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100日で死んだワニがプロモーターに後ろから刺されて二度死んでる

100日後に死ぬワニが、昨夜100日目で死んだ。
死んだら炎上した。

この騒動に、読者としての悲しみとマーケターとして若干の怒りを感じている。

ちなみに「100日後に死ぬワニ」がどんなコンテンツなのかは説明しないので、知らない人は各自ググるか、ここでページを閉じるかしてほしい。

私とワニの関係

ここではどんなことが起きたかを私の経験に基づいて時系列でざっくり説明する。

私は101日前に、初日の漫画がRTで回ってきたのをみたのが初見。
そこから先週くらいまではツイッターでRTされてきたものだけ読んでいた。
なので読者と言ってもかなりライトな方だと思う。

先日たまたま見かけたら「残り8日」とかになっていて、
「え!もう死んじゃうんだ!」
と思って、ソワソワしてその時を待っていた。

死の前日くらいまでには

「100日目は有料noteでしか読めないんじゃない?w」

みたいな噂も冗談半分に出ており、100日目がもし有料でも、普通に買って読むかもしれないなと思っていた。

で、昨夜ワニが死んだ。

そろそろ死んでるだろうと思って作者のツイッターを覗きに行ったら、

「書籍化決定!」
「映画化決定!」
「追悼ポップアップショップ!」

と怒涛の告知。

「待ってくれ!まだ私はワニの死を見届けてないんだ!」

と思いながらいそいそと最終話を読む。

そして、余韻もクソもない怒涛の告知に、読者に優しくないと思いながら目を通す。

「いや追悼ノリノリで草」
「死んだ途端にノリノリで、富豪が死ぬのを待ってた遺族みたい」

なんてリプがついており、不穏な空気を察知して気になりつつも、翌日が早かったため就寝。

炎上の気配

一晩明けてツイッターを見ると、炎上の気配が漂っていた。

主たる批判は
「裏で電通が糸引いてた」
「余韻がない」
といったようなものだった。

マーケティングやSNSの仕事をしている人ほど
「もう少し余韻とかあったじゃん」
みたいなプロモーションの稚拙さを批判をしていた印象。

「電通案件」がツイッタートレンドに入るなど、なかなか味わい深い炎上になっている。

個人的にはこの辺りのツイートに共感した。

ちなみに、プロモーション会社は電通ではない模様。
内容確認してないけど、作者が動画出していたみたいです。

そりゃそうだ。
電通は広告代理店なのでポップアップショップや書籍化、映画化に関与しないのでは?

というわけで、ここまでが私がした一連のワニにまつわる体験。
実際の時系列は前後するかも。

読者としての感想

ここからが私の感想。

まず当然だけど、コンテンツ(作品)の評価とプロモーションの評価は別軸だと考えているので、作品の感想は作品の感想としてここに置いておく。

物語そのものを読み込んではないけど、一読者として、ワニがいかに生き、いかに死ぬのかを楽しみに(なんか語弊があるけど)してたわけだ。

元美術史学徒っぽく作品批評すれば、あれは漫画というよりも

・ワニは100日後には確実に死ぬがそれを知らずに生きている
・私たちはメタ視点で見ているのであと何日生きれるか知っており死をただ待っている

この二つを楽しむコンテンツで、パフォーマンスとかライブ配信に近いような気がする。

そういう意味では実験的で面白い作品だし、作者のきくちゆうさんは今回の騒動が本当にお気の毒様だと思っている。

私としても、もう少しワニの死を余韻をもって楽しみたかったなと思うので、その点は非常に残念。

あと、上でも触れた通り我々が楽しんでいたワニとは物語そのものではなく、メタ視点でワニの死を待つというライブ感のようなものなので、書籍で見て面白いのかは個人的には疑問。

でもネット漫画が書籍化するって、『こぐまのケーキ屋さん』とかもそうだけど夢があっていいよね。

マネタイズする手段は書籍化だけではないので、それこそ前日までに冗談半分で噂されていたように、作者が100日目を有料noteで販売した方が今よりは後味は良かったかも。
(それはそれとして炎上したと思うし、所詮結果論だけど)

マーケターとしての感想

で、残念なのはプロモーションだよ。

プロモーションのセンスが悪いせいで、読者(見込み客)の作品体験を損なったことは本当に残念なことだと思う。

加えて、結果的に最もやってはいけないコンテンツ主を貶めてしまったことが残念でならない。

私も裏方マーケターをやっていたのですごく思うんだけど、私たちマーケターは金しか生み出さない。

何かを生み出せる人のコンテンツを広める手伝いをして、金を生み出してに、その一部が自分の報酬になる。
(考え方の話であって実際の報酬体系の話ではない)

ということは、間違ってもコンテンツを毀損することをしてはいけないんだよ。

コンテンツを毀損するプロモーションは最低最悪だと思うし、同業として強い嫌悪感がある。

個人的には強いネガティヴコメント1%超えたら失敗だと思うんだけど、今日の荒れよう見ていると計測してないけど1%以上はネガティブコメントがあると思うんだよね。

多分、書籍化・映画化・ポップアップショップ、いきものがかりの人とのコラボPVというのが怒涛すぎて、気持ちがついていかないというのが多くの人の感情だと思う。

失敗原因を3つ挙げるなら以下の通り。

①SNSでプロダクトローンチを行なったこと

プロダクトローンチとは簡単にいうと期待させて期待させて、期待感のピークでセールスをかける手法のこと。

つまり100日かけて期待感を高めて、期待のピークで売ってこそないものの書籍とポップアップショップと映画化の告知をしたわけで、、

結果的に、完全なるプロダクトローンチとなった。

ちなみに、ツイッター上には最初から仕込んでいた説もあるけど、失礼ながら無名漫画家を使ってやるにはリスキーすぎる企画なので最初からプロモーターが付いていたとは考えにくい。
作者が連載始めてからオファーがあったと考える方が自然かと。

問題は、SNSは他のメディアと違って売る/売られるの関係を作りにくいこと。

マスメディアは一方通行、ネットは双方向と言われてもブログやメルマガはやはり発信者と受信者になる。

またマスメディアやブログやメルマガからは売られたりすることがよくあるので、そんなに違和感はない。

でもSNSはみんなが発信者でみんなが対等なので、売る売られるの関係を作りにくい。
SNSでは商品を売り込む文化はないし、その文化を無視したのが今回の失敗につながったんじゃないかと。

これに関してはえとみほさんのnoteがわかりやすく全面同意。

「SNSは「応援」を集める媒体であり集金マシンではない」
これは本当にその通りだと思います。

ツイッターでも書いたけど

100日階段を登ったらまさか100日目に電通が出てくるとは、みたいな戸惑いみたいなものがあるところにはある。
SNS文化は他のメディアと違って商売の文脈は薄い(メルマガ、ブログ、オールドメディアは商売の文脈が濃い)し、微妙に違うんだよな。対面セールスみたいな空気を読むスキルが試される。

※多くの人が「電通案件」だと思っていたのでそう書きましたが、実際にはプロモーションは電通ではないそうです。

こうやって一定数の読者(見込み客)を戸惑わせてしまうと、プロモーションとして失敗だと思う。

②商業の匂いが一切しない絵柄

ワニの絵柄がさ、こう、なんていうの?
ウマヘタっていうのかな。

とにかく絶妙に金の匂いがしない絵柄だなと、初めて見た時からずっと思っている。

あんまり金の匂いがしないもんだから、怒涛のキャンペーンにギャップでびっくりしてしまうというか。

そのギャップが

「騙された!」
「ずっと裏で電通が糸引いてたんだ!」(※しつこいけど電通じゃない)
「売り込まれるために100日間ワニを見届けていたわけではない!」

という強い怒りを感じる。

実際はワニは約束どおり100日目に死んだし、何も騙されていないんだけど。

だって、あれがもうちょっとアニメ的だったりする商業の匂いがする絵柄だったらまた違ったと思うんだよ。

いかにもアニメ化しそうな絵柄とかだったら、アニメ化するかなという期待感とかもあったかもしれない。
もしそういう期待が読者(見込み客)の中にあったなら「映画化決定!」という発表にももっとポジティブなコメントがついたんじゃないかな。

逆に言えば、そういう絵柄であるだけで商業の文脈に乗せるときに気をつけるべきなんじゃないかな。

③読者のワニへの愛着を軽視

結局何が読者の不満や不信につながったかっていうと、これまで見守ってきたワニが死んだことを悲しむ余韻がなかったことだと思う。

前職でよく
「マーケティングバカは数字ばっか見てお客を見ないから致命的な地雷を踏む。現場を見ろ、現場に入れ」
と言われた。

これは結局定量データ(数値)だけではなくて定性データ(見込み客の心理とか)も見ろという話なんだけど。

定量だけ見て、定性を考慮しないとこういう大失敗につながる。

これもツイッターに書いたんだけど

実在しないキャラクターでもファンが強い愛着を持っていたら、そのキャラクターが死ぬなら友人のように扱わないと反感を買うのかもしれないという仮説を立てた。
友人が死んだら、もう少し悲しみに浸りたいというか、あんなにポップに追悼できないというか。

例えばあなたの友人が死んだとして。

友人が死んで悲しいのに、その訃報と同時に
「遺言ではあなたに財産を相続させるって書いてあるけど、何かの間違いだと思わない?」
「相続放棄してくれません?」
みたいな話を持ってきた友人の親戚がいたら、不愉快じゃないですか。

「え、いま?いま金の話??」
「友人が死んだんだけど、この人悲しくないの?」
「人の心がないんじゃない?」

ってなるでしょ。
いや、自分例を出しておいて友人から相続ってどういう状況だよって感じだけど。

喩えは雑だけど、多分それに近いことが起きている。

ベストの正しいタイミングはわからないし、ツイッターには49日過ぎてからなんて意見もあったけど、せめて今日(101日目)の19時でよかったんじゃないかなぁ。

でも、こんなに読者の反感を買うようなタイミングで遠慮なく出すということは、プロモーションチームはコンテンツに愛着がないのでは?
とちょっと疑いたくもなる。

以上3点。

ま、以上の失敗分析は全て後出しなのでなんとでも言えます。

私ももしその現場にいたら一度くらいは定量だけ考慮して
「鉄は熱いうちに打て!オファーは100日目更新直後に出しましょう!」
とか提案してたかもしれません。

でもきっと私みたいに一人で裏方マーケターをやっているんじゃないと思うから、誰か一人くらいは
「いやSNSでこれはマズイっしょ!」
って止めなかったのかなぁ。

ちなみにタイトルは深津さんのツイートから。

まじでそれな。

追記.2020.03.23
ここから色々考えたものを音声にまとめました。

ワニのコンテンツとはなんだったかとか、認知獲得は成功したのか、プロモーションの会社は何をしたのかなど、雑感を話してます。