林檎飴を食え
人溜りを抜けて包装紙を破く。モールの銀色が指に刺さろうが構わない。べた付いて,うまく剥がすことができない,苛立つ,過剰な赤に歯を立てる。
林檎飴とは,飴で表面を覆われた球体を串刺しにしたものだ。飴と球体と棒は決定的に相性が悪い。頭が転げ落ちる。回転する。文字通り歯が立たない。
次第に笑えてくる。いったい誰がこんなことをしでかしたか?
そもそも水分量の多い果実を丸ごと砂糖でコーティングしようという試みじたいが狂っている。時には棒が誰かの喉を貫くだろうし,汁が滴って誰かを真っ赤に染めることは避けがたい。めあごんりは名前の素朴さで許されているが,その本性はあらゆる崩壊のプロセスを楽しむアトラクションである。
だからこそ,カット林檎飴であってはならない。そこにやるべきことはなにも残されていない。単に咀嚼することは,動物のなすことである。尊厳を明け渡すな。完全に保護された球体を自らの身体でもって破壊することに意味がある。
この意味不明な砂糖を齧るのは,とりわけ真っ暗な夜がいい。数百円と引き換えに完全な時間を得るだろう。
人間的な生を取り戻したいのなら,林檎飴を食え。
2024.01.01
画像:Canva生成 〔夜,りんごあめ,破壊〕
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