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Living Dead in the Living Room

スプーンひとさじ5gの愛
あなたの一日が笑顔から始まりますよう

その頬はいつだって初恋の気配をにじませる
桃色に染まった柔らかなな手のひらにおさまる一杯の幸福
こぼれおちる香りが有象無象を魅了しないよう
君だけの箱庭を用意した―ようこそ、リビングルームへ
病める時も健やかなる時も、永遠をここに

10秒以内によくよくそのさじでかき混ぜて
だまになってしまえば飲めたもんじゃないわ

照明を反射して天使の輪を象ったその黒髪が好き
君と出会った季節をいつも想いださせるその頬が好き
深淵へといざなうその薄く開いた口から覗くその舌が好き
私の全てを許して包みこまんとするその両腕が好き
私の還るべき場所をいつだって示すその腹が好き
私と共に暗闇を歩んでくれるその両脚が大好きだ

君の肌はちっとも甘くない
こんなにおいしそうな桃色でいるのに

―温もりの詰まったこの部屋とあなた、相性最悪でいるのね
「私だけを想って準備してくれたの、素敵な部屋」
―その緩くなった腕じゃ長袖を着たって誤魔化せないわ
「私のすべてを愛してくれる彼に何を隠す必要が?」
―臭いだってひどいわ、香水で誤魔化したってひどくなるだけ
「あなたのための香りじゃないわ、あの人のためだけの」
―誤魔化せない、誤魔化せないのよ
愛を知らない人なのね、かわいそうに

ねえそんなに食べたら胃もたれするわ
もう私もあなたも、あのころみたいに若くないんだから

目が覚めて一番に君のその寝顔が目に入る
この世の幸福を全て詰め込んだ景色だ
柔らかく波打つシーツ合わせて広がる黒髪と左手
薬指には永遠を誓った証が今日一番目の光に照らされている
その瞼に隠された瞳の色を明かされる瞬間を
ひとりじめするために、ぼくは、ぼくは。

あなたがくれるものは全て受け入れたいの
その振り下ろす銀色だって、私だけのもの

頬に宿った熱が消えない
熟れて赤くなった実はその先に黒くなった
適切を過ぎさればなんだって腐りゆく
消費期限 腐敗臭 食中毒は忘れられない思い出
零れ落ちた腕を拾い上げてその薬指に口づける
ちかちかと味蕾が警告するそれだって君の形をしている
ここはいつだってきみのための、安寧の場所

―愛?そんなもの舌の上にのせて味わうものじゃないわ
―最初は甘くてもすぐに苦くてしびれて
―それから先何を食べても誤魔化せないから

そして目分量の隠し味がいつか
あなたの中でかたちを得られるように




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