものの劇的な改善は見られなかった。依然として調子の良い時と悪い時の差が大きく、「アーノルド対アタッカー」の構図を作られてしまうと彼のネガティブな面が目立つことが少なくなかった。すなわち、アーノルド個人の配置と役割を変更するだけでは、チーム全体の守備時のリスクを軽減するには十分ではなかった。

アーノルドに対する諦め

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