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運命の人

週末に実家に帰った妹が母とおいっこのお誕生日祝いにパンケーキを焼いたとき、先日お誕生日をむかえたわたしのぶんまでお誕生日用デコレーションをして写真を送ってくれた。

なんとやさしい妹か…
地球2周分ぐらいまわってもたぶんわたしはこんなふうに細やかでやさしい人にはなれないなあといつも思う。

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我が家は2人姉妹で学年が4つ違うこともあり、子供のころから大きなケンカはしたことがない。

やさしくて人間のできた妹は「お姉ちゃんがいつも負けてくれた」と言ってくれるけど、子供のころはお姉ちゃんお姉ちゃんとうしろをついてくる妹をどうしようもなく愛しく感じる気持ちと、どこかうとましく思ってしまう気持ちと、両方感じていたので複雑だった。
友達と一緒にいるときに妹がいると照れくさいような気持ちになったりしたこともあった。

祖父母、両親だけでなく、姉のわたしにとっても末っ子の妹は無条件にかわいい存在で、ちょっとしたことでみんなにいつもほめてもらえる妹をうらやましく思っていたこともあったなあ。
あとになって聞くと妹のほうは「お姉ちゃんはいつもみんなに期待されていていいなあ」と思っていたらしいので、子育てって本当に難しいんですね…。

それでも妹はこりずにずっとお姉ちゃん大好きを公言してはばからず、妹が大学生の頃一緒に地元の街を歩いていてお友達とばったり会ったときに「これが噂のお姉ちゃんかー」と言われ、妹がその友達にお姉ちゃんの話をしている姿が目に浮かんだ。
わたしは実家を出てもう何年も経っていたのに、妹はまだそんなふうに言ってくれているのかと涙が出そうになった。

ふたりとも大人になり、子供のころは大きかった4つの歳の差も、今となれば誤差程度に過ぎない。
そのへんがフラットになってきて、いつでも「お姉ちゃん」でいなくてよくなった今は気楽だ。

その昔うちに帰省してきた父の姉2人が祖母と夜じゅうおしゃべりするのを見て、子供のわたしはそんなにたくさんおしゃべりすることがあるもんかねと不思議に思っていたが、大人になった今なら分かる。
うちも母と姉妹で話しはじめると止まらなくて、父が「よくそんなにしゃべることがある」と呆れる。

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子供のころの妹とのエピソードのなかで、最近までずっと引っかかっていたことがあった。

わたしが小学生のときなので、妹はまだ幼稚園児だったかもしれない。
自宅から歩いて5分ほどの公園で2人で遊んでいたとき、遊具にのぼった妹がこわくて下りられなくなり、泣き始めてしまった。

なんとか妹を助けてあげたいのにどうにもできなくなったわたしは泣きながら走って自宅まで戻り、祖父に泣きついた。

その後どうなったかあまりよく覚えていないのだけれど、たしか急いでかけつけてくれた祖父のアシストで妹は無事に遊具から下りられたと思う。
いや、近くの大人がおろしてくれとったんやったかな。忘れた。

そのぐらいおぼろげな記憶のくせに、わたしが一緒にいたのに妹に危険なことをさせてしまったうえ、泣いている妹を助けられなくて申し訳なかった気持ちだけは大人になっても胸をちくっと刺したままになっていた。

つい最近になってようやくそんな話をしたところ、当の妹はそんなことは覚えてもおらず笑っていた。
大袈裟だがやっとひとつ胸のつかえがとれた気がした。
ずっと「お姉ちゃん」でいようとした子供のころのわたしに、もう大丈夫と言ってあげなくては。


***

長子のわたしは昔から心配性で繊細、末っ子の妹はおおらかでのんびり、同じ家で同じ両親に育てられたのにこうも違うかと驚く。

身内ながら本当にできた妹で、本来は妹のほうがお姉ちゃんとして生まれてくる運命だったのが、せっかちなわたしが間違えて先に生まれてしまったのでは…というぐらいのことは今も思っている。
でも、同じ両親のもとに生まれてくるという深いつながりをもって出会った妹は、ある意味わたしの「運命の人」なのだと思います。

そんな我が家のかわいい末っ子だった妹もいまや2児の母。
毎日の仕事に子育てに家事に…心の底から尊敬する。
実家に帰っておいっこやめいっこに体当たりされまくって白目をむく生活をしばらく送ると、世の親たちの偉大さに度肝を抜かれます。

数年前わたしが体調を崩したときも、妹が心の支えになってくれた。
まだ生まれて間もないおいっこをだっこして、電話で「わたしが東京まで行く!」と言ってくれたときの感激は今でも忘れない。

妹のそんな寛大さやふところの深さに姉はいつも助けられてばっかりです。
義弟には声を大にして「あなた本当に見る目あるよ」と言いたい。

やさしくて愛情深いあなたをお姉ちゃんはいつでも誇りに思っとるし、いつでも大好きよ。
いつもありがとう!
いつまでもかわいい妹でいてほしいし、仲良し姉妹でいようね。
あなたに何か困ったことがあったときは、お姉ちゃんが絶対助けてあげる。その気持ちはあの日の公園での出来事のころから変わってない。

でも万が一わたしの人生で将来のっぴきならないことがあったら妹の家の近くに住んでやろう…ふふ…という姉らしからぬひそかな目論みは、今のところ妹には内緒にしておこうと思う。

2021.4.10

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