ふたりエッジ

2024.06.24
Spotify O-Crest「ふたりエッジ」
山田亮一×ハウリングフロッグあみ

こんな日さえあれば
他に何も上手くいかなくてもいい

こんな夜さえあれば
他に何も上手くいかなくても大丈夫

みんな頑張ろうね

あみさんが自分自身に語りかけるみたいに言ってフラワーカンパニーズの深夜高速が始まった。

生きていてよかった
生きていてよかった
そんな夜を探してる

生きていてよかった
生きていてよかった
そんな夜はどこだ

ゆれるのあみさんの歌声は、力強さと人間らしさの中にドス黒い悲しみが見えるような切なさがあって苦しかった。ここにいるすべての人間の中にある言葉にならない共通認識だけが救いだった。

感じることだけが全て
感じたことが全て


転換後のステージにボサボサのロン毛をひとつに結んだほとんど浮浪者みたいな風貌の山田亮一がいた。始まる前に水飲もうとして口からこぼしてスタッフさんが口拭きに来た。

ひとつふたつ冗談を言った後に、元気か!変態ども!でアパルトの中の恋人達が始まった。

ええ、本当に山田亮一だ
山田亮一がギター弾いてる
え、歌ってる
聴き慣れた音源より声が掠れてるけど
紛れもなく本物の山田亮一だ

教祖に出会った宗教信者みたいな感覚だった
ヒトラーの演説ってこんな感じだったのかなとかそんなことを考えてた
薄暗いライブハウス
ステージだけが光に包まれていた

自分の中にある希死念慮を押し込んで平然と生きることなんてもう簡単に出来る。ゲロ吐くような苦しみや痛みとバカ真面目に向き合っていたら普通になんかなれない。大人になったら涙も我慢できるようになった。誰にも触れられたくない、触れさせられない心の絶対領域だけが年々肥大化していくばかりで、普通になりたいと願うほど普通にはなれなかった。

10代の頃、催眠術師に催眠体験をさせてもらったことがあった。催眠術師と指と目を合わせてからしばらく経って、苦笑いで人への警戒心が強過ぎて君にはかけられないと言われて笑ってしまった。もうどんな凄腕の催眠術師の手にかかっても解かれない、閉ざされてしまった深層心理に音楽だけがいとも簡単に触れてくる。

無意識に張っていた心の緊張が解けて、胸の奥底に押し込んだ痛みも苦しみもその全てが湧き上がってきて歯を食いしばったけど涙が溢れて止まらなかった。

山田亮一の声は温かくて優しかった。
身体の中に血液みたいにめぐる愛情をダダ漏れにしているような雰囲気がした。かっこいいとも憧れとも違う、やっぱり教祖みたいだった。ありがとう、ありがとう、ありがとう、みんなそう呟いていた。生きていてよかった、生きていてよかった、生きていてよかった。

心で歌うな
喉で歌え
オンボロになって初めて見える価値
That's killed me
歌うのだ
失望の望を
怒鳴るのだ!!

今年の4月に23年近く住んだ地元を離れて上京した。一人でも生きていけると思った。実際、1ヶ月は目の前のことで精一杯であっという間に過ぎた。でも地元に帰ろうと思っていたGWの飛行機の料金を調べたときに、とても高くて手が出せるものではなかった。帰れない、そう思った瞬間に心の中で張り詰めていた糸がぷつんと切れて、上京してから初めて部屋で泣いた。

ライブハウスで聴くアナーキー・イン・ザ・1Kは部屋で聴くそれとは比べものにならないくらい格好良くて、孤独なんかどこにもなかった。

あの子の声も
夢の続きも
母さんが笑ったあの感じも

街のガヤガヤに歌う声も
夜を所有したようなあの感じも

全てを消して
時間が行く
問答無用で日々は巡る

俺は別段気にも留めずに
デタラメなフォルムで夜を急ぐ
触れたらお前、怪我じゃ済まないぜ

何故って俺、赤軍派
アナーキー・イン・ザ・1K

部屋で俺、思想犯
アナーキー・イン・ザ・1K

部屋で俺、革命犯
アナーキー・イン・ザ・1K

ずっと励まし続けてくれていた曲が、あのとき励ましてくれた曲になった気がした。胸の奥底に押し込んだ希死念慮を生存本能に変えられてしまったような、そんな夜。

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