クソゲーと呼ばれる宝物

※注意:この記事には「アスタリスクの花言葉」のエンディングまでの本質的なネタバレが含まれます。事前知識なしで楽しみたい方は記事を閉じてフレンドと時間をかけてじっくり攻略に臨むことを推奨します。






「それ何が面白いの?」

「は?なにそれ、クソゲーじゃん」

「そんなことして何の意味があるの?」

と言われて感情的に反論したことがありますか?
「なんで理解されないんだろう」と理不尽に思ったことは?

そういった経験をした時、自分が価値があると思っていたその『宝物』がまるで乏しめられたかのように感じて、憤りや悲しみを持ったと思います


何故こういったことが起きるんでしょうか

人間はそれまで経験してきたもの、何に時間をかけてきたかによって同じものを見ていても違う視点を持ち、違うことを考えます。

またこれはある意味人間のバグなのですが、対象がなんであれ人間は時間をかけて接してきた対象に強い愛着を持ちます。

だから人にはそれぞれ「客観的に評価すれば価値がないかもしれないけれど自分にとっては大切なもの」が存在するわけです

例えば自分が時間をかけてクリアして感動のエンディングを見届けたゲームの評価が世間的には「クソゲー」とされていたとか、あるいはサークルや趣味の団体などの活動で案を出し合って考えを重ね「最高の作品」が出来たと世に出してみたらほとんど評価されなかったとか、そのようなすれ違いはこういった自分と他人の視点の違いから生まれてきます

この違いは自分と他人が違うものを経験してきている以上、違うものに時間をかけてきている以上、避けようのないことです。


でも、だからこそ体験を共有することに、同じものを見て同じものに時間を使うことに価値があるのです。

体験の共有とは『宝物』の共有です。
それは他人からどう評価されていようとも覆ることのない事実です。

だから私は、体験の共有が生まれうる場というのにもまた価値があると考えています。現代の情報に溢れ、人がより手軽に消費できるコンテンツを求めていっている世界においては、それはきっと貴重で尊いものです。


さて、前置きが長くなりました。では本題に入りましょう

2019年9月13日、その技術力と知見を活かしてVRChatで様々な活動をされているヨツミフレームさんの新作ワールド、「アスタリスクの花言葉」が公開されました。

謎解きワールドとして世に出され、多くのプレイヤーの頭を抱えさせ、ほぼぶっ続けで攻略にあたっていた最速攻略組がエンディングを迎えたころには公開から約35時間が経過していた大作ワールド

ですが、このワールドの本質は謎解きではありません

このワールドの本質は、フレンドと一緒にあーでもないこーでもないと言いながら時間をかけて謎解きをするという「体験の共有」そのものにあります。

つまり先ほど書いた「同じものを見て同じものに時間をかける」、「時間をかけたことによって愛着が生まれる」が発生するように意図的に設計されているということですね

その設計が上手くいっていたかどうかは、最後まで考えてプレイしたならきっと実感していることだと思います。

また、このワールドは、プレイしている途中でも、ただ観測しているだけでも、「話題の共有」という価値を生み出しているところにも秀逸さがあります。
https://twitter.com/narazaka/status/1174201470914310145?s=20


正直、私はこのワールドに対して正直かなり高い評価を持っています。謎解きは難易度は高く、手順も労力がかかるものですが、ロジックは通っていますし、前述の意図に適したものになっています。私が作者の意図通り、フレンドと一緒に時間をかけて一つ一つ考えて攻略していったのもその一因でしょう

そして同時にこのワールドの謎解きに対して噴出される数々の不平不満に対して特に否定する気も批判する気もありません。実際私も後半の部屋の攻略中などは不満が出る場面もあったのでそういった気持ちも分かります。

ですが、それが作者が意図して設計したすれ違いだとしても、一度『宝物』だと思ったものに対して乏しめられるような言葉を向けられるのは、そしてそれが最後まで見ても覆られないようなやり方をしてしまうのは、自分の中での価値が変わらないとしてもやはり残念なものです。


「過程はいいから結果だけ知りたい」という人が世の中にはいるのは分かります。ですが、同じものを見たとしてもそこに至るまでに何を経験してきているかによってどのように見えるかは変わってきます。

だから、ただ結果だけ見ても、そこに至る過程を踏んだ人と同じものを見ることは出来ないのです。そして、一度結果だけを見てしまったのなら人間が自由に記憶を消し去ることが出来ない以上、もうその視点を手に入れることは出来ないのです。

私はそこに機会があるのなら、そこで出来るだけ多くの人が『宝物』を手に入れて欲しいと願っています。誰かが『宝物』を手にする機会を奪わないで欲しいと願っています。

『宝物』を積み重ねてゆくことが人を豊かにすることだと私は信じています


ここからはここまで読んでくれた方に、私からのお願いです。

もし、あなたがアスタリスクの花言葉の解き方と結末を全て知っていて、誰かに「エンディングを見たい」と言われたとしても、出来ればただ答えを教えるのではなく、その人がそこで何かを得られるよう時間をかけて考える時間をとって下さい。また、誰かと一緒に解くことを勧めて下さい。

あなたが手にした『宝物』が他の誰かも手に入れられるように

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