#1 お医者さんが外車に乗っているのはなぜ?
「こんにちは…あれ、先生だけですか?」
うむ。
「せっかくお兄ちゃんと同じ部活に入ったのに」
ツバサならジンと一緒に出ていった。一足違いだったね。
「もー入学のお祝いに原付くれるって言ったのどうなったの!
じゃあ今日は何すればいいのかな…」
教材になる車もないし、やることもない。一緒にテレビ見るかい?ミステリーの再放送、これからいいとこだ。
「(ここの部、大丈夫なのかな…)」
お医者さんの車
「あ、レクサスだ。5台も!
…さっきからトヨタとレクサスしか出てこないね」
大人の事情ってやつだな。個人医院だから輸入車を置きたいところだが、LSやCTならあってもおかしくないだろう。スポンサーが提供してくれたのかもね。
「レクサスはいいの?」
あれは日本車だ。県内でも造ってるよ。
「よく分かんない…近所のお医者さんだとレクサスも、ベンツも、びーえむも…あとなんだっけ? なんで病院だと外車なの? もうかるの?」
ググれ。
「そんなあ! 先生、車の先生でしょー?」
せんせいだって知っていることしか知らないよ。ま、僕の持論は一旦置いといて、ググッてみよう。1)税金対策 2)ステータス 3)よそも外車乗ってるから こんなところかな。
「わたしもお医者さんになれば、びーえむに…」
医者を志すのは結構だが、きみんちだったらNSXとかレジェンドじゃないのか。ともあれ、べるのがさっき言った「儲かっている」ように見せるために高級車を選ぶというのもあるんだろう。「外車=繁盛している病院」という風に世間から見られるとしたら…
「普通の車しかないと患者さんに困ってる病院に見える?」
…これも1つの商売道具と考えるなら、どんな業界だって「プロらしく見える」モノを揃えることには意味がある。と、これは現在での話。
べるのは往診って知ってるかい?古い映画やドラマで医者が黒いかばんを持って…
「ビートルに乗って来るやつだ!」
救急車が普及する前、ビートルことフォルクスワーゲン・Type1は開業医のシンボルだった。ノントラブルで患者のもとにたどり着ける信頼性。輸入が始まったのはメンテナンスフリーに進化したスカイラインが出る10年も前、プロトタイプの製作はなんと戦前だ。
「だから外車=お医者さんなんだ!日本の車はだめだったの?ホンダ車は?」
ホンダは4輪参入前、2輪もまだスーパーカブ以前で、トヨタが出したクラウンはアメリカで返り討ちになったほど当時の日本車は未熟でな…
(ばしーん!)「ちょっと待った!ばーん!」
…ありなさん扉は静かに開けてね。あと効果音は叫ばなくていいです。
お医者さんの車から、みんなの車へ
「忘れ物はなんですかー?スズキを忘れていませんかー?」
スズキ絡みのキャラってどうしてこうなの…
「日本で初めてのフロントエンジン・フロントドライブ、軽自動車でもちゃんと4人乗れるスズライト!最初のお客は女医さんだったんだから!」
スバル・360の3年前、完成度という点では比べるべくもないが…ともあれ、クラウンやビートルの半額ほどで「4人乗せて走れる」車が登場した。当時70万台だった乗用車は現在6000万台、しかもこの数字にはオート3輪も含まれている。3輪やスズライト以前の実用性が疑問の軽自動車を除く登録車は15万台ほどで、まともな乗用車というのは現在の400倍も希少だった、ということだね。こうなりゃ軽四だってステータスだ。
「だったら自動車部の教材はスズキ車で決まりね!べるのちゃんもそう思うでしょ!」
「えー?わたしは…」(自動車図鑑を捲る)
4人乗りと言っても後席は大人には辛いパッケージングだし、肝心の信頼性はどうだったのかな?まあ自家用車があれば急患にも対応できるし、2輪と比べれば屋根付き・ドア付きというだけでも天国だ。3輪は操縦性に難がある。国産4輪車の普及は必然であり、その先駆けとなった1台と言えるかもね。
ところで僕の車を今度持ってくるから、それを教材にして…
「あっ、これだー!」
「どしたのべるのん?」
「先生、近所のお医者さんに停まってるの、これです!」
アルファかよ…急患、助からないかもなあ…
本日の結論:医師という職業は外車と切り離せないものなのです。
べるの─本田さん家の妹。1年生。好きなバラエティはイッテQ。
ありな─鈴木さん家の妹。2年生。好きな音楽番組はMステ。
せんせい─自動車部の名誉顧問。好きなドラマは西部警察。
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