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ダルウィンが来る?~CFヌニェス軸の秘策”ソボスライド”~

6400万£と高額の移籍金でポルトガルのベンフィカからリバプールに移籍したダルウィン・ヌニェス。22-23シーズンのリーグ戦では9ゴールと初年度にしては悪くない記録だが、期待が大きかった分物足りなさを感じてしまう。また、1試合当たりのシュート数(4.35)やゴール期待値はリーグ全体でも上位だったが、決定機を外してしまう場面がしばしば見られた。彼はストライカーとしての能力に特化しており、足元の技術などは改善が必要であると言わざるを得ない。偽9番としての能力がCFに求められていたこともあり、チームでのヌニェスの序列はシーズン途中から低下していった。

ヌニェス爆発の鍵を握る新戦力

2023年夏の移籍市場でリバプールは中盤の刷新を行った。22-23シーズンのチームの主軸であったファビーニョとヘンダーソンがサウジアラビアに旅立ってしまい、契約満了のチェンバレンやケイタ、ミルナーも合わせると数多くのMFがチームを去った。最終的にファビーニョの後釜を獲得することはできなかったが、それでもマクアリスター、ソボスライ、フラーフェンベルフ、遠藤の4人のMFの獲得に成功し、中盤の若返りと質の向上を行うことはできた。

良くも悪くもMFの大規模な入れ替えが行われたことで、ヌニェスの風向きは好転した。特にブライトンから獲得したアルゼンチン代表のマクアリスターとライプツィヒから獲得したハンガリー代表のソボスライの2人の存在はヌニェスを救うことになるだろう。

CFヌニェスの問題点

22-23シーズンでヌニェスの序列が低下した最大の要因は偽9番の役割への適性の低さにある。長らくフィルミーノが担っていた偽9番の役割はクロップ政権下においてチームを循環させるために必要不可欠であった。なぜなら、ハイプレスの採用によってMFはプレス強度に関連する能力が重視されるため、保持時の創造性が不足しやすかったからである。そのため、自陣からのビルドアップが停滞しやすかった。だからこそ、CFの選手が中盤の位置に下りてきて、ビルドアップなどの展開を補助する必要があった。

しかし、ヌニェスはストライカーとしての能力に偏っており、ポストプレーやビルドアップの補助が現時点では得意ではない。その結果、偽9番としてより優れているガクポやジョタがCFとしての序列を上げていった。ここで重要なのは、中盤で優位に立てるのであれば、必ずしもCFに偽9番の役割を任せる必要はないということである。つまり、ボールの循環時に機能不全に陥らないのであれば、ヌニェスをCFの位置で純粋なストライカーとして起用することは可能である。

マクアリスターが解放する偽9番の呪縛

マネの10番を引き継いだマクアリスター

新加入のマクアリスターは偽9番の呪縛からヌニェスを解放してくれる可能性が高い。超保持型のチームであるブライトンの主軸として結果を残した彼は、リバプールでも既に違いを生み出している。ボール保持時に低い位置でもライン間でも場所を問わず仕事ができるため、彼はリバプールにとって稀有な存在である。積極的にボールを預けられるという点において、チアゴも同様の役割を担うことができるが、彼の最大の懸念点は稼働率の低さである。怪我が多く、チームの主軸として考えるにはリスクが大きい。展開時の最大値で言えばチアゴを越える選手はいないが、稼働率を加味するとマクアリスターに分があるように思える。マクアリスターを”怪我の少ないチアゴ”と仮定すれば、彼の獲得によって中盤での優位性を確保しやすくなった。展開で違いを生み出せるチアゴと、平均点以上を安定して出せるマクアリスターの2枚看板によって、CFにおける偽9番の役割の重要性は減少した。マクアリスターを軸とした展開が定着すれば、ヌニェスは以前よりもフィニッシュに専念しやすくなるだろう。それでも偽9番としての役割の必要性は今後も残り続けるが、依存度が低下したことはヌニェスにとっては追い風である。

ヌニェス軸における最重要人物ソボスライ

ジェラードの8番を背負うソボスライ

23年夏にライプツィヒから加入したソボスライは、ヘンダーソンが長年担当していた右IHで起用され、シーズン序盤にして早くもチームの核としての役割を担いつつある。簡潔に言えば、彼は前キャプテン、ヘンダーソンの弱点を克服した”スーパーヘンダーソン”である。

ヘンダーソンはキャプテンシーでチームの全盛期を支えたが、能力には物足りなさがあった。プレスの戦術理解に優れており、クロップの哲学を体現してきた彼だが、年齢を重ねるごとに運動量と強度が低下した。もともとは守備に不安の残る右SBのアーノルドをカバーするために守備時に奔走していたが、それができなくなるとアーノルドは守備で苦戦するようになった。

守備時には一定の貢献をしていたと評価できるが、攻撃面では大きな問題を抱えていた。ヘンダーソンはIHに求められるライン間や狭いエリアでのプレーが苦手であり、ビルドアップを始めとするボールの保持時の貢献は少なかった。また、年齢を重ねてアスリート能力が低下したこともあり、彼の攻撃参加によって恩恵を得ることができなくなっていった。その結果、ヘンダーソンはチームの攻撃が停滞する原因になりつつあった。

ヘンダーソンの高齢化で生じた問題をソボスライは見事に解決した。プレースタイルの近いライプツィヒでプレーしていたこともあり、ソボスライはすぐにリバプールのプレスに適応した。ボール奪取能力が高いわけではなく、プレス時の細かな判断には調整が必要だが、現時点では致命的なミスをしていない。そのため、ヘンダーソンの移籍によって懸念されたプレス強度の低下は有難いことに杞憂に終わった。

加えて、ソボスライはヘンダーソンと比較してアスリート能力に優れている。第2節のボーンマス戦では右サイドラインで相手守備者をスピードで置き去りにし、スケールの大きさを感じさせた。第4節のアストン・ヴィラ戦では左足のミドルシュートで先制点を決めるなど、早くも攻撃面での違いを見せている。

それだけでなく、ソボスライはアーノルドの守備サポートも行う。リバプールの右サイドに侵入された際にはアーノルドのカバーに行き、時にはアーノルドが空けたスペースを代わりに埋めている。攻守における圧倒的な運動量と強度を踏まえると、ソボスライを”スーパーヘンダーソン”と言っても過言ではないだろう。足元の技術に長けているわけではないというところもソボスライをヘンダーソンに重ねてしまう理由の一つであるが。

躍進の秘策”ソボスライド”

リバプールが現在採用している4-3-3はボール保持時に3-2-2-3に陣形を変える。アーノルドが右SBからボランチの位置に入ることで、彼の展開力を活かしながら守備時のリスクを管理する。しかし、右SBのアーノルドが中に入る可変システムの仕様上、両サイドに人を割くことが難しい。そのため、ゴールもアシストもできるサラーがゴール近くではなく右サイドで幅を取る必要があった。

しかし、新加入のソボスライはチームに新たな選択肢をもたらした。

それこそが”ソボスライド”である。

ソボスライドとはソボスライが攻撃時に右サイドにスライドすることを指して作った造語である。何のひねりもない表現で恐縮だが、ソボスライドによってチームの攻撃が一段階進化する可能性がある。

ソボスライドが可能にする2トップ化

ソボスライドの最大の利点は「サラーとヌニェスの2トップ」を生み出せるところにある。サラーとヌニェスのシナジーは22-23シーズンで既に確認されており、サラーのパスからヌニェスのフィニッシュという形を作ることができていた。23-24シーズンの第3節ニューカッスル戦でも、サラーのパスからヌニェスのフィニッシュの形で得点を生み出し、劇的な逆転勝利につながった。つまり、チームの得点力を強化する上では、サラーとヌニェスのホットラインをいかに作り出すかが重要となる。

しかし、3-2-2-3においてサラーは全体のバランスを考慮してサイドに張る必要があり、右WGとCFの距離感がどうしても悪くなってしまう。そのため、3-2-2-3ではヌニェスとサラーのシナジーを生み出すことが困難であった。

そこで鍵となるのがソボスライである。3-2-2-3の陣形によって発生する右サイドのスペースをソボスライが活用できるのであれば、右WGのサラーはポジションを中に移すことができる。ヘンダーソンも同様の役割を担っていたが、ソボスライが素晴らしいのは圧倒的なアスリート能力によって単騎で右サイドを突破できる点にある。これによって、サラーは不必要にソボスライのサポートに追われることがなくなる。また、ソボスライの突破力を相手が警戒すれば、サラーがフリーになる場面を生み出しやすくなる。

ソボスライドはベーシックな4-3-3でも有効な選択肢として機能する。右IHのソボスライが攻撃時にソボスライドすれば、4-3-3から4-4-2(4-2-4)となり、やはり2トップの形を作ることができる。

おわりに

ソボスライドをチームの形として落とし込むことができれば、CF+右WGの2トップの状況を自発的に作ることができる。そうなれば、得点能力に優れているヌニェスを優先して起用する理由が生まれる。現状、ジョーカーとしての起用が目立つヌニェスだが、新戦力のフィットによってCFとして不動の地位を確立できるかもしれない。リバプールとしても大金を投じて獲得した才能の原石を眠らせておくわけにはいかない。マクアリスターの創造性とソボスライドがヌニェスを覚醒させることを期待している。






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