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『メメント・モリ』(創作小説)

ある日、占い師の元に1人の女の子が訪れた。
その女の子は背丈は140センチほどで、紫のtシャツとジーパンを身にまとい、髪をツインテールに分けたあどけない少女だった。見た目から判断するに小学校高学年だと察された。女の子は占い師に言った
「飼っていた犬が死んで毎日が辛いです。どうすればこの辛さが解消されますか?」
今にも泣きそうな声で少女は聞いた。占い師は少し考え、言った。

「では、とっておきの方法を教えてあげましょう。これをすればあなたの辛さは立ちどころに消えるでしょう。ただし、条件があります。」
女の子は真剣な目で占い師を見つめた。
「これまでに辛い別れを経験したことが無い人の写真を撮って、それをスマホの待ち受けにしなさい。そしてそれを私に見せるのです。そうすればとっておきの方法を教えてあげましょう。」
女の子は藁にもすがる思いだったが、そんなことならと張り切ってつらい別れをしたことがない人を探し始めた。まず、両親に尋ねた。しかし、父親は親しい友人との別れ、母親は父親、女の子の祖父にあたる人物との別れを経験していた。女の子にとっても祖父の葬式は記憶に新しい。女の子は学校の友達に尋ねてみた。しかし、彼らも友達の転校やペットの死、好きな先生との別れを経験していた。では弟ならどうかと思い、女の子は弟に聞いてみた。弟は可愛がっていたカブトムシが死んだことを思い出し、それを語った。

女の子は考えた。赤ちゃんならまだ辛い経験をしていないだろうと。早速、親戚の家の赤ちゃんに会いに行った。事情を聞いた親戚の女性が生後1年に満たない赤ちゃんを女の子に見せてくれた。女の子はやっと辛い経験をしていない人を見つけたと安堵した。しかし、赤ちゃんの母親が女の子をもてなそうと赤ちゃんをベビーベッドに戻した時、赤ちゃんは急に不安になったのか、大声で泣き叫び始めた。女の子は気がついた。この世に辛い別れを経験したことがない人などいないことを。そして占い師の本意を理解した。

女の子は占い師に礼を言いに行ったが、女の子が占い師と出会った場所には誰もいなかった。女の子の頬に秋風が吹いた。今年も冬がやってくる。

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