はじめに

 自己紹介って難しいよね。
クラス替えの度に前の席の人が発表をするようになると、頭は言おうと思っていることを繰り返し、名前を呼ばれると慌てて小さな声で立ち上がる。
 大人になっても、自分が何者かを少しの時間で紹介しなさいと言われるのは、苦手なままだ。
でもね、大人になるに連れて増えていく役職やら経歴のことは抜きにして、少しだけ自己紹介をさせてね。
 私は空を見上げるのが好きだ。夏の入道雲も、秋の鱗雲も、冬のきんとした空も、春の手の届きそうな感じも、夕焼けが刻一刻と移ろうのも、朝焼けが1日を連れてくるのも、吸い込まれそうな夜空も、みんなみんな。
 それから、植物に囲まれるのが好きだ。私は不精だから、鉢植えの花をすぐに枯らしてしまう。だけど小さな観葉植物を少しずつ集めて、日の当たる一角に彼らを住まわせている。たまに枯らしたり、ツルばかり伸びたりと気ままな彼らの命を日々、見ている。
 お花は枯らしてしまうから、そのときの気分に合った切り花を買う。本当はお気に入りの花瓶がほしいけれど、今はアップルタイザーの瓶に活ける。いちど、車の中でドライフラワーにしてしまったれど、これは良いかもとお部屋に飾るのが私。それをらしいねと言われるのが私。
 それから、活字がとても好き。特に小説や詩。作者の世界に飛び込んで今の現実から抜け出して、旅をする。本の中で私はどこにでも行ける。見たことのない土地、経験したことのないあれこれ。私は私の人生しか生きられないけれど、色んな人の人生を覗かせてもらうのだ。
 猫が好きだ。世界中で1番素晴らしい生き物は猫だと思う。ふわふわの毛並み。個性豊かだけど、みんな優雅で、気ままで、今を生きている。気に入らなければ爪を出し、気が向いたら擦りよってくる。満足いくほどに可愛がられている猫になれたら、どんなに幸せだろう。猫になりたい。
 写真も好きだ。幼いころ、フィルムカメラと一本のフィルムをもらったときに何でもないあれやこれやを写した。祖父母の庭、飼い犬、笑っている人たち、庭木、その全部は今みたいに色鮮やかでも構図も考えてないけれど、胸をうつ。お下がりのカメラを出かける度に持つのは私の習慣だった。親にお願いして、データはPCに移したのに見つからないのが残念。今はスマホがあるから便利だけど、せっかく買ったカメラをついおなざりにしてしまう。もっとカメラを使いこなして、評価される写真じゃなくて、私の思い描く写真を撮れるようになりたい。
 好きな場所は、植物の沢山あって人の少ないところ、植物園や公園みたいな、ね。それから、本が読めるところ。図書館とブックカフェは何時間でもいられる。お家なら、肌触りの良いブランケットとシーツの高級なスプリングの間。雨が降る予定のない朝にごろごろと好きな言葉の狭間を揺蕩う。冷蔵庫の音しか聞こえないような夜のコタツ。お気に入りの服屋さんの試着室、いつでも空が綺麗に見える小高い丘、良い店員さんのいるお洒落なカフェ。
 大好きな友達が描いてくれた絵や、送ってくれた手紙。詩を書いてもらった絵はがき。
 他にも好きなものは沢山あるけど、これくらいにしよう。自己紹介が、わたしの好きなものの話になってしまったけれど、わたしはこんな人です。

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