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句具ネプリ春分2024 感想など

以前noteで感想を書いてから3年が過ぎていることに気が付きました。
川柳は小さい結社に所属しているものの、俳句は全くの独学。相変わらず“野良”の状態で続けています。私にとって句具句会や句具ネプリは、数少ない発表の場であるとともに、学びの場でもあります。知らない季語を調べ、誰かの鑑賞を読むことで獲得する知識や表現があって、それは川柳にもフィードバックできる財産となっています。
そういう人間の感想ですので、恐らく俳句の評としてはズレていると思うのですが、人の心を動かしたその事実は作者にお伝えしたいと思う主義なので、僭越ながら感想を書かせていただきます。

文具屋にすこしの昏さすみれ草 三倉十月
町にある小さい文具屋さんのイメージ。春は教科書販売や教材の販売で、町の文具屋に行くこともあるのですが、その時に感じるやや寂れた空気感をすみれの佇まいにうまく重ねた句だと思いました。

花時やキャリーが一つ無人駅 芝歩愛美
キャリーケースだけがぽつんと無人駅にある景色が浮かびました。人はどこへ行ったのか。電車の待ち時間に花を見に行ったのかも。句の前後の物語が見えるのでいい句だなと思いました。

絵で一句詠め卒業のサイゼリヤ いかちゃん
いつも使ってるサイゼも、卒業でもう行かないとなると、あのちょっと場違いな絵さえ惜別の句を送りたくなる存在となってきます。卒業とサイゼの取り合わせの妙があった句でした。

司書の手は棚から棚へ小鳥の巣 五月ふみ
小鳥の巣という結句にやられました。迷うことなく盛んに出入りするあの感じを、手際よく本を出し入れする司書の動作と結びつけるとは!言葉の塊である本を小鳥になぞらえるのもお洒落だ!!と二段階にやられました。

窓開く角度に桜東風匂う みづちみわ
目線の誘導がある句で、春のうらうらした風が詠みこまれているなと感じました。嗅覚というより視覚的に匂う桜です。

残る鴨だけで楽しくやつてをり 千野千佳
飄々として滲み出る楽しさがたまりませんでした。残ってる鴨には鴨の事情があるんですよね。ほっといてくれよ、という感じが好きでした。

洗顔の床びしよびしよや受験生 山本たくみ
眠いから顔を何度も洗うのか、気合を入れるためざぶざぶ洗っているのか。観察の面白さと、取り合わせの新鮮さのある句で好きでした。

三月の海へは行かせぬやうな道 四條たんし
春浅い海は、天気が良くても強い風が吹いていて、人の気配がないですよね。荒々しい冬の海の名残を残すような、海沿いの白っぽい道を思い浮かべました。映画のワンカットのようです。

免許証に春を殺したような顔 斎藤よひら
春を殺した、ということはずっと冬みたいな陰気な表情なんでしょうか。
指名手配の容疑者めいたその顔を「殺したような」という不穏な言い回しでまとめた力量は御見事。こういう句にあこがれます。

春驟雨公園砂場三輪車 原岡望
全部漢字ですが、見事に春のワンシーン。降り出した雨を公園の引きのカットから映して、砂場の濡れた三輪車のアップになる、なめらかなカメラワークを感じる句です。

花の宴いつか遺影になる破顔 ノセミコ
桜のはかなさは、命のはかなさを思う瞬間かもしれないですね。無常観が底に流れる句だと思いました。花見のたびにあと何回桜がみれるかな、と話していた祖母を思い出します。

先に目覚めてキッチンで吹く石鹸玉 西川火尖
ぼんやりとした頭で、ただなんとなく吹く石鹸玉。先に目覚めて、ということは、一人寝ではないんでしょう。夢の続きのような、あいまいな時間がふわふわ漂う感覚が好きです。

薬局の出口に春来お大事に 後藤麻衣子
薬局の前の旗に花粉症の文字が出ると、いよいよ憂鬱なシーズン到来だなあという気持ちになります。結句の「お大事に」が効いていて、ああそうかというオチの気持ちいい句でした。

他にもいい句がたくさんあって、付箋をつけると30句を越えていました。さすがに全体の1/10を超えると引用の域を超えると思い、厳選して13句に絞り感想を書かせていただきました。独学故、解釈に勘違いなどあるかもしれません。その際は、何卒お許しください。

コンテストの選者には響かなくても、地球のどこかにはこの感動を共有してくれる人がいる。その喜びだけで、3年間なんとか辞めずに続けることができています。こういう場を提供してくださった句具の中の皆様に、心よりお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

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